62.その中から選べ!
「それで君達はあんなに大量の群れに襲われる心当たりはあるのかね?」
「いいや? 私はこの辺に来るのも久しぶりだし、それにコイツは偶然行き先が一緒だから同行しているだけさ」
ソンジュはワイトを指しながらそう告げる。
設定上はそういう話にしているのだが、ワイトはソンジュの言葉に少し不満気な表情を見せている。
あからさまに他人扱いされるのはやはり納得いかないのだろう。
副長はそのワイトの様子に気付いたのか笑みを浮かべている。
ふふふ。ワイト殿は赤弧狼に気があるようだ。彼女は相当大柄とは言えども顔立ちは美しいのだからな。
それにワイト殿の身長ならば隣に並んでも見劣りしないだろう。
こうして見ると似合いのような気もするな。
「それよりギルドか代官に問題があるのではないのか? 橋が架かって人の行き来が楽になったのだろう? そのせいで近辺の魔物の生態にも影響が出たのではないのか? 調査不足だったギルドや領兵の責任だと思うのだがな」
「確かに君の言う通りだ。盗賊が増えたとの情報も聞いている。多少河が荒れても橋のおかげで問題なく渡れるようになったからな。盗賊が潜んでいれば、その辺りの魔物の行動も変わるだろう」
ソンジュはユウが原因だと思わせないように、新たに架かった橋が原因ではないのかと訴えている。
だがソンジュの言葉にも一理あるのだ。
今まで襲い掛かってきた魔物達はゲームのようにポップして現れたのではない。何者かが近隣の魔物を掻き集めて、普通では考えられない数の群れを作り出していただけだ。
ソンジュ達が倒さなくても、それだけの数の魔物が近隣にいた事実だけは変わらないのだ。
副長にも心当たりがあるのだろう。ソンジュの指摘に納得しているようだ。
それでリーノピに関する話は終わった。
ソンジュ達三人が四十六匹のスプルの群れ、八匹ものピーフスの群れとも遭遇していた事を知っていれば、副長も彼女達に何か原因があるのではないかと気付けただろう。
だがソンジュ達は今までの街でもゆっくり過ごしていた訳ではない。それこそ翌朝には街を離れているのだ。
状況の確認などを行なっていると、どうしてもギルド間の連絡も遅くなる。現代地球のように電話やメールで時間も距離も気にせずに、詳細な報告が行なえる世界ではないのだから。
「君達は王都を目指しているのかね」
「俺は怪我で鈍った身体を慣らしがてら挨拶回りをしようと思ってな。赤弧狼はその子の案内だったか? それで王都の方では変わった事は起きてねえのかい?」
副長は改めて気付いたようにユウの方に目を向ける。
確かに異国人のようだ。赤弧狼ソンジュは護衛をしているのだろう。
だが黒髪黒目のその娘は貴族の子弟などではあるまい。いくら赤弧狼が腕が立つと言っても貴族の護衛が単独である筈がない。
赤弧狼は他の国にも顔を出していると聞いている。たぶん言葉が分かる彼女が護衛を申し出たのだろう。
実際その娘は碌に言葉も分からないようだ。居心地悪そうに黙って私達の会話を聞いている。いや、聞いても意味が分からないから居心地が悪いのだろう。
なぜ自分がこの場にいるのかすら分かっていないのかもしれない。
それだけ考えると副長はユウに対する興味を失ったようだ。そしてワイトの問いに対する答えを考える。
王都での変事か。この街まで伝わるような大きな出来事は起こっていないな。
ただ毎日のように変更される眠り病に関する依頼。これだけは王都で何かあったのではと邪推してしまうのだがな。
さすがに王族に患者が出たのであれば、この街の代官やギルドマスターに連絡が届く筈だ。そして副長である自分にも一言あるだろう。
だがそれがない以上は深刻なのだろうが、緊急ではないとも言える。
まあ最近はようやく冒険者が手を出しても良いくらいの報酬に変わっているが、それでも破格と言える額ではないしな。
「特に変わった様子はないようだな。近隣の街でも大きな問題はないようだ」
「ふーん……そうかい。情報ありがとよ。あんたのおかげで安心して王都に向かえそうだよ」
「君の橋の敷設時の協力を考えたら当然だと思うがね」
リーノピの群れに関する説明と報告、近隣の街での情報収集を終えた三人はギルドを後にする。リーノピの発見討伐の報酬を受け取って。
ワイトは入り口まで見送りに来た副長と固く握手までしている。やはり気心の知れた仲なのだろう。
ギルドを出たソンジュ達は、衣類を扱う店と防具を扱う店を探している。
ワイトの着ているものはボロボロなのだ。夕食前には整えておきたいのだ。
ソンジュは怪我一つ負っていない。ただ彼女が雨具代わりに被っていたポンチョはリーノピ達の返り血で汚れているのだが。
ユウに至っては怪我どころか返り血すら浴びていない。
料理屋や宿屋はともかく、その手の店はワイトも詳しくない。
軍に所属していた頃は衣類も防具も共に支給されていたのだ。壊れたら申請さえすれば新たな装備が用意されるのだ。
店を探しながらソンジュは考えている。
正直なところワイトには質の良い防具を着ていて欲しいのだがな。
たださすがにフルオーダーの品を求めて無駄な時間を取られる気もないしな。
コイツは冒険者登録時にはランク三どころか、いきなりランク四で登録されてもおかしくない。それどころかすぐに私に追い付くだろう。数年内にはランク五に上がっているに違いないさ。
まあ、それもユウが脚を治してくれたからだろうが。
とにかく私と同じか、少なくともベテランと言われる冒険者がしている装備を着けて貰いたいのだが。
先のあの戦闘方法だが、少し肝が冷えたぞ。
多少の怪我程度ならユウが癒してくれるのだろうさ。
だがいくらユウでも死者の蘇生までは出来ないだろう。リーノピの風の魔法が弱いとは言っても、当たり所が悪ければ即死する可能性だってあったのだからな。
ワイトには厚手の衣類とローブ、しっかりした防具を用意してやるべきだな。
あんなに走り回れるんだ。少しくらいなら重くなっても問題はないだろう。
ソンジュが目を付けた衣類屋に入っていく。
今回は時間制限を設ける気もなければ、外で待っている気もないらしい。
そしてワイトが衣類を揃えるのをソンジュとユウは眺めている。
だがある程度経ったところでソンジュが口を差し挟んだ。
「まったくお前は。なぜそんな薄手の服ばかり選ぶんだ? 分かった、もういい。私が見繕う。その中から選べ!」
「えええ……いや、あの報酬を等分すんだろ。そしたらこれ以上の額のものは選べねえだろ?」
「何を言っている? 先のリーノピの報酬は全てお前の衣類防具に充てるぞ。ユウもそれで良いよな」
「あ、うん。やっぱりワイトが一番活躍してたもの。ワイトのために使うのが妥当じゃないかな?」
「いや、待てって。こういうのはきちんとしねえとダメだろ?」
「黙れ! お前はユウを護ると誓ったのだろう? ならば相応の衣類と防具を着けておくべきだ。大人しく待っていろ!」
ソンジュはワイトを無視して、幾つかの衣類を店主に持ってこさせる。その中から数着を選び出してワイトの前に拡げる。
ワイトはソンジュの剣幕に驚いたような怯えたような様子で、目の前に並べられた衣類から好みのものを選んでいる。
ローブも同様だ。ソンジュが見定めたものの中からワイトに選ばせている。
そんな様子を見ながらユウはクスッと笑みを零す。
ああ、なんかアレね。ソンジュってダメな彼氏に服を見繕ってあげている彼女みたい。
ティーシャツかトレーナーにジーパンしか着ないような出不精の彼に、おしゃれな服を用意してあげている彼女に見えるわよ。って、それは私かな?
なんていうか微笑ましいわね。ソンジュにはそんな気はないのかもしれないけれども、初々しいカップルに見えてるわよ。
防具屋でも同じような事が繰り返されている。
ワイトが手頃な価格の初心者用の防具を選ぼうとすると、ソンジュがそれを押し留める。そして中堅以上の冒険者が着けるような防具を選びなおす。
その度にワイトは申し訳なさそうな顔をしている。
その光景を見ながらユウは呆れてもいるようだ。
うーん、やっぱりワイトはワイトってことね。
そろそろ気付きなさいよ。ソンジュがワイトのために選んでいるって事に。ワイトに怪我をして欲しくないから選んでいるって事に。
ソンジュも素直じゃないわね。私を護るためって言っているけれど、本心はそうじゃないんでしょ。
私は教えてあげないわよ。だってソンジュは私のものなんだから。
まあソンジュが自分の気持ちに気付いて、ワイトにアプローチするなら応援してあげてもいいけれどね。




