深海へ2
下ると暗さを増したので少し先が見えない状態になっていた。
見たい、とルイが強く思うと周囲が明るくなる。
本当に明るくなったのか、それともルイの目が暗闇に順応したのか分からないが、見える事は確かなのでとても便利だった。
大きな岩が少なくなり、見た事のない赤いアーチのようなものも見える。薄桃色の藻のようなものも生えており、丸が二つ合体したような体に細長い脚のついた魔海獣が、体の下についた口を伸ばして食べていた。
何匹もいて移動しながら食事をしている。
ルイは邪魔をしないように大回りをしながら歩いたが、それ以外の魔海獣も沢山いた。
極力避けるようにして歩く。
歩いていると地面の感触が違う場所があった。
不思議に思いながら顔を下に向けると、踏みしめているのが黄色の砂だと気づき、ルイは足元にしゃがみ込んでから砂を触る。
細かい粒が指先にあたり、小さな粒が綺麗なので両手一杯分だけ収納した。
手に付いていた砂が海に漂いながら足元に落ちていくのを見て、瓶に入れたら観賞用になりそうだ、とルイは思う。
自分で作った小物が増えていくのも意外と楽しかった。
「よしっ」
立ち上がると周りを見渡し移動する方向を決め、時間をかけないよう少し足早に移動する。海を泳ぐ生物が後ろから急にやって来ると驚く場合も多いが、それでも何とか進んでいた。
大きな魔海獣もいたりするので、迂回したり、直進したりと方向を変えながら回避する。
本来ならば汗をかく距離を進むと、風景が変わった。
岩の数が減り、高さのある生物が見えなくなると平坦な道になる。それでも進んでいるとルイの背より高い岩が続いている場所があった。
それの切れ目を探して通り抜けると、全面に素晴らしい光景が広がる。
「うわぁ・・」
粉雪のようなものが溜まり、広い場所全体が白くなっていた。
仄かに光を発しているので闇夜の中で見る雪の光景と似ている。
「雪・・じゃ、ないわよね?」
触ってみると粒なのにフワフワな感触で、それでいて磁石のように繋がっているので強めに触っても問題なかった。
とても気持ちが良いので満足するだけ両手で触る。そうしていると、ズボッ、と魚の頭が飛び出した。
頭は大きくルイの身の丈程の大きさがあり、二つある目玉は前についている。
見つめ合う人と魚はそのまま動かない。
突然の事過ぎると、飛び退くよりも呼吸が止まって動けない事をルイは身をもって知った。
魚は頭から下が雪のような物体の中にあり、実際はどれ程の大きさなのかも分からない。
ルイがゆっくりと手を放すと魚は頭を引っ込めた。
それに引き込まれるようにその場所を覗き込むと、また魚が頭を出し、それに驚いて体を離すと、魚の頭は引っ込む。
それを何度か繰り返していると、至近距離で魚と顔を合わせる事になった。
ルイが無言で見つめていると魚は口から泡を吐き出す。それからさらに口を開けると珠を吐き出した。
その珠は魚の鱗と同じ色をしている。
「もしかして・・自分の身代わり?」
それだけ鱗の色に似ていた。
魚はルイが受け取ったのを確認すると隠れ、それ以降はいくら待っても出て来る事はない。少し寂しさを感じたルイだったが、その場から離れる事にした。
珠を仕舞うと、それから他に売れる物がないか探す。
ある程度、採取する事ができたルイは、海面の方向を見つめた。
それから来た道を戻り海から頭を出すと周囲は薄暗くなっている。
空には星が見えていた。
ーーーー
波が体に当たり、音がする。
それ程、波が高くないので顔まで海水がかかる事はない。
ルイは周囲を見渡し、帰る方向を調べた。
「急いで帰っても、これじゃあ真っ暗ね」
天の川銀河のようなものも明るく見えている。波の音と合わさって音楽が流れているようだ。
「帰り着くの深夜になりそう・・」
そんな風に空を見上げながら考えていると、波の音とは違う音が聞こえる。
ビシャ、ビシャ、と何かが水を弾いていた。
それからルイが水面に顔をつけようとした時に、ひと際、大きな音がする。
不思議に思って顔を向けると、蛇のように長い魔海獣が透明なヒレを光らせながら海面から出て来る所だった。
五メートル程、海面から体を出すと背中を後ろに反らしながら、そのまま海面に頭から入って行く。弧を描く体はしばらくの間、海面から見えていた。
それから五匹程の魔海獣が同じような行動をしている。海中にいる時に出会っていない魔海獣だったので感動したように見ていると、ある事に気づいた。
「頭が魚・・」
あ、とルイは思い出す。
収納から珠を取り出すと、その魔海獣と同じ色をしていた。
「貴方だったのね」
そんなに長かったんだ。とルイが見ていると、その魔海獣は消える。ほんの数分の出来事だった。
「今日も一日、良い日でした」
言いながらルイは海に潜って行く。
肉食か草食か分からなかったが、害はなかったので良かったと思っていた。
ルイが去った後、一匹の魔海獣がもう一度頭を出す。それからゆっくりと海面に沈んだ。
ーーーー
川を遡り、やっと街の側まで辿り着く。
水から体を出すと周囲を必死に確認し、ゴブリンがいない事を確かめた。
それから門を目指してルイは隠れながら移動する。音を出さないように注意して、自分の気配を極力消すようにした。
カサカサと歩き、闇夜の中、虫のように移動する。
その目は常に周囲の動向を確認していた。
門の側まで来ると、門番が飛び上がるぐらい驚く。
知らない内にルイが隣にいたので、斜め上に飛んで落ちた。
「お、おい!驚かすんじゃない!一言、声をかけろ」
反対方向にいた門番も槍をルイに向けて威嚇している。本当に気づいていなかったようで、恐怖と驚きが入り混じったような表情をしていた。
「ごめんなさいっ!ゴブリンが怖くて急いで来ちゃったの」
頭を下げてから言うと、門番が今日街から出ていったルイだと気づく。一人で採取に行くと言っていたので、その無謀な行為に特に印象に残っていた。
「ああ、行きにもそんな事を言っていたな」
一人で採取に行くような人間なのに、ゴブリンを異様に嫌がる奇妙な人物だった事も門番は思い出す。
こんな深夜になってまで採取しているのに、何を言ってるんだ?とも思った。
ルイの格好を見ると、半袖で寒そうな格好をしているが本人は平気そうに見える。本当に得体の知れない人物だ。
寒さを感じないのか顔色も悪くない
それだけでもレベルが高いのが予想できたので門番は問題が起きない内に早めに通す事にした。
「カードを見せてくれ」
ルイの簡単な情報と街の通行許可が降りている事が書かれている。それを確認してから門の中に入る事を許可した。
「これだけでいいんだ」
夜なのでもっと調べられると思っていたルイは拍子抜けする。
「冒険者が多いからな。ほら、次がやって来るぞ」
指し示す方向には誰かがいる。森からやって来たのは五人チームの冒険者だった。光る魔石を腰に下げている。
門に掲げられている炎を目指してやって来ていた。
「用がないなら早く行くんだ」
門は閉じられているので、その隣りにある小さな扉を示して門番がそう言うがルイは動かない。火がついた棒に目がいっていた。
「あのー黒い棒の事を聞きたい・・」
「ゴブリンが来るぞ」
「直ぐに行きますっさっさと行きますありがとうございましたっ」
言いながら早足で扉の中に入って行く。
その必死な様子に、門番の二人は見えなくなってから珍妙な表情をしながら顔を見合わせて肩を少し上げた。
冒険者達がやってくる。
通行の許可を出しながら扉に誘導した。




