薄暗い裏路地での任務
月明かりに照らされないこの街ルクシアでも人気がない裏路地の前に俺は立っていた。入口から奥を見ようとしても薄暗さが重なりもはや見通すことは困難であった。
着ている着物の裾が夜風にあたり僅かに揺れる。長い髪も肩口で揺れやや視界にかかる、少しばかり鬱陶しいが気にする程もないだろう。
腰には刀を携え、いつでも抜けるように手を添えている。
任務の為に来たのだが現場に来てもターゲットが確認できない。そんな現場の状況を組織に連絡を取るために携帯電話を手に取り耳に当てた。
「夜宵だ、今現場に着いた。目視でターゲットは確認できない。とりあえずこのまま路地に入る」
『把握した。警戒は怠るな』
簡潔かつ単調な指示。だがより円滑に任務を進めるにいたっては最適解な指示だ。
「了解」
それだけを返して通信を切る。端末を袖中にしまい込み冷たい風が吹き込む暗がりへと足を進めた。
月明かりが照らされないせいか少し湿っている地面を踏むと気配をふと感じる。
「……いるな」
誰もいない路地で小さく呟く。特に根拠はないがこの感覚は外れない。
立ち止まるとその瞬間、血の匂いと共に頭上から影がこちらに飛びかかる。
それと同時に反射で自分の身体を捻り横にズレる。破裂音と共に元いた場所の地面にひび割れができる。少し後退して視線を送るとそこには砂煙に巻かれながらこちらを睨む男がいた。
「チッ……気づきやがったか」
少し服の埃をはらいながら愚痴を吐くと再びこちらに飛びかかる……も俺は華麗に避ける。
「赤い目、口には牙。お前は吸血鬼で間違えないな」
「あぁ……そうだとも、お前さんらの生き血を呑むことで生きがいを日々感じている吸血鬼。名はジェファーだ」
夜宵は低姿勢に刀を構え吸血鬼である男を見据えていた。どこかそれは冷徹であり、任務遂行の為に来ているのだと言わしめる目つき、そこに殺意はない。
「俺は夜宵。執行人……制裁させてもらう」
「そんな刀で俺とやり合おうってか……舐めるな! 小娘が! 」
ドンッという破裂音とともにヤツが最高速度であろう疾走で飛びかかってくると同時に俺も踏み込む。
地面を滑るように距離を詰め――
一閃。
次の瞬間。
奴の足は、音もなく地面に転がっていた。
「こんなもん……俺らからしたら……ッ!?」
「治らないよ……俺の刀はお前ら専用に作られてるからな」
夜宵はゆっくりと、もう立つこともできない彼の元に歩み行く。その1歩1歩が恐怖をあたえたのか彼は震えだす。
「や、やめてくれ……なんでもするから許してくれ! 」
「……」
無言で近づき目の前まで来ると刀をゆっくりと振り上げ夜宵は口を開く。
「さよなら」
抜いていた刀身をさやにゆっくり収め端末を取り出し耳に当てる。
「任務完了。直ちに本部へ帰還する」
『よくやった。無事帰還せよ』
端的な返しを聞くと通信を終え再び端末をしまい込む。任務は終えたのでここにはもう用事は無いため帰ろうと振り返ると、ゾワッと背筋に凍る何かを感じる。
即座に戦闘態勢に入るもどこにも気配はない……いやいる。路地に並び立つビルの上を見るとこちらを見下げる赤い視線があった。
「……上位個体? 恐らくB級以上、、」
ーーだとしたら今は相手にするべきじゃない。
そうこう考えているとその存在はいつの間にかどこか闇に消えていた。それと同時に緊張が解ける。
ーーあれは狩る存在じゃない。確実に狩られる存在だった。
手を出していたら確実に死んでいた。刀に触れると僅かにまだ熱が残っていた。
「この事も報告に戻ろう」
振り返り月明かりが照らされる道へと歩みを進める。




