60.言い得て妙ね
「ふむ。私が止めを刺してこよう。ワイト、お前はユウを護っていろ」
「あん? 俺が残りを片付けても構わねえぞ」
「あれだけ駆け回ったんだ。お前はユウの傍でゆっくり休んでると良いさ。そうだな。もし余裕があるなら、ここらに転がっているリーノピ達の剥ぎ取りでもしていてくれ。私も止めを刺しながら討伐証明部位の剥ぎ取りをしてくるからな」
「ああ、分かった。ありがたくそうさせて貰うさ」
ソンジュは剣を片手に提げたまま、衝撃に傷付いて碌に動けずにいるリーノピ達が転がっている場所まで進んでいく。
ワイトも自分が疲れているのが分かっている。ソンジュの言う通りにユウの護衛に入る。いや、もう休憩と言っても良いだろう。
ソンジュが自分に気を使ってくれている事にワイトは気付いていた。
ソンジュはリーノピを一匹ずつ確実に止めを刺しながら、討伐証明部位を剥ぎ取っていく。
辺りに転がっているリーノピの中には、碌に動けないだけで意識が残っている個体だって存在している。そしてそれらは近付いてくるソンジュに風の魔法を繰り出している。
だがソンジュはその魔法を軽々と身をかわして避けている。場合によっては剣で振り払ったりもしていた。
「やっぱ凄えな、ソンジュは。なんで見えもしねえ風の魔法を避けられるんだよ。赤弧狼の二つ名持ちだけはあるな」
「何言ってんのよ。ワイトだって格好良かったわよ」
「へえ。惚れたかい?」
「残念ね。彼の方が素敵だもの。ワイトなんか足許にも及ばないわよ」
「はいはい、ご馳走様なこった。さて、俺もコイツ等の剥ぎ取りをするかね」
ワイトはそう言ってローブを捲って腰に差しているナイフを抜き出す。
ソンジュが仕留めて近場に転がっているリーノピの遺骸から討伐証明部位を剥ぎ取っていく。
ユウも手伝おうとしていたが、ワイトはそれを断っている。
「ユウはコイツ等のどこが討伐証明部位かも知らねえだろ。こういう事は経験者に任せとけって」
「あ、うん。ごめんね、役立たずで……」
「馬鹿言ってんじゃねえよ。事前に掛けて貰った強化だったか。あのおかげで俺は駆け回れたんだからよ」
「慰めてくれてるんだ。ありがと」
「ったく。ユウ、あんたはもっと自信持った方が良いぜ。あんたの魔法ってのは、この世界でも最上位と言えるんだからよ」
「でも私は努力して訓練して魔法が使えるようになったんじゃないのよ。たまたま誰かに与えられたに過ぎないのよ。いつ消えるかも分からないんだから」
「そうかもしれねえがよ。それでも今現在あんたは魔法が使えるんだ。そしてそのおかげで俺もソンジュも助けられてんだ。そのことだけは誇って良いんだぜ」
ありがと、ワイト。
でも、どうしても私の魔法って「借り物」としか思えないのよ。無理矢理押し付けられたにしても、すぐに奪い取られるかもって意識が抜けないのよ。
仕方ないじゃない。努力して身に付けたんじゃないんだから。
マンガや小説の主人公達って、なんでチート能力を自分の力だって考えられるのかな?
知識なんかは分かるわよ。それまで生きてきた中で「自力」で学んで習得した力だもの。内政チートを賛美する気はないけれど、それでも「本当」の自分の力で行なってるんだから。
でも能力チートは? 神様に与えられたから信じられる? ならその神様の気まぐれで取り消しになるかもしれないじゃない?
たぶんそんな事を考えるような人達は、神様が転移転生の対象には選ばないんだろうな。物事を深く考えない能天気な人しか転移転生させないんだろうな。
「けど、なんで俺は倒れてねえんだろうな。絶対に一周もたねえと思ってたんだがよ」
「ああ、それね。たぶん私の魔法のせいだと思う。私の回復の魔法って、体力だけじゃなくて魔力の補充もしてくれるみたい」
「はあ!? え、つまりユウは魔力タンクみてえなもんなのか?」
「魔力タンクって……うん、言い得て妙ね」
「……なあ、ユウよ。その力はなるべく使わないでくれねえか。それで魔力切れで倒れられたら元も子もねえんだからよ。あんたが後ろに控えている、それだけで俺達は戦えるんだからな。何かあっても癒してくれる、それだけで俺達は安心できるんだからよ」
「でもそれって私は戦力外って事じゃない? お客様扱いは嫌よ!」
「違えよ。戦闘に入る前の強化の魔法で十分なんだよ。それが出来る時点であんたは確実に戦力になってるんだぜ。さっきも途中で俺の傷を癒してくれてただろ。それにソンジュも言ってたよな。最後にあんたが立っていれば、それで俺達の勝ちなんだよ」
ダメ、なんか涙が出ちゃいそう。
ソンジュだけじゃない。ワイトも私をただ護るだけの存在じゃなくて、パーティの一員だと考えてくれてるんだ。戦力として見てくれてるんだ。
うん、私はやっていける。ソンジュとワイト、この二人といたら私は大丈夫だ。なんとしても元の世界に戻ってみせる。
……ただ二人と別れる時に大泣きしちゃいそうだけど。
「うん、分かった。けれどワイトの継戦能力が上がるのは悪いことじゃないと思うの。だからこれからも無理しない範囲でワイトを回復させるわよ」
「ったく、ソンジュと言いあんたと言い。……もう少し可愛げってもんがねえのかよ」
「ワイト? 貴方って女性に夢を見過ぎよ。そんなだとずっと独り身のままよ」
「うるせえよ!」
ワイトが剥ぎ取りをしている横で、ユウはそんな話を続けていた。
少しするとソンジュが二人の元に戻ってくる。
リーノピ達は一箇所に纏めて積み上げているようだ。
「総計は百八十六匹だな。よくもまあこんなに集めたものだな」
「そいつはここらに転がっている分も含めてか?」
「当然だろう? 私は自分が殺した数は覚えているよ」
「……つくづく凄えよ、あんた。二百近い数だと言い当ててもいたしよ」
「お前のあの爆発の魔法も凄いと思うのだがな。たぶん風の魔法なのだろうが、あんな短い呪文でよく使えるもんだよ」
「アレは空気を極度に圧縮して、ソイツを飛ばした先で破裂させてんだよ。呪文は俺の秘策さ。詳細は勘弁してくれや。それにユウの呪文の方が短いだろ」
「聞いたところで魔法の使えない私には意味がないだろうがな。よく軍はお前を手放したな」
「仕方ねえさ。アレは成功率は高くねえし魔力も余分に費やすしよ。軍にいた時には役に立たなかったんだよ」
「成功率が低い? 全てが爆発していたようだが?」
「俺だって驚きさ。ユウよ、あんたが何かしてたのか?」
「ええと、ワイトの敏捷性だけでなく器用度も強化してたんだけど……」
「なるほどな。私が剣をいつも以上に上手く使えるのと同じように、ワイトの効率も上げていたと言うことか」
「ユウ……あんた絶対この三人の中では一番役に立ってるぜ」
「えええ! だって戦闘中は私は見てるだけなんだよ」
「ユウ、戦闘は事前準備が一番大事だよ。理想は戦わずに勝つ事だからね」
「違いねえや。そもそも俺の脚が治ってなけりゃ、こんな方法取れなかったんだからよ」
ああ、なるほどね。ユウは自分が役立たずだと思い込んでいた訳だな。
ワイトはそんなユウに自信を持たせたと言うことか。
軍とやらも末端だと馬鹿ばかりのようだな。ワイトみたいな奴を手放すなんて愚かにも程があるだろう。
魔法兵だった癖に単身で魔物の群れに突っ込んでいく胆力も持ってるんだ。他人を気遣える優しさだって持っている。たとえ走れなくなったとしても指揮官としては十分だろうに。
まあ、そのおかげで私達はワイトと知り合えたんだからな。軍の愚かさに感謝すべきなんだろうな。
「それでこのリーノピ達はどうするの? また商人に売り払うの?」
「百八十六匹のリーノピか。交渉するのも馬鹿馬鹿しいんじゃねえか?」
「そうだな。ワイトの爆発の魔法で死んだ奴は痛みも激しいしな。総額でも百五十レイと言ったところか。ギルドへの報告と討伐の報酬だけで良いだろう」
「欲しけりゃ勝手に持っていけって事かよ」
「そんなので良いの?」
「冒険者がこんな不測の事態に対応できる訳がないからね。ギルドに報告すれば片付けてくれるさ」
「……おや? ようやく後方から商人達が来たようだぜ。連中は自分達が無意味な休憩を取ってた事に気付いてもねえんだろうけどな」
「余計な時間を取られるのも惜しいしな。さっさと次の街に向かうとしようか」
ソンジュ達三人は辺りに転がるリーノピの群れを放置したまま歩き始める。
いつの間にか霧雨も止んでいる。周りを覆っていた霧も晴れてきているようだ。後方の商人達にワイトが気付いたのもそのためだ。
商人達と買い取りの交渉をしても大して意味のない値しかつくまい。時間を掛けたところで無駄なのだ。
ソンジュは蓄えもあるし、ユウは四人家族が二年以上暮らせるだけの手持ちがある。ワイトだって先のスプルやピーフスの報酬が残っている。
ソンジュは今度のリーノピの発見討伐の報酬もワイトに譲る気だ。なにしろワイトの鎧も衣類もボロボロなのだ。
ワイトだけがリーノピの群れに突っ込んで、自らが巻き込まれるのも構わずに魔法を使っていたのだから。
装備も衣類も再買い替えとなるだろう。足りなければピーフスの報酬を丸々充てても良いかなとソンジュは考えていた。
三人は後方の商人達が驚きの声を上げているのを聞きながら、だがその声を無視して街道を歩き続ける。
もう少し進めば次の街の城門も見えてくるだろう。




