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7.今着ている服って売れるかな?

 ソンジュは少し呆れたような顔をしながらユウに告げる。


「とりあえず先に見せて貰った紙片を一枚だけ売ろうと思うんだが。これは分割しても……いや、そのままの方が良さそうだな」

「ええ、そうして頂ける方が助かります」


 いくら異世界だからって紙幣を故意に破損させるのは気が引けるわ。

 パンツのポケットに入れたまま洗濯しちゃったことはあるんだけれどね。


「しかしこれは……裏の換金屋でないと不味いな。下手をすれば代官や貴族なんかに呼び出されるかもしれない。ユウもそれは避けたいだろう?」

「もちろん困ります。ある程度の額で換金出来るなら構いません」

「それでも四人家族が一年は遊んで暮らせる額にはなるだろうけどね」


 家族が一年暮らせる額!? この街の物価は分からないけれど、日本円換算でも楽に百万円を越えそうなんだけど。

 この世界で単純に美術品と考えたら、それくらいの価値があるのかな?

 ううう……なんだか申し訳ないわ。本当は千円でしか無いのに。


「残りは他人には見せない方が良いな。この紙片も私がどこか別の街で別の者に譲り受けた事にする。私なら横槍なんかも受け流せるからな」

「ありがとうございます。……あの、なぜそこまでしてくれるのですか?」


 さすがに気になるわよ。

 そりゃ私をこの辺りに慣れてない異邦人だと思っているでしょ。だけどなんでこんなに親切にしてくれるの?

 さっき言ってたよね、その千円札が家一軒と同等の価値があるって。一攫千金のチャンスなのよ。

 私がまだ持っている事も分かってるでしょ。残りを手に入れる方法なんて簡単じゃない。

 それこそ私を脅すなり……殺すなりすれば良いんだから。


 ソンジュは一瞬きょとんとした表情を浮かべた後で考え込んでいる。


 言われてみればそうだ。なんでユウを騙そうと考えないのだろう?

 嘘の価値を教えたり、全てを奪う事だって出来ただろうに。そんな事は思い付きもしなかった。


 そしてソンジュは適当に答えを返す。


「ああ……まあ人には分相応と言うものがある。それに私は気楽な冒険者の方が向いているしな。盗賊のような真似をする気はないさ」


 たぶんソンジュは気付いているんでしょうね。私が疑っている事を。

 そう、私はいつでも魔法を発動できるようにしている。すぐに麻痺や催眠をかけられるように。敏捷性を上げて逃げられるように。

 もちろん私の方からソンジュを害する気なんてないわ。でも襲われたりしたら当然逆襲するつもりよ。

 でも、うん、ソンジュは信用できそうね。

 さすがに私が異世界人だなんて話すつもりはないけれど。

 それに気を張り続けるのも疲れるわ。


「はい、わかりました。お手数お掛けしますが宜しくお願いします」

「ふふふ。そろそろ喋り方は改めてもらえないか。もっと気軽に話して欲しい」

「え? でもソンジュさ……ソンジュだって変わった口調と思うんだけど?」

「私の喋り方はおかしいのかな? 昔からずっとこんな感じなのだが」


 ああ、やっぱり彼女は男前なんだ。ハンサムなんだ。素であの口調なんだ。

 そしてそれが似合っているんだから、やっぱり神様って不公平よ。

 私が男っぽい口調で話しても無理してるとかしか思われない筈よ。それどころか変な目で見られるでしょうね。


「ああ、うん。ソンジュはその口調が似合ってるし、それで良いと思うわ」

「君もその喋り方のほうが自然な感じで可愛いよ」


 なんでそんなセリフがすらっと出てくるのよ。

 ソンジュって本当に自分が凄い美人だって自覚が無いようね。ハンサムだって事も気付いてないのね。

 そんな趣味ない筈なのに勝手に頬が赤くなっているのが分かるわ。


 ソンジュはそんなユウの様子を気にせずに話を続ける。


「一旦外に出よう。構わないか?」

「ええ。換金屋に行くの?」

「いや。換金はこの街を出る直前の方が良いだろう。ある程度の金銭は持っているさ。立て替えておくよ」


 ああ、そうか。出来るならば換金はぎりぎりまで待った方が良いわよね。

 換金屋の口が堅いとは限らないもの。紙幣の情報を流されて、貴族に目を付けられたり盗賊に宿を襲撃されたりしたら堪らないもの。

 換金してすぐにこの街を出てしまったら、たぶん私達を探すのも大変でしょ。

 やっぱりソンジュは冒険者なんだ。紙幣を見た瞬間にはそう言った事まで考慮していたんだ。


「だが外に出るなら、ユウ、まずは君の衣服をどうにかしないとな」

「あ! そうだよね。でも着替えなんて持ってないよ」

「ふむ。とりあえずこれを被って貰えないか」


 そう言ってソンジュは腰のポーチから折り畳まれた一枚の布を取り出して、ユウにその布を差し出した。


 ケープ? ううん、これはポンチョのようね。四角い布の中心に穴を開けているだけだもの。

 ああ、これで身体を覆えって言いたいんだ。この大きさなら余裕で膝まで隠せそうだから。

 でもこの大きさの布がポーチから出てくるなんておかしくない?


「ありがとう。でも良くこんな大きさの布が入るわね。その腰に着けた鞄って見た目より容量が大きいの?」

「うん? ああ、ちょっと変わった物でね。……そんな衣類を着て、こんな紙片を持っているんだ。ユウになら話してもいいか……」

「あ! 聞いちゃいけなかった?」

「まあね。ここだけの話にしていて欲しいな。このバッグは……いやバッグに入っている小袋が本体なんだが、ちょっと特殊なものでね。八千ルーグくらいの容量があるんだ」


 えええええ!? 凄い! この世界って時空魔法なんかがあるんだ! なら元の世界に還る方法も見つかるかも!

 ええと、八千ルーグを換算すると千リットルくらい? つまり一立方メートル、各辺が一メートルの立方体くらいの容量があるの?

 普通の家庭のお風呂で二百リットルくらいだった筈。その五倍も入るんだ。

 あれ? でも重さはどうなるの? もしかして異次元に繋がってたりしていて気にしなくてもいいの?


「それって重さも感じなくて済むの?」

「あはは、まさか。仮に水で満たしでもすれば動けなくなるさ。いや、押し潰されてしまうだろうな」


 ……やっぱり、そういうところは現実的なのね。

 千リットルの水だと重さは一トンになるし、そりゃ動けなくなるわ。

 たぶん二、三十キロくらいの重さが持ち運べる限界じゃないかな。

 ううん、冒険者ならもっと軽くしている筈。動きが阻害されたりするもの。


「まさかその小袋って格納している物が腐ったりしないの? それに誰もが持ってる物なの?」

「それこそ、まさかだよ。食料なんかを入れていたら腐るだろうね。他に聞いたこともないし、たぶんこの世にこれ一つしか存在しないのだろうな。ある遺跡で手に入れたんだが」


 容量拡張は可能でも時間停止は出来ないって事ね。

 それに遺跡で入手? 世界に一つだけ? うーん、時空魔法があったとしても既にロストテクノロジーになっているのかな?

 私も欲しかったんだけど入手は無理みたい。


「本当は私の代えの服に着替えて貰おうと思ったのだが無理そうだからな」


 そりゃそうでしょ。

 身長が百七十センチを楽に越えていそうなソンジュの服を、私が着れる訳ないじゃない。

 それにきっと胸やお尻の部分はぶかぶかになっちゃうんでしょうね。……腰周りはピッタリかもしれないけれど。

 ソンジュってばスタイルも良過ぎるのよ。やっぱり神様って不公平だ。


 なぜか無言になっているユウに気付かずに、ソンジュは立ち上がりながら言葉を続ける。


「よし、ならば最初はユウの服を買いに行こうか」

「ええと、今着ている服って売れるかな?」

「たぶん良い値が付くだろうが止めておいた方がいいな。その服は私が預かっておくよ。君が嫌でなければね」

「そうね。お願いしようかな」


 あー、やっぱり服も駄目なんだ。

 そうよね。化学繊維で作られた生地の服なんて珍しい筈よ。

 現代地球の物って売れはしても後に影響が出そうなものばかりなんだ。

 確かに貴族や盗賊に目を付けられて当然な物ばかりだもの。


 そう言えばこの世界の下着事情ってどうなってるのかな?

 たぶん立体裁断なんてないわよね。うん、ブラやショーツは手放す訳にはいかないわ。手間になるけれど毎日手洗いするしかないかも。

 ……早く元の世界に還れないと擦り切れそうだなあ。

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