85.確かに見ものだったな
翌朝になる。
宿を出て朝食を取り城門前に向かっていく。
眼前では昨日と異なり人々が長蛇の列を成している。いや、今までの街と比べても人の数が多い。
「うわ! 凄い人出だな」
「どうやら昨日全くこの城門を出る者がいなかったから、その分も人が集っているのだろうな」
「なんでこれで昨日は不思議に思わなかったのかな?」
「だから言っただろう。もうこの手は使えないと。いくら人の認識を弄れるとしても、この不自然さに一度気付いてしまえば二度と騙されてはくれない筈だよ。特にこんな大きな街道ではね」
そうよね。一度おかしいと思ったらこの先は絶対確認する筈よね。
王都と副都を繋ぐ主街道で全く往来がないなんてありえないもの。
もしかしたら神かそれに準ずる者の意思なんかを感じるかもしれないわね。
でもそれを素直に受け入れたりしないと思うわ。
だって御告げも何もない以上は悪神の企みかもしれないからね。
城門で簡単な検査を受けて出市税を払って三人は街を出て行く。
いつものように先頭を行こうとしたが、代官かギルドの連絡係が夜も空けきらない内に街を出たらしい。その者達は走りながら進んでいるそうだ。
向こうの街に早く知らせる必要があるからだろう。
もしかしたらその先の王都までも、今日中に辿り着く事を目的にしているのかもしれない。
さすがにソンジュ達もそれを追い越そうなんて気はないようだ。
馬車を牽く商人達の先頭の、更に先を歩くようにしている。
「このままだと何も起こりそうにねえな」
昼休憩を終えて再度歩き出してからしばらくして、ワイトが声を上げる。
「人の目があるところでは襲うつもりがないようだからな」
「それが分からないのよね。なんで人に知られたくないのかな?」
「たぶん我々三人だけが襲われる不自然さを避けたいのじゃないかな。だから昨日のように全く人のいない状況を作りたいのだろう」
「どう考えても馬なんかを連れている商人の方が狙いやすいからよ。なのにわざわざそれを避けて俺達を襲ったりしたら、誰だって疑問に思うんじゃねえの?」
「殺してしまえば一緒だと思うんだけど」
「そりゃ俺達だけなら死んだらそれまでかもしれねえがよ。他の者の事を考えてみろよ」
「見える範囲に魔物が現れたなら商人の護衛だって対応するだろう? 私達に加勢してくれるかもしれないな」
「そしたら俺達の遺骸を消し去るなんて無理じゃねえか? その遺骸の中に黒髪黒目のいかにも異邦人といった容姿のユウが含まれていたらどう思うよ」
「ああ、うん。何かあると思って詳しく調査しそうね」
「そのうえ赤弧狼の二つ名持ちの冒険者の遺骸があったりしたらな」
「それに超一流の魔法兵だった者までいるんだ。今までの街で私達が何度も魔物の襲撃を撃退している事も調べられるだろうな。だから人目には付かせたくないのかもしれないな」
そっか。私達を消せば終わりって訳じゃないのね。
いえ私達にとってはそれで終わりかもしれないけれど、私達がいなくなっても世界は続いていくんだもんね。
その後の影響を考えたら手段を選ばないって訳にはいかないわよね。
だから相手も人目に付かないように考えてるんだ。
その後も普通に街道を歩き続ける。もちろん後続の商人達とは一定の距離を保ちながら。
乾期に入ったばかりなのか、薄くたなびく雲が散見される程度の青空が広がっている。
街道の横に広がる草原も相まって、ユウにとってはまるでピクニックをしている気分だ。昼御飯代わりに食べた果実もその気持ちを助長させている。
向かう街からの商人や旅人とも擦れ違っている。
どうやら向かう先の街でも今日は人が出ているようだ。
「敵」は完全にソンジュ達三人だけを隔離出来ないことに気付いたらしい。
この先とる手段は別の物になるのだろう。
そのまま休憩を挟みつつ歩き続けていると次の街の城壁が目に入ってくる。
このままだと昼四刻に入る前には城門に着く筈だ。
「へえ。本当に今までの街より大きな街みたいね」
「王都に隣接する街だからな。王都で溢れた人を吸収しているんだよ」
「そのうち先に寄った街にも波及するかもしれねえぜ。まあそれも何十年か先だろうけどよ」
城門では簡単な検査で済んでいる。
ソンジュは冒険者の認識票を示し、ワイトは元魔法兵だった証拠を差し出す。
ユウは変わらずソンジュの荷物持ちの立場だ。
やはりランク五の冒険者と言うのはそれなりの扱いのようだ。ユウを荷物持ちだと言っても信用されるらしい。
もしかしたら下手に突っ込むと危ないと思われているのかもしれないが。
街に入るとワイトの案内で宿に向かう。やはりこの街にもワイトの馴染みの宿屋があるらしい。
ユウは辺りを見回していたがすぐにそれを止めている。
街の規模こそ大きくはなっているが、建物の様式などは変わらないようだ。
王都にいったら王城が見れるのかな、などと考えている。
宿での部屋はすぐに取れている。それなりの宿で二人用の部屋を二つだ。
そのまま夕食が取れる店に行く。もちろんワイトお薦めの店だ。
料理を口にしながら雑談を続ける。
「明日には王都か。ようやくと言った感じだな」
「やっぱり大きいんでしょ? 副都よりもはるかに」
「まあな。王城は見応えあるぜ。背後に湖があるしよ」
「お前は王城内に入った事があるのか?」
「一度だけだがな。魔法兵は一代爵とは言え貴族だったって言ったろ? 叙任式も王族の仕事って事だよ。まさか一代爵とは言え就任の紙切れ一枚渡して、国や王家に忠誠心を持って貰える訳がねえって分かってるだろうよ」
まあ、そうよね。
感謝はするかもしれないけれど、それ以上に考えてくれる訳ないものね。
現代日本だって園遊会なんかを行なっているんだもの。そして直接お声を掛けて貰ったりしているからね。
王族が王宮に篭って顔を出さなくなったら、たぶんその国は末期だと思うわ。
賢王って話だし、そういうところはきちんとしているみたい。
でも王城かあ。街の建物から想像すると、ヨーロッパにあるお城みたいな感じなのかな。
内部も貴重な美術品が並べられていたり、庭園も綺麗に整えられていたりするのかな。
真っ赤なカーペットが敷かれていて、鎧なんかが飾られていたりして、謁見の間に行くだけでも何人もの近衛兵に囲まれたりとか。
うーん、自分の想像力の貧困さに悲しくなるわね。
でも仕方ないじゃない。地球の中世ですらお城の中がどんなだったか分からないんだもの。
王城の中の様子を見てみたいけれど私だと無理なんだろうな。
ワイトですら一度しか入った事がないって言ってるし、いくらソンジュが二つ名持ちの冒険者だと言っても入れてくれる筈がないものね。
マンガや小説だとただの冒険者が王宮に招かれたりするようだけど。しかも武具や防具を装備したままで。
どれだけ危機意識が無いのかって思うわよ。
外から眺めるくらいならできるのかな。
「あれ? 背後が見えるって事は王城より高い建物があるってこと?」
「そんな訳ねえだろ。ああ、そうだな。山に登らなければ無理か。王都は背後が湖で片側に山があるんだよ。その山からなら王都の全景が見えるのさ。そっち方向の街に行った時に見たんだったな」
「ああ、それなら私も見たことがあるよ。確かに見ものだったな」
「ただそっちの街へは山越えしなければ行けないからよ。王都で何も掴めなかったら俺の知り合いのいる街に行くことになるけどよ。その街は逆方向だからな」
「それなら残念ながらユウにそれを見る機会を与えられそうにないな」
「えええっ!」
うわあ、残念だわ。せめて背後に湖を控えた王城の姿は見たかったのに。
でもそれが目的じゃないから諦めるしかないわね。
元の世界に還る方法を探すのが優先なんだから。




