対峙―④―
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サキは"命導巧":"フェイス"の蒼白色の刃で、オーツの分銅型"命導巧":"アンダー・プレッシャー"の片割れを斬った。
斬撃に弾かれた分銅型"命導巧"が、オーツへ戻っていく。
夕暮れ時。
市役所は西日を背に建っている。
サキ達は、夕陽の作る影に覆われる"政市会"陣営からの攻撃に苦戦していた。
――見えにくいな……。
夕陽を背にしている"政市会"。
直接戦うことに分を悪く感じているのか、物陰から"スウィート・サクリファイス"を撃っている。
それに加えて、オーツの"アンダー・プレッシャー"がその間を縫うように、サキとブルースを"政市会"陣営から遠ざけるように攻撃。
この作戦は意外と彼らにとって有効だった。
サキとブルースは、目標に近づけない。
頭痛の種だった。
「サキ、大丈夫か!?」
ブルースは、入口の植え込みに身を屈めて言う
「突っ込めないから、キツイかな?」
サキは植え込みの影から顔を出して、周囲を見る。
西日を背に立つ市役所。
その正面では、ロックと"銀鏡色"の鎧を纏った人物が衝突。
"花鎧"が三条の側にいた以上、"政声隊"側であるのは明らかだった。
しかし、"政市会"にとっては、二人が敵ではあるものの、その戦いの激しさに手を出せない。
同時に"政声隊"にとってもロックも脅威であることは変わらないが、彼から放たれる獰猛な戦意が加勢はおろか、駆け寄ることすら許さなかった。
次に、一平と龍之助だが、二人の戦いも続いている。
一平の持っている"命導巧"――マンションで"ライオンハート"とサキは聞いた――による、射撃で距離を詰める。
対して矛槍型"命導巧":"セオリー・オブ・ア・デッドマン"から発射した水の弾丸で、龍之助は一平を遠ざけた。
時折、一平から距離を詰め、接近戦に持ち込んでいる。
一方で、南側の駐車場にいる、サミュエルとシャロン。
"命熱波"を使える三条を標的に攻撃し、"政声隊"が彼女を守っていた。
サキとブルースが、オーツ。
一平が、龍之助と戦う。
最後は、ロック、サミュエルとシャロンが三条を抑える。
以上の組み合わせで戦況を乗り切ろうとした。
そんな中"花鎧"が乱入して、ロックを三条から突き放す。
加えて、"薄紫色の牙"という女性の放った煙幕で"政市会"と"政声隊"の攻撃を封じていたが、それはすでに消えていた。
サミュエルとシャロンが、三条の大きな両手の攻略を試みているが、"政声隊"の赤、白、青緑の人型から放たれる炎、氷と雷の攻撃に阻まれている。
"薄紫色の牙"が、彼らに援護射撃をしているが、突破口に欠けていた。
――あれ?
サキはふと考えた。
"薄紫色の牙"の姿だが、どこかサキの中で引っ掛かる。
その理由がわからない。
思考を変えることにして、視界を"政市会"陣営に向ける。
鍛冶 美幸を中心に"命熱波使い"のオーツが守っていた。
駐車場の北側を拠点にしている"政市会"を見ながら、
「そういえば、オーツってロックと戦ったって……」
サキはブルースに話題を振る。
サキの知らない情報。
それが突破口になると考えた。
「ああ……"スコット決死隊"はロックと戦って、いずれも身体の一部に大けがを負った。オーツの場合は両眼だ」
ブルースも"政市会"に目を向ける。
彼が舌打ちをすると、
「両眼から脳にいたる致命傷を負ったが、"リア・ファイル"がそこを修復。"命導巧"を通して、視界すべての情報を把握できる能力を得た」
「……じゃあ、"アンダー・プレッシャー"は"ドローン"の様なもの?」
サキの言葉に、ブルースが頷いた。
「同時に、オーツはそのモデムでwi-fiも担っているな……」
噴水の向こう側で、オーツの上からこちらまで接近するが、円を描いている。
つまり、射程があった。
考えていると、サキはある人物に目が留まる。
――……堀川君?
髪が短く、小綺麗な同年代の男子だ。
彼が"政市会"の側で、"スウィート・サクリファイス"を構えている。
彼とはあまり会話をしたことがない。
そもそもクラスが違うから無理もなかった。
"政市会"の中でも"同年代のまとめ役"を彼が担っている。
人伝で知っていたので、この場にいることは、状況的に珍しいことではない。
しかし、彼の目線の先にいる少女。
それが、サキの中で引っ掛かった。
――……秋津さん!?
堀川が、長髪を二房に分けている"S,P.E.A.R."の代表の少女を見ている。
ロックが大乱闘した時、堀川が敵対団体である秋津を庇っていたのを思い出した。
「ブルース……あの、堀川っていう"政市会"の小綺麗な男の子、見える?」
サキに促されて、ブルースが見る。
彼が頷くと、
「ブルース……"政市会"は、地理的優位に加えて、第一の壁で"スウィート・サクリファイス"を構えた"政市会"と第二の壁としてオーツ……それがややこしくしているのよね?」
サキの確認に、ブルースが曖昧に肯定する。
「だから、ブルース――」
サキの言葉に、ブルースが耳を傾けるが、
「出来るのか、サキ?」
サキは強く頷いた。
「"ヴァージニア"、"ライラ"、二人で攻撃して!! アレを!!」
"命熱波"の二人の守護者――短髪の少女と鶏冠の少女――が出てきて、
『よし来た!!』
『承知しましたわ』
二人が交戦の意思を見せると、ブルースが駆け出した。
彼女たちに反応したのは、オーツの"アンダー・プレッシャー"。
"政市会"会員も遅れて、"スウィート・サクリファイス"をサキ達に向ける。
羊の頭蓋骨から放たれる、青白い弾丸はブルースに集中。
彼が、"磁向防"を発動させて、凌ぐ。
「"磁向防"!! "命熱波使い"として当然だが、この攻撃には耐えられねぇぜ?」
オーツの勝ち誇った笑み。
彼の言う通り、"磁向防"は"命熱波"による攻撃を防ぐ。
しかし、万能ではない。
直撃は避けられるが、衝撃によるダメージは別だ。
つまり、"磁向防"は削ぎ落され、致命傷は免れない。
しかし、ブルースの笑みが崩れない。
それをオーツが眼に焼き付けた時、それが起こった。
何かが爆発する音。
それは、市役所前で戦う者たちの眼を奪った。
その中で、最も戸惑いを隠せなかったのが、
「――"アンダー・プレッシャー"が!?」
"スコット決死隊"のオーツ。
彼の目に、大きく上る水の柱が映った。
背が高く、肩幅の広い男は、あまりの光景に動転する。
しかし、彼の目を奪ったのはそれだけではない。
突如、荒れ狂う光の乱反射。
それが、"政市会"会員たちの手足を貫く。
サキは戸惑うオーツに、飛び込んだ。
彼女は"フェイス"の横殴りの斬撃をオーツの腹にぶち込む。
"磁向防"の手ごたえを感じたが、オーツがその衝撃にくぐもった息を漏らした。
『さて、やっちゃおうか!!』
短髪の守護者、"ライラ"の右腕の剣がオーツを上から両断した。
"磁向防"が火花を散らした斬撃が、オーツの顔を歪める。
『飛びなさい!』
"ヴァージニア"の右手の弓から、結晶の鏃も放たれた。
オーツの腹に命中すると、光が弾ける。
弾けた光の欠片が、オーツの全身を貫いた。
サキの目の前で倒れるオーツの向こうで、
「確保!!」
ブルースが、堀川を羽交い絞めにして叫んだ。
"政市会"会員が、"スウィート・サクリファイス"を突き出す。
しかし、ブルースの気迫に勝てず、彼らは、ややあって羊の頭蓋の銃を下した。
堀川を確保したブルースと、オーツを倒したサキの対角線上。
その先に、鍛冶が立つ。
目の前の結果に動じず、肩をすくめて、
「……なるほど、オーツの"アンダー・プレッシャー"を停止させるために、噴水を壊しましたか」
鍛冶の指摘した通りだった。
オーツの頭脳で操っている、分銅型"命導巧":"アンダー・プレッシャー"。
その役割は格闘戦の分銅に限らず、"ドローン"の代わりとしても使えた。
破壊された視神経と脳をモデム代わりに、オーツが"アンダー・プレッシャー"を上空に飛ばす。
"政市会"会員達が"スウィート・サクリファイス"で守りを固めることで、要塞を作り上げた。
しかし、そこには致命的な弱点が一つだけあった。
水は電波を通さない。
"アンダー・プレッシャー"の射程内にある噴水を壊すことで、サキはその空白を作った。
更に、"ヴァージニア"による破壊で散乱した"フォトニック結晶"を噴水の周りに展開。
"ライラ"の放ったレーザーを結晶の大小問わず粒子を通し、"政市会"会員たちに向けて散乱させる。
その間にブルースが堀川を確保したのだ。
「見事です……まあ、市販のWi-Fi製品に後れを取ることが"命導巧"は無いですが、それでも空白は一瞬できますからね。でも、終わりです……"彼女"が来ましたから」
サキの目の前の鍛冶の背後から、雷が疾走った。
雷がツタとなり、"政市会"会員を捕らえる。
「……お腹が空いたわ……すごく寒いわ……」
白いハーフコートを着た女。
その肌には、銀経色が微かに混ざり、痩せこけている。
サキは、前に写真で見たので、名前は知っていた。
「……エヴァンス」
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