48.あくまで設定上での話だよな?
ソンジュ達三人はギルドに到着する。
副都にあるギルドの建物だ。レリやウォーロキの街のギルドとは大きさが違っている。
三階建ての建物だ。白い漆喰で壁が塗られていて一部が剥げ落ちているが、その下からはレンガが組まれている様子が窺える。総レンガ造りなのだ。
ギルドの建物自体は隣に並ぶ建物三つ分の幅があるだろう。奥行きも相当ありそうだ。
この周辺にある街々のギルドの総支部となっているのだろう
ウォーロキの街のギルドとは違い、今回はソンジュを先頭にして入っていく。
ギルド内はそこそこの数の冒険者がいるようだ。時間的に依頼完了の報告に来ているのだろう。だがそのほとんどが二十歳以下の若者のように見えた。
ワイトとユウを依頼の掲示板の傍に残して、ソンジュは受付の方に向かう。
ユウは興味深げに掲示板を眺めていた。
やっぱり副都のギルドにも眠り病の調査の依頼が貼ってあるわね。
あれ? でも最高額が五十レイになってる? ソンジュが言っていた戒めの依頼じゃないのかな?
でもどちらかと言うと最低補償額を記すべきだじゃないのかな。
最高額が幾ら上がっても意味がないって思うんだけれど。例え最高額が五十レイになっても、実際に支払われる報酬が十レイなんかだと冒険者だって二度と依頼を受けないでしょ?
それにその事を教えられた他の冒険者達だって、この依頼を受けなくなるんじゃない? やっぱり国の依頼なのかな?
他は……って、あれ? 残ってないようね。戒めの依頼なんて副都のギルドにはないのかな?
ワイトは掲示板には興味なさ気な様子ね。
彼って王都に行って冒険者になるつもりだったんでしょ? 王都での依頼に近い内容の筈の、副都での依頼に興味がないのかな?
少し待っているとソンジュが掲示板の傍の二人を手招きしているのに気付く。
どうやら話を聞いてくれるギルド職員が用意出来たらしい。
ワイトとユウの二人はゆっくりとソンジュの方に向かう。
三人揃ったところで、ギルド職員が奥の部屋に案内してくれた。
前と同様に会議室なのだろう。据えられていた机や椅子は同じようなものだ。だが部屋自体の大きさはウォーロキの街のギルドより広かった。
別の職員が水の入ったカップをソンジュ達三人の前に置いて去っていった。
「なんでこの街でも水が出るんだ? 俺のこと何か話したのか?」
「いいや? 同行しているだけの『他人』の事など話す筈がないだろう?」
「……なあ、その他人ってのは……あくまで設定上での話だよな? 本気で思ってねえよな? ……そうだよな?」
「たぶん私の認識票を確認したのだろうな。高ランク冒険者だと知って水を出したんじゃないか?」
「……答えてくれねえのかよ……そう言えば、あんた赤弧狼だもんな」
「お前にその二つ名を連呼されると、なぜか馬鹿にされている気分になるな」
しばらくして一人のギルド職員がやってくる。
どうやらギルドマスターではないようだ、さすがに副都のギルドでは簡単にギルドマスターを出してこない。
それでもその職員は自分を紹介する時に副長クラスであると告げていた。
ソンジュは八匹分のピーフスの討伐証明部位を見せながら、街道上で起こった事を話していく。その後に処理を手伝ってくれたウォーロキの街から来た商人の名を出しながら。
いかにも倒したばかりで獲ったように見える討伐証明部位だ。それに彼女が赤弧狼の二つ名で呼ばれる冒険者である事も確認済みだ。
副都の街のギルドの副長も、ソンジュの話を疑ったりはしない。
それでもやはり疑問は感じていた。
彼は冒険者から副長まで昇りつめたのだ。ピーフスの生態だって知っている。
ピーフスの「群れ」だと? それも八匹もの群れ? しかもウォーロキとの間の街道で?
王都に向かう方向ほどではないが、それでも他の街との中継点でもあるウォーロキの街への街道も掃除対象になっている筈だ。
どうして八匹ものピーフスがいるんだ? 定期的に討伐している筈の領兵か冒険者が手を抜いていたとでも言うのか?
商人の名まで出しているんだ。その名は聞き覚えがある。副都に店を構える商人だった筈だ。
たぶんウォーロキに荷を運んで戻ってくる最中だったのだ。ウォーロキで仕入れた商品を運びながらの帰りだろう。
その商人に確認を取るのも容易だ。
だから彼女が嘘を言っているとも思えないのだが。
「そちらの二人は仲間かね?」
「ああ、女性の方は私の連れだよ。だがコイツの方はたまたま行く先が同じだから一緒にいるだけさ」
「ふむ、彼女の方は君の仲間か。そちらの彼は何か身分を証明できる物があるのかな?」
「ああ、コレならどうだ?」
「ほう! 元軍属の魔法兵か! なるほど。それなら君と彼の二人でピーフス八匹を倒したのも納得できるな」
ソンジュとワイトはその言葉に肩を竦めて見せるだけだった。
そして話を終えると三人はギルドを後にする。
ピーフス達の発見と討伐の報酬を受けとって。
ウォーロキの時と同じだ。街道で襲い掛かってきた魔物への報告や討伐に報酬を出さない訳にはいかない。
報酬を出さなければ、彼女等はこの副都近辺が危険だと言い回るだろう。
他の冒険者に話されれば、誰もが魔物との遭遇報告を行なわなくなる筈だ。
ソンジュ達三人は夕食を取るための店を探して裏通りの方に向かう。
いくらピーフスの発見討伐報酬と肉の売却益を受けとっているとは言え、やはり表通りにある料理屋に向かう気はなかったようだ。
こちらもワイトが副都に来た際によく行っていた店を選んでいる。
ある意味最底辺爵位のワイトはこの三人に合う店を知っているのだ。一般冒険者が通うような店でもなく、上位貴族が訪れるような店でもない。ある程度裕福な者が行くような、そんな感じの店なのだ。
「なかなか良い店だな」
「そうだろ? 副都に来た時には必ず来るんだよ」
「ほんと。美味しいわね」
ワイトが案内した店の料理の味はソンジュもユウも文句がないようだ。三人共に美味しそうに舌鼓を打っている。
食事を終える頃には時刻は夕一刻を過ぎているようだ。そろそろ辺りも暗くなり始めている。
ソンジュ達はワイトが予約しておいた宿に戻ってきた。
受付にいた男性は快く三人を迎えてくれる。そして傍にいた別の男性に部屋への案内を申し付ける。
どうやらこの宿は普通にある家族経営の宿とは違うようだ。ホテルのように専門の従業員を雇っている宿らしい。
やはりこの宿でも隣り合った部屋にしてくれているようだ。
ソンジュとユウはワイトと別れて部屋に入っていく。一息入れたらワイトの部屋に向かう事を告げて。
部屋はウォーロキの街の宿の部屋と似たような作りと広さであった。
窓側と入り口側にベッドが置かれていて、その間に机が置かれた空間がある。
やはり基本は商人達が使うような宿なのだ。
ソンジュは当然のように窓側のベッドに腰を下ろす。外部からの侵入が容易な窓側のベッドに。
「ふう。だがユウは良いのかな? この街を明朝発つことにしても。魔法に関しては無理だろうが、副都でも異界からの迷い人の情報は探せるのではないかな?」
「……うーん、それなんだけど。もし私と同じ状況の人がいてもよ。結局その人は還る方法を知らないか、還る気がないって事よね?」
「そういうことになるね」
「それに過去にそんな人がいたとも思えないのよね。だってこの世界に異界の英雄の話なんてないんでしょ? 信じられないような力を持ってて世界を統一したり、世界の危機を救ったりした人とか。内政チート……えーと未来の知識なんかで世界を変革した人も」
「そんな話は聞いた事はないな。御伽噺の中ですらね」
「それに異世界って『私のいた世界』の他にもあるかもしれないでしょ」
「『ユウのいた世界』以外の世界か。……確かに考えられなくもないな」
「だから魔法の事を調べるのが優先だと思うわ」
この考え方もサークル仲間達が言ってたのよね。
本当に同時期に同場所に来た迷い人ならともかく、もしそんな人が過去にいたとしてもその事例って役に立たないかもって。
それに迷い人ならその存在を隠そうとするだろうって。俺TUEEEしたいなんて考えないだろうって
実際私もそうだもの。だって国や貴族に目を付けられるなんて真っ平御免よ。
世界だって元の世界と転移先の世界の二つしか存在しない筈ないって。
私がいた元の世界を中心にして他の世界が月のように存在している? それってまるで天動説じゃないの。
私達の世界の方が土星の輪のように無限にある欠片の一つでしかなくて、どこかの中心となる世界の周りを漂っているだけかもしれないじゃない。
……つくづく彼等って変わってるわよね。なんでそんな考え方できるのかな。




