53.あんたらしいよ
ソンジュとユウは麦畑が拡がる場所を越えて、延々と続く草原を眺めながら街道を進んでいく。
ユウは溜息を吐きながら、ソンジュに愚痴っている。
「ふう。それにしてもいつまで経っても草原が拡がってるわね。この辺りには森なんてないの?」
「わざわざ森を抜けて街道を通したりしないよ。余程の事でもない限り、獣や盗賊の隠れられそうな森の近くを通ることもね」
「考えたら当然よね。なら小高い丘とか山なんてないの?」
「王都と副都の間はなだらかな地形だよ。河なんかは幾つもあるし丘もあるが、山と言えるほどの高さの山はないね。ユウの世界では数日歩けば山々に行き当たるのかな?」
「そっか。私の元いた国がおかしいのね。国土の九割が山地って国だもの」
「凄い国だな。そんなに平地が少ないのなら作物を育てるのも大変だろう?」
「そうね。主食となる物以外はほとんど他国からの輸入頼りだった筈よ」
「……それは隣国との関係が悪化すると危険なのではないのかな?」
「あ! 言ってなかった? 私の国って最辺境の島国なのよ。周りが海ばかりだから、簡単に隣国から攻められないわ。こちらから攻め込んだりしない国だしね」
「辺境なのにあれほど進んだ文明の物があるのかい?」
「うーん。確かに辺境にある国なんだけどね。その地域の、ううん、その世界の筆頭と言っても過言じゃない国なのよね」
本当に変な国よね、日本って。彼が教えてくれたコピペ? を思い出すわ。
なんで極東の最辺境の島国が地域一番の発展をしてるんだろう?
まあ周りの国は、ろくでもない政治形態や民族の国しかないから仕方ないのかもしれないけれど。
でも、そっか。この光景もソンジュ達には当たり前なのよね。
山の麓が即座に海岸線に繋がっている方が変なのよ。
しかも、その山々が火山って言うのもね。私が年に二千回を越える有感地震があるって言ったら驚いていたじゃない。
こんな景色の方が普通なのかもしれないわね。
ソンジュとユウは街道を進み続ける。幾度か休憩を挟みながら。
それでも獣や魔物が現れるような気配は感じられない。
やはり人目があると襲ってこないのだろうか。
昼休憩を終えてしばらくすると、城門が目に映る。
向かう先の街はあくまで宿場街として存在しているのだろう。王都と副都を繋ぐ街道の休息地として。
そんなに大きな街ではないようだ。ユウは最初に訪れたレリの街に似ているのかな、と考えていた。
城門前に到着したのは昼三刻頃だった。ユウの感覚では午後三時くらいか。
街自体は大きくはないが門衛の数はそこそこいるようだ。やはり主要街道で商人や旅人も多く通るからだろう
城門での検査も簡単に終えたソンジュとユウは、その場で佇んでいる。ワイトが城門を越えるのを待っているのだ
二人は既にワイトをパーティの一員として認めている。放っておくつもりはないのだ。
八半刻、十数分経った頃にワイトの姿が見えた。
どうやら馬車を牽いた商人と話しながら歩いてきたようだ。その商人と握手している様子が窺えた。
ワイトが二人に気付いて近付いてくる。
「よう、待たせたな。結局何も起きなかったみてえだな」
「そっちも何もなかったようだな」
「俺を襲っても意味ねえだろ。結局、他人の目に付くかどうかが問題ってか?」
「その可能性が高いな。とは言え、他人に知られたくないのか、他人を巻き込みたくないのか、は分からないがな」
「そりゃ確認しようがねえな。ユウのことを大っぴらに触れ回る訳にはいかねえだろ?」
「そうだな。襲ってくる相手が魔物の群れからお貴族様に変わるだけだろう」
「貴族に対する当たりがきついようだが、あんたは貴族に対して何か含むものでもあんのかよ?」
「女だてらに冒険者なんてやっていると、愚かな領主や馬鹿なギルドマスターに会う機会も多いのさ」
「……ああ、なるほどな」
ワイトも納得している様子だ。
元軍属だったワイトも聞き及んでいる。
大概の領主やギルドマスターは善良で真面目だが、中には救い難いほど愚かな貴族がいる事を。冒険者を召使いと同じと思っている者や、領民を奴隷だと考えている者がいる事を。
赤弧狼ソンジュはそんな者達に会うことも多かった筈だ。何しろ皆無と言って良いほどの、高ランク「女性」冒険者なのだから。背は高いのだが、それでも絶世の美女と言っても良いのだ。
馬鹿な事を言う貴族にもよく出会ったのだろう。
妾になれだとか、伽をしろだとか言いだすような馬鹿な貴族やその子弟達に。
そしてそう言った者達を下していったのだ。
ソンジュも言っていたではないか。魔法兵団長の馬鹿息子を潰したと。
その責任を取って兵団長が辞めざるを得なくなった事はワイトも知っている。
ソンジュが貴族に対して思うところがあるのも当然だ。
その後はワイトはソンジュに詳しい事を尋ねたりせず、二人を宿に案内する。
この街の宿でもワイトは歓迎されていた。部屋も二部屋を優先的に用意してくれるようだ。
ワイトは王都と副都の間の街では相当感謝されているらしい。
だがそれは彼が使い潰されていたという事を示している。ユウは内心で少し怒りを感じていた。
この街でもギルドに顔を出しにいく。
そんなに大きな街ではないが、やはり王都と副都を繋ぐ街道にある街だ。街道の調査討伐の依頼などが必須となる。そのためギルドもあるらしい。
「ねえ、ソンジュ。街道の安全を保持するのは領兵や国軍の仕事じゃないの?」
「普通ならそうなんだろうが、冒険者の食い扶持を作ってるんじゃないかな?」
「ああ、それなら俺が理由を教えてやるよ。早い話が領兵が足りねえのさ。軍人やら領兵ってのは金食い虫だからよ。なにしろ何も産み出さない存在なのに、飯は食うんだからな。最低限に抑えてるのさ。街の治安維持で精一杯じゃねえかな」
「なるほどな。この二代ほど賢王が続いていると言われているが、そうして国の財政を立て直している訳か」
「それに冒険者の中から使えそうな奴を見つけて、軍に引き抜く目的もあるんだろうよ。ソンジュよ、あんたも声をかけられたんじゃねえか?」
「王族の女性専門の近衛にならないかと誘われた覚えがあるな。けれど断ったよ。王宮に引き篭もって、碌に他の街に行けないなんてのは嫌だからな」
「あんたらしいよ」
ああ、なるほど。言ってしまえば外部委託ってことね。
軍人や領兵、要するに公務員の採用を減らして民間に任せているんだ。
なんか先進的な考えね。王様って転生者なの?
でも二代続く賢王って事は違うんだろうな。改革を行なうのが全て転移転生者だなんて筈がないもの。
地球のルネッサンスや産業革命だって、逆行転生者が行なった訳じゃないしね。……たぶん、きっと、おそらくは。
それと有用な人材を探すためなんだ。
ソンジュも言ってた筈だけど、冒険者ってある意味最底辺の職業なんでしょ?
家業を継げないか継ぐつもりもない人達なんでしょ? そんな人達からも能力があれば拾い上げていくんだ。
たぶん守旧派の貴族なんかは反対したんでしょうね。それでも実行してるって事は、ほんとに賢王みたいね。
やはりこの街のギルドはそんなに大きくはないようだ。街の規模から見ても仕方がないのだろう。
ソンジュは受付の方に周辺の情報を確認しに行く。
ユウはいつものように掲示板を眺めている。
ワイトは所在無げにユウの傍で立っていた。
掲示板に興味がないのかなとユウは思ったが、考えてみればこの時間に残っているのは戒めか塩漬けになっている依頼だけだろう。
ワイトに冒険者になる気があっても、ほとんど見る意味がないのだ。
この街のギルドの戒めの依頼って採取みたい。
きっと何泊か必要な距離なのに、一日分の費用しか出ないのよね。絶対に冒険者が損をするようになってるんだ。
他の冒険者に一言確認を取りさえすれば避けられる筈なのにね。
きっと街ごとに、護衛、討伐、採取なんかで変えてるんだ。すぐには戒めだと気付かれないように。
あれ? 眠り病の調査依頼の最高額と最低補償額が更新されてる? 一日ごとに変更されているの?
どんな病気なのかは分からないけれど、何か焦っているような感じね。
国もようやく本腰を入れたってこと?
治癒魔法では治せない病気なんだろうな。軍や諜報部だけでなく民間にも情報を調べさせるんだもの。
王都に近い次の街だともっと報酬が上がっているのかな?




