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61.実際にその通りだもの

 雨も止んで温かな日差しが降り注ぎ始めた。

 霧もすっかり晴れて次の街の城門もはっきり見える。

 雨に洗われた城壁が晴れ間から差し込む日差しで輝いていた。まるで三人を出迎えているかのようだ。


 城門まで辿り着くとソンジュが門衛に話し掛ける。

 街から僅か一刻程度の距離で三人がリーノピに襲われた事を聞くと門衛も慌てているようだ。

 ソンジュは詳細はギルドに報告すると言って城門を潜り抜ける。ワイトやユウもその後に続いていった。


「さて、この街には河の両岸にギルドがあるんだったな。ワイト、それは変わってないのか?」

「変わってねえな。宿は橋を渡った向こうで取る気だったんだが、やっぱり報告はこちら岸のギルドにした方が良いんじゃねえか?」

「橋が架かったのなら行き来は前よりも楽になったと思うが。そうだな。やはりこちらのギルドに報告した方が良いのだろうな」

「ならば宿もこちら岸で取った方が良いか? どれくらいギルドで時間喰うか分からねえだろ」

「そうだな。こちら岸にもお前の馴染みの宿はあるのだろう? まずはその宿に向かおうか」


 ワイトの案内で宿を目指す。

 この街も副都ほどではないが大きいそうだ。ユウは河が見えるかなと目を凝らしていたが無駄だったようだ。

 ワイトの話では城門から川岸まででも一セオークの距離はあるらしい。ユウの感覚だと五百メートルくらいだろう。

 高所から見下ろすならともかく、大通りを進む三人に見える筈もない。


 ワイトが紹介してくれた宿は城門に近い場所にあった。やはりすぐに出立できる場所に宿が多いのだろう。

 ワイトが受け付けに声を掛けると、やはり歓迎してくれているようだ。

 なにしろ昨年この街の河に橋を掛けてくれた相手だ。それにワイトは平民出身だけあって、街の人々との遣り取りも上手かったようだ。

 すぐに二人用の部屋を二つ用意してくれていた。


 宿の予約を済ませるとすぐにギルドに向かう。

 この街のギルドは河の両岸に別れているためか、それぞれの規模はそんなに大きくないらしい。

 依頼を終えた冒険者の姿も十数人ほど見えている。

 冒険者資格を持つソンジュが受け付けに向かう。残った二人はいつものように掲示板の傍で待っている。

 この時間に掲示板を眺める冒険者なんている筈もない。昼三刻を過ぎたギルド内では一番人が少ない場所なのだ。

 ユウは興味深げに掲示板を眺めている。ワイトは掲示板を見もせずにソンジュの後姿を目で追っていた。


 あれ? この街のギルドも戒めの依頼ってリーノピ退治なんだ。報酬も条件も前の街と変わらないようね。

 なるほど河のこちら側だと同じ街道での依頼になるものね。同じ依頼でも不思議はないのかな。


 うわ、眠り病の依頼の報酬が跳ね上がってるわね。

 有益な情報だと百五十レイ? 最低保障でも三十レイ?

 当然毎日の活動報告義務はあるんでしょうけれど、これなら引き受ける冒険者もいるんじゃないかな。

 これは相当に焦っているのね。まさか王族に患者が出たの?

 ううん、それならこんな一日毎に報酬引き上げみたいな真似はしないでしょ。

 たぶん高位貴族本人かその家族が患者になったのでしょうね。国もそれでようやく危険性に気付いたって事よね。

 ……なんか泥棒を捕らえてから縄を綯う、泥縄って言葉を連想しちゃうわね。


 少し経つとソンジュが手招きしている様子が窺える。

 ワイトとユウはソンジュの方に向かって歩み寄る。


「別室で話を聞くそうだ。まあ他の冒険者がいるような場所で話をする訳にはいかないのだろうがな。ユウ、君は前と同じように碌に言葉も分からないような振りをしていてくれないか。ワイト、お前は余計な事は喋るなよ」

「信用ねえな。まあ、この街のギルドマスターは例の橋設置の時の顔見知りだからな。俺はなるべく喋らねえようにするよ」

「私も了解よ。異邦人の旅人の振りなら任せて。……実際にその通りだもの」


 三人は受け付けの者に案内されて部屋に案内される。

 六畳程度の小部屋だ。部屋の真ん中に長方形の机が置かれている。その机の周りには背もたれのない椅子が並んでいる。

 やはり会議室のようだ。

 別の者が水の入ったカップを三人の前に並べて去っていく。


「ここでも水が出んのかよ。赤弧狼の名は伊達じゃねえな」

「いい加減にその二つ名で呼ぶのを止めろ」


 ソンジュはその二つ名で呼ばれるのはあまり好きでないようだ。それに気付かないワイトは、やはりワイトなのだろう。

 しばらくすると一人の男が部屋にやってくる。三人の向かいに腰掛けると口を開いた。


「私はこの街のギルドでこちらの岸を預かっている副長だ。いや、この街の副営業所長と言った方が妥当かな。おや? 君は、いや、貴方は魔法兵団の方ではありませんか?」


 そっか、やっぱり王都に近いほうが主体になってるみたい。河のこちら側は副営業所になるんだ。

 それにしてもこの人も強面ね。副長って名乗ってたわね。ギルドマスターは貴族が任命されるけれど、実務は叩き上げの冒険者が担当しているんだ。きっとギルドマスターって名誉職みたいなものなのね。


 それとワイトへの対応の変化。ワイトを知っているみたい。

 ワイトもギルドマスターと知り合いって言ってたから、副長と面識があってもおかしくないわよね。

 あの言葉遣いから考えると、もしかしてまだワイトが魔法兵団に所属していると思ってるのかな?

 魔法兵って一代爵とは言え貴族なんでしょ。だから態度も変わったんでしょ。

 まあ確かに軍を辞めたなんて触れ回る事じゃないかもしれないけれど。

 ワイトが魔法兵を辞めて平民になったと知ったら言葉遣いも変わるのかな?


「俺はもう魔法兵じゃねえから、そんな言葉遣いはしなくても良いぜ」

「え!? 魔法兵ではない? まさか貴方を馘首にしたと?」

「いいや、俺が怪我しちまってな。自分から辞めたんだよ」

「はあ!? 誰も貴方を、君を引き止めなかったのか?」

「拍手喝采で送られた覚えはあるがな」

「……ふう。魔法兵団の体質はそんなに変わってないようだな」


 副長はワイトの言葉に呆れたような素振りを見せる。

 やはり王都と副都を結ぶ街道にある街のギルドの副長なのだろう。魔法兵団に関してもそれなりの知識があるようだ。

 言葉遣いも貴族に対するものでは無くなっている。それでも三十歳にも満たない平民のワイトを、見下したりせずに同等のように扱っている。


「それよりあんたがここのギルドを任されているのが驚きだぜ。橋を架けた時も副長だったが現場監督みてえなもんだったろ?」

「あの橋の敷設の時の働きが評価されたんだよ。しかし赤弧狼が一緒とは奇縁とでも言うのか……」

「あん? そりゃどういう意味だ?」

「赤弧狼、君があの馬鹿息子を絞めたのだろう? おかげで魔法兵団長が代わって橋の敷設に魔法兵団が協力出来るようになった。そして橋が架かったために、この街のギルドが統合される事になってね。ここのギルドのマスターがあの馬鹿息子の後釜として送られたんだよ。まあ街の半分のギルドマスターから、そこそこの街のギルドマスターになったのだから栄転だな」

「なるほどな。それで空いた席にあんたが座った訳か。まあ、あんたの働きからすると妥当なとこだろうがよ。なんせあの時は数百人の冒険者の管理をあんた一人でやってたしな」

「君こそ魔法兵が一旬毎に交代していたのに、丸々一季働いていたじゃないか。なんで魔法兵に土木工事をさせるんだ、と文句を言っていた連中が多かったのに」


 ああ、なんかそんな話してたわね。ソンジュがどこかの街のギルドマスターを潰して、その親が責任取って辞めたって話を。

 こんな風に繋がってるんだ。確かに奇縁と言えるわよね。


 そして魔法兵団の体質ね。兵団長、トップが入れ替わっても、やっぱりすぐには改善されないのね。

 あれだけの力を持っているワイトを放り出すなんてね。しかも拍手喝采って。

 「それをすてるなんてとんでもない!」って思う人はいなかったのかな?


「まあ昔話は置いておこう。それでリーノピの件だったな」


 副長の言葉でソンジュは街道で起きた事を話し始める。百八十六もある討伐証明部位を見せながら。

 副長は赤弧狼ソンジュの実績も、魔法兵だったワイトの事も知っている。

 それがどんなにとんでもない話であっても疑う気は起きなかった。


「百八十六匹のリーノピの群れか。……ただでさえ見かける事の少ない魔物が通常の四、五倍の規模の群れで襲い掛かってきたと」

「疑っているのかな?」

「まさか。赤弧狼の二つ名を持つ君や魔法兵だったワイト殿が、そんな嘘をギルドに申し立てる訳がないだろう。それにいかにも剥いだばかりに見える討伐証明部位も提示しているんだ。わたしはそこまで愚かではないよ」


 副長が言葉を返すと同時に遠慮がちなノックの音が聞こえてくる。そしてギルドの職員が一人部屋に入ってくる。

 その職員は副長の傍に寄って、小声で何かを伝えて去っていった。


「君達の後から城門に着いた商人とその護衛から報告が来たよ。信じられないほど多量のリーノピの遺骸が街道付近に転がっていたとね」


 その連絡にソンジュとワイトは肩を竦めるだけであった。ユウは言葉が分からない振りでキョトンとした様子を見せていたのだが。

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