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78.……自分勝手すぎて呆れた?

「もしかして隷属の首輪とか奴隷紋なんてのがあったりする?」

「なんだよ、そりゃ? 語感から考えると無理矢理言う事を聞かせるような魔法や道具って事か? さすがにそんな物はねえよ」

「なら私を攫っても無意味じゃない? 言う事を聞かせるために拷問なんかで私を傷付けたり出来ないでしょ? だって私は眠り病を癒せる『聖女』なんだもの」

「何も身体を傷付ける必要はないさ。精神的な拷問だってあるよ。まあ壊す訳にはいかないから多少はマシだろうけれどね」

「それに王族なんかが眠り病に罹って、それを治さなかったら確実に死罪じゃねえかな? ユウが唯一の存在だと分かっていてもな」


 ああ、自棄になった相手が何するか分からないって事ね。

 でもそれは私だって同じよ。

 もし元の世界に還れない事が確定してしまったら、たぶん私はこの世界を滅ぼすでしょうね。

 行く先々の街で自律神経まで含んだ麻痺を振り撒きかねないわ。この世界に私を連れ込んだ相手を後悔させるためだけにね。


 異世界から来るのが勇者や聖女? 馬鹿な事を言ってるんじゃないわよ。

 なぜ赤の他人を救うために自らを犠牲にするのよ。

 私は自殺なんてしないわ。するとしたらこの世界を滅ぼしてからよ。

 この世界が滅ぶのは、私を連れてきた「貴方」のせいだって笑いながらね。

 ふふふ、主人公失格ね。私を題材にしたマンガや小説なんて書けないわね。


「ユウ。その力は隠せ。世界から隠せ。もし人前で再びワイトが倒れても、私が眠り病に罹っても、絶対に治そうなんてするな」

「……それは無理ね。たぶん世界を敵にしても私は二人を治すわ。でも大丈夫よ。私もなぜか分からないけれど、たぶんソンジュもワイトも眠り病に罹らないわ」

「あ!? なんで言いきれるんだよ? ソンジュみてえな能力もあるのかよ?」

「たぶん違うわ。ただ、そうね。身近な相手なら分かるのよ」


 そう、私もソンジュもワイトも眠り病にはならないってなぜか分かるわ。

 ワイトの場合は一度罹ったから二度と眠り病になる事がないって感じがするの。抗体が出来たって言うのかな? 天然痘のようにね。

 ……もしかしてソンジュも眠り病から生還したの?

 ううん、そんな筈ないわ。もし一例でもそんなことがあったら「必ず」死ぬ病なんて言われない筈だもの。


「それに前に言ったかもしれないけれど、私はこの世界に責任なんてないわ。この世界が眠り病で滅んだって気にしない。もし私だけが眠り病を治せるとしても、ソンジュとワイト以外の人を治そうなんてしないわ。……自分勝手すぎて呆れた? 二人共私と一緒にいるのは嫌になった?」

「いいや。ユウの言う通りだよ。この世界の意思とやらが眠り病の対策にユウを連れて来たのだとしても関係ない。相手の了解も得ずに他の場所に連れ出すのは、拉致や誘拐と呼ばれる行為だからな。それに元の場所に帰さないのも、拘束や監禁と言われてもおかしくないからね」

「まあ、そうだよな。この世界で起きてる事に対してユウに責任負わせるのは違うんじゃねえの。ユウは自分の世界に還る事だけ考えてれば良いと思うぜ」


 ソンジュもワイトもありがとう。

 この世界を滅ぼしても構わないとか、二人以外の人は見捨てるとか、そんなこと言ったら引かれるんじゃないかと思ってたんだけどね。

 だって二人共本心では私のことを救いの神だって思ってるんじゃない?


 でも私は「一人」しかいないのよ。世界中を駆け回れる訳がないじゃない。

 眠り病が水すら飲めなくなって衰弱していく病なら、倒れてから亡くなるまで頑張っても三日くらいでしょ。

 つまり私がいる場所から三日以内に行ける距離までしか対応出来ないのよ。

 ううん、連絡に掛かる日数を考えたらもっと短くなると思うわ。それこそ一日で行けるところまでが限界でしょ。


 もし王都に私を連れ込んでも隣接する街にしか派遣できないわよ。そして王都周辺だけは眠り病の恐怖から開放されるのでしょうね。

 でもそれを知った他の地域の民衆はどう思うのかな? 地方に住む貴族達はどう思うのかな?

 その時点で内乱が発生してもおかしくないわ。

 王都なら他国の外交官もいるんでしょうね。他国にまでその事が知られたらソンジュやワイトの言うように世界規模の戦争が起こりかねないわ。

 私を奪うことを目的にした戦争が。


 ならば私を教師にして他に眠り病を癒せる魔法使いを増やす? どうやって?

 私の魔法がこの世界のものと違うなら教えるなんて不可能よ。

 頭の中で考えた通りの効果の魔法が発動するんだもの。系統だった理屈がある訳じゃないのよ。そんなの教えようがないじゃない。

 結局私だけしか使えない力になるわよ。


 ああ、そうか。ソンジュもワイトもそんなことは分かってるのね。

 だから争いの元になりそうな私を還そうと考えてるんだ。

 どうせ世界が滅ぶのならば「異界からの迷い人」の私を理由にした滅亡じゃなくて、この世界の病気が原因の方が良いって。


 マンガや小説の勇者や聖女ってどうやっているんだろう。なにしろ「一人」で全てを救うんだから。救えるんだから。

 魔王はわざわざ勇者がいる場所だけを襲っているのかな? 勇者のいない他の襲いやすい場所なんかは無視して。

 病気も聖女様が立ち寄る街にしか発生しないのかな? 世界中のあらゆる街に蔓延するんじゃなくて。


「さて、ワイトのせいで余計な時間を取ってしまったな。そろそろ明日に備えて寝ようか」

「俺が悪いってのかよ! ……いや、俺のせいだよな……すまねえ」

「そうよ、ワイトだって眠り病に罹りたくて罹ったんじゃないんだから。ワイトの責任じゃないわ。そりゃ余分な時間は費やしたかもしれないけれど」

「……ああ……すまん」

「そうだな。さすがに無駄な時間と言うのは言い過ぎだったな。許せ、ワイト」

「……いや……その……謝られても困るんだが」

「ごめんね、ワイト。ソンジュも私も無意味な時間を過ごしたなんて思ってないからね」

「悪かったって! もう勘弁してくれよ!」


 ワイトもソンジュとユウの表情から、自分をからかっているだけだと分かっている。それでも先程の様子から二人が心配していた事も分かっている。

 なにしろ二人の目の前で、自分は二度と目覚めない筈の死病に罹って倒れこんでいたのだから。

 もしユウの魔法が効かなかったら、あのまま死んでいたのだろうから。


 そしてワイトは考える。

 眠り病かどうかを見分けられるソンジュ。そして眠り病を癒せるユウ。

 もしかしたら自分は二人を護るために一緒にいるのではないだろうかと。あの場で出会ったのも偶然なんかではないのだろうかと。

 だがユウは世界中を巡って眠り病を治して廻る気はないようだ。

 ソンジュもその能力をあからさまにしようとしていない。


 それにワイトだって分かっている。ユウの治療に意味がないことを。

 ユウ一人がどんなに頑張っても手の届く範囲なんて知れている。

 眠り病の患者を一箇所に集めるなんて出来る筈がない。世界中から僅か二日で全ての患者をユウの前に運んで来れる訳がない。

 ユウのいる一つの街だけが優遇されたりしたら、それこそユウの奪い合いになるだろう。


 それにユウの負担がどれくらいになるかも分からない。

 もし一日に一人しか治せないとしたら? 同じ街の中ですら殺し合いが起きるだろう。誰を優先して治すのかを決めるために。

 王族や貴族が強要しても無駄だろう。なにしろユウの魔法は眠り病を癒すだけではないのだ。

 無理に従わせようとしても、あの息や心臓すら止まる麻痺を掛けられたら? 眠り病以外での死者が量産されるだろう。

 異界人のユウにとって、この国の王や貴族の権威なんて無意味なのだから。

 そして王族や貴族が亡くなったとしても他の者はユウを害する事は出来ない。

 ユウは唯一眠り病を治せる者なのだから。


 だからユウの能力は隠す。眠り病を治せる事を誰にも伝えたりしない。このまま元の世界に還ってもらった方が良い。

 ユウがいなければ諦めも付く。

 もし友人や家族が眠り病で亡くなったりしたら、仕方がないと分かっていてもユウの事を恨んでしまいそうだから。

 たぶんソンジュも同じ考えなのだろう。


 ソンジュとユウはワイトの部屋を後にする。

 ワイトの部屋を出るとソンジュは受け付けに湯を持ってくるように頼みに行く。ユウは先に自分達の部屋に戻っている。

 そして頼んでいた湯が届くと二人は身体を拭う。

 ユウはソンジュに意味のない事を話し掛けている。ソンジュも適当に相槌を打っている。

 だけどソンジュのユウに向ける視線には、何か複雑な思いが絡んでいるようでもあった。

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