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夜のシュラド


声に押されるようにして門の中に入ると、安心できる街の光景が広がっている。鉄のような長い棒の先に丸い球体のものが仄かに光っていた。


外にいたルイは別世界に来たような感覚になるが、ここが異世界だと言う事を思い出して、そう言う事じゃない、と謎の突っ込みを心の中でする。

壁の外と中が別世界だと言いたいんだ、と思っていた。


夜なので静かだと思っていたが以外と声が聞こえてくる。


飲み屋が開いているので騒いでいるようだ。


歩きながら前を通ると、男達が肩に手を回して仲良さげに歌っている。女性達もいるようで椅子に座って食事をしていた。


濃厚な肉の匂いが外で広範囲に広がり、目に見えるのは肉を焼いている煙の色だけ。


それを振り切りながら早足で離れる。


捕まれば立ち止まりそうだ。


「お腹空いた・・」


腹に手を当てながらルイは歩き続ける。かなりの時間食べていないので、匂いのせいで空腹に気づいてしまった。


途端に何か食べたくなる。


収納魔法で食べ物を出す事は出来るが、そうしようとは思えなかった。


ルイの目線の先には出店が並び、その周辺には人が集まって並んでいるので、それを見ると皆と同じものを食べて共感したいと思う。


収納魔法では味わえないものなので、かなりの人数が集まっている中、ルイも後ろに並ぶ。鉄板の上で焼いているのを見てみると、硬い殻の間からジャガイモのようなものが見えた。


殻は緑色で、灰色の棘が三本ついている。それを鉄板の上で焼いていた。


焼き上がったものはハンマーで割られ、客が手に持っている葉で作った器の中に入れている。熱が伝わらないのか、熱さを感じているようには見えなかった。


受け取った客は邪魔にならない場所まで歩くと、立ったまま食べている。口から吐く息が白く、熱そうにしているが幸せそうだ。


前の皆が買うとルイの番がくる。目の前の店主は真剣な様子で焼いているが汗の一つもかいていなかった。


先が二股に分かれた鉄の棒に、木の取っ手がついた道具を使っている。それを器用に扱いながら殻の隙間に棒を入れ、押し上げて中身が取れやすくしていた。

二個同時にしながら転がしている。


それを見ながらルイは注文した。


「二つ下さい。銅貨二枚ね」

「それはいいが、その格好は寒いだろ。持って帰るか?」


髭の生えた店主が、お金を受け取ってから前に置いてある葉と紐を取る。それで包み込んで結んでくれるようだ。


「食べたら暖かくなるから大丈夫よ」


ルイはスカーフを取り出すと首に巻く。寒くはなかったが心配してくれた相手に対する気遣いだった。


ちらりと見てから店主は何も言わずにルイに葉を渡すと、こぼさないようにしろと言いながら葉の器の中に焼いたものを入れる。湯気の出ている器の中身を見て、ルイは自然と笑顔になった。


「ありがとう」


待っている間に来た客に場所を譲って、明るい場所に行く。器の中に入っていた殻の部分を使ってすくって食べた。


あまりの美味しさに感動する。


口の中に甘味が広がり、食欲を誘う匂いと湯気が鼻を通って行く。心も体も暖かくなった。


湯気を見ながら周りに目をやると、他の者も美味しそうに食べている。一緒に食べていると思うと、さらに美味しく思えた。


一つを食べあげてから一息吐く。


余韻を楽しんでから次のものに取り掛かった。


殻を使って中身をすくって食べながら口を動かしていると、周りに食べ物を売っている店と薬を売っている店が見える。夜に買えて便利そうだ。


異世界コンビニ、と考えながらルイは咀嚼する。


また一口入れ、他の店を観察しながらゆっくりと食べた。


口から吐く息が白い。


外は少し前よりも寒くなっているようで、山の上にいた時のように周りの者達は上着を着ていた。


ルイの姿は半袖の軽装備なので目立っている。

街の中はそれほど寒くならないと思っていたが、どうやら違うようだ。


「暖かい服を買わないと」


全てを綺麗に食べあげると、用意してくれていたゴミ箱に器と殻を捨てる。それから焼いている店主の前を通った。


「美味しかった。ありがとう」


ルイがそう言うと店主は無言のまま頷く。


それからも人が途切れる事なく来ていた。


                         




出店を見ながら歩くと様々なものが売られている。


甘味を売っているお店には、天井から紐が垂れ、何個も団子のようなものがついていた。


それ以外にも乾燥した果物が付けられている。揺れながら光を反射しているので、食べ物と言うよりも飾り物に見えた。


その隣の店では子供用の玩具も売っているので、冒険者の客がいて家族の土産に買っている。


簡単な服や装備品を売っている店もあって、夜でも活発に動いている者が多かった。


「あ、可愛い」


茶色の上着が売られている。襟の部分と袖の部分に羊の毛のような素材が使われ、前閉じの部分にピンクの刺繍があった。


手に持ってみると質も良く、縫製もしっかりとしていたので、試着してもいいか店主に尋ねると許可が出たのでルイはその場で着る。


サイズも合っているようなので、そのまま購入した。


前をきちんと閉めてから手も半分だけ袖の中に隠す。気に入ったので追加で青や紫色の刺繍がされている上着を追加で二着買った。


礼を言ってから店から離れると、機嫌良く歩く。


その足は跳ねるように地面を蹴っていた。


想像よりも街の中が明るいので少し安心する。夜の治安の悪さを覚悟していたルイだが、武器を持った冒険者の人数が多いので、大通りから外れて暗い路地裏などを通らなければ大丈夫そうだ。


問題があるとすれば・・思いながらルイは鼻に手を当てる。冒険者の武器や服についた獣と血の匂いが周囲に漂っていた。


少し風が吹いているので滞留していないが、これが無風だった場合はかなり臭くなるかもしれない。こういう場合の予想は外れてほしかった。


これは慣れるまで時間がかかりそうね、と思いながらルイは足を進める。


危険な目に合う事なく宿についた。










ーーーー





扉を開けて中に入ると暖かい空気を肌で感じる。


ルイが突然入ってきてもカウンターにいる受付の男性は驚く事なく迎え入れてくれた。


その男性は部屋まで案内してくれたカドモスで、お帰りなさい、とでも言うように微笑む。それに答えるようにルイも笑みを浮かべ、挨拶するように少しだけ頭を下げた。


カウンターの前に来るとルイはカドモスに声をかける。


「十三番の鍵をお願い」

「ルイ様ですね。少々お待ち下さい」


カドモスは用意していたかのように鍵を取り出すとルイに差し出す。ルイを礼を言いながら受け取り、話しかけた。


「カドモスさんは夜勤なんですね。朝までここにいるんですか?」


「予定ではそうなっております。御用の際はお呼び下さい。ルイ様はこれからお休みになると思いますが、お湯を使うならご自由にお使い下さい」


「本当にお湯を使っても大丈夫なんですね。ちょっと気になっていたから安心しました」


シャワーをしっかりと浴びよう、と心の中で思う。桶の中にお湯を貯めて拭う必要はなさそうだ。


「もちろん大丈夫です。綺麗にせずに寝られる方が困ります」


血に汚れた冒険者の姿を思い出しているのか、カドモスは険しい表情をしている。気持ちは分かるのでルイは軽く頷いた。


そのまま布団に入ると弁償になりそうだ。


それから少し話をして簡単な情報交換をする。


そうしていると扉を開く大きな音が聞こえた。




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