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46.私が女だからと軽く見ていたのだろうな

 スプルの時と違い、簡単に撃退出来ている事にユウは唖然としている。

 ワイトの魔法でピーフスの放つ雷の魔法は完璧に封殺されていた。

 ソンジュの剣でピーフスの群れは二方向に別れさせられて、後方にいた二人はほとんど動かずに避ける事が出来ていた。

 そしてユウの麻痺の魔法でピーフス達を動けなくする。

 完勝と言っても良いくらいの出来だ。


 ……うん……なんか凄い……って言うか、楽勝?

 えええええ!? 三人それぞれの役割がきちんと決まっていて嵌っちゃうと、こんなに簡単なの!?

 スプルの時にこれだけの連携が取れてたら、誰も怪我なんかしなかったわよ。


「ユウ、大丈夫かい? 具合が悪くなったりはしていないようだが」

「あ、うん。問題ないわ。……でも二人共本当に凄いわね。相手の魔法を完全に防いだり、あんな突進を逸らせるんだもの」

「なに言ってんだよ、ユウ。あんただって八匹全部を麻痺させたんだぜ。そっちの方が凄えだろうが」

「でも二人がそれを出来る状況を作ってくれたからでしょ? 私だけだと絶対に無理よ!」


 ユウは決して謙遜している訳ではない。本気でそう思っている。

 あの雷の魔法を防ぐのは難しいだろう。それにあの突進を分断させる事も出来る筈がない。

 ユウの麻痺なんて言ってしまえば接待のようなものだ。簡単にそれが出来る状況を二人に作って貰った上で行なっているに過ぎないのだから。


 正直私のチート能力って凄いのかなと思ってたんだよ。魔法使いのワイトだって治癒応用の麻痺の魔法に驚いていたみたいだもの。

 確かに治癒なんかは凄いのでしょうね。ワイトの膝も治せたんだから。

 でもそれらだってサークル仲間達の助言や現代日本の知識があったおかげじゃない? 治癒が麻痺代わりになるとか、半月板の損傷とか普通は知らないでしょ?


 でも今回の戦いで認識したわ。

 やっぱり私は支援型の魔法使いなんだって。裏方なんだって。剣士のソンジュや魔法士のワイトのサポートが主体になるんだってね。

 私はそれを残念に思ったりしないわ。俺TUEEEをしたい訳じゃないもの。元の世界に還るのが重要なんだから。


「しっかしコレどうするよ? 放っておく訳にはいかねえだろ」


 周りを眺めながらワイトが呟く。

 ピーフスと言うのは牛くらいの大きさをした魔物だ。それが八体も首を切られて転がっているのだ。しかもほとんどが道を塞ぐようにして。

 ワイトはピーフスの使う雷の魔法を妨害するために使った魔法の素材を道から取り出していた。草で覆われた草原よりも調達は楽であろうからだ。

 ワイトとユウは道の真ん中で待機していたのだ。

 当然、二人の傍を駆け抜けようとしていたピーフス達が麻痺して倒れるのも街道上になっていた。


 そしてピーフスの肉は食べられる。例え冒険者の餌と呼ばれるような料理にしか使えなくても。

 下手に放置したままこの場を去ると、後から通りかかった者達で奪いあいになる可能性もあるのだ。


「取り損ねた昼休憩がてら、ウォーロキの街か副都から来る隊商を待つしかないだろうな。彼等に売れば今夜の宿代にはなるさ」

「いやいや、八匹だろ! 一季は遊んで暮らせる額になるんじゃねえか!?」


 この世界の一年を四季に分けてるのよね。その一季ってことは三ヶ月くらい?

 三ヶ月ほど遊んで暮らせるなら、この世界の物価だと五十万円ほどになるの? 一匹当たり六、七万円?

 あのギルドに貼ってあった依頼だと一匹当たり三十レイ、一万二、三千円だった筈よ。相場の五分の一以下? 本当に足許見てたようね。


 三人は道を外れた草原に座り込んで、軽く食事を取っていた。ピーフスのせいで食べ損ねていた果物を。

 八匹分のピーフスの討伐証明部位だけは剥ぎ取っている。ソンジュは当然のようにワイトに行なわせていた。


 果実を食し終えてしばらくすると道の両側からやってくる人達に気付く。

 どうやら副都の方からも人が来ているらしい。レリの街を出た時とは違い、副都の方にウォーロキの街に向かう人を阻害するような魔法なんかは掛かっていないようだ。

 彼等は共に商人だった。両方とも馬車を牽いているからには、そこそこの商人なのだろう。

 そして共に目の前に広がる光景に驚いているようだ。

 ソンジュが立ち上がってその二組に告げている。


「商人の方々かな。少し話がしたいので傍に来て欲しいのだが」


 共に少し身構えているようだ。だが声を掛けてきたのが女性だと分かると、それぞれ二人ずつの組が近付いて来た。


 最低限の護衛が二人ってのはこういう事ね。一人は馬車の近くに残って見張りをして、もう一人が雇い主が馬車から離れた時の護衛をするんだ。

 マンガや小説だとパーティー単位で護衛を雇ったりしているけれど、そんな無駄金を使う筈ないわよね。

 と言うか、パーティーを組む冒険者って少数派? 実際はパーティーと言うよりゲームなんかのギルドに近い? 所属はしていても別個に依頼を受けるとか?


 ソンジュが状況を説明していく。

 八匹のピーフスの群れの言葉に、それぞれの商人に付いて来ていた護衛の冒険者が驚いている。彼等もピーフスが単独で活動している事を知っているのだろう。

 ソンジュが買取を求めると、共に疑わしそうな目で見ている。

 副都から来た商人の方は、邪魔だから退けろ、片付け代を払え、などと喚いていた。


 だがウォーロキ側から来た冒険者が雇い主の商人に何かを囁いた。それを聞いた商人は慌てたように自分が買い取ると告げる。

 たぶんその冒険者はソンジュが赤弧狼だと分かったのだ。

 ソンジュは別に自分の行動を隠している訳ではない。ギルドマスターが彼女がこの街に来ていたと言いふらしても構わない。

 そう、「赤弧狼」がウォーロキの街にいたと言ってもだ。


「ああ、この件は当然副都のギルドに報告するよ。八匹ものピーフスの『群れ』なのだからね。その際には手伝ってくれた商人の事も告げるだろうな」


 ソンジュの言葉にウォーロキから来た商人のほうは、ホッとしたように嬉しそうに肯いている。

 慌てたのは副都側の商人だった。このままではギルドの信用はがた落ちだ。

 横にいる冒険者も白い目で自分を見ている。余程の高額の依頼料でないと、以降は護衛を引き受けてくれないだろう。

 いや、この男がギルドに自分が喚いた事を告げでもすればどうなるか。現時点で依頼料の引き上げが必要になる。口止め代わりとして。

 副都側の商人が何かを言っているのを無視して、ソンジュはウォーロキから来た商人と話を続けている。


 ウォーロキ側の護衛の冒険者は、副都側の商人の護衛とは顔見知りだったのだろう。彼に何かを囁いていた。それを聞いた副都側の護衛は目を見開いてソンジュを見直している。

 その護衛も冒険者なのだ。ピーフスという魔物も知っていれば群れなんて作らないことも分かっている。そしてたった三人で八匹ものピーフスの「群れ」を倒した者達をじっと見詰めていた。


 ウォーロキ側の商人と話を終えると、ソンジュはワイトとユウを呼んですぐにその場を後にする。

 副都の方から来た商人は何かを言っているようだが、ソンジュ達は無視して歩き始めた。


 ウォーロキ側の商人がこの場に一人護衛を残して、街に戻って馬車を用意するのかもしれない。もしかするとウォーロキ側の商人が副都側の商人に手伝いを求めるのかもしれない。

 だがそれだって好きにすれば良い。三人にはどうでも良いのだ。

 ただギルドへの報告時には、ウォーロキ側の商人の名しか出さないだろうが。


「で、幾らになったんだよ? まあ運びもしねえんだから、そんなに高値じゃねえだろうがよ。相場の半値くらいか?」

「一匹当たり百八十レイだな」

「は!? え!? 持って帰った時と同額じゃねえか!?」

「傷なんて刎ね飛ばした首くらいだしな。状態は相当良いだろう? 後はギルドに報告すると言ったのが効いたのだろうな。名を上げる良い機会だしな」

「ああ、なるほどな。ギルドの評価ってのも馬鹿には出来ねえもんな。あの副都側の商人は馬鹿じゃねえのか? あんな事言いやがってよ」

「たぶんだが、私が女だからと軽く見ていたのだろうな」

「赤弧狼に向かって愚か過ぎんだろ」

「その二つ名で呼ぶなと言った筈だが?」


 魔物と獣の違いはその身に魔力が宿っているかにある。

 魔力が宿っていると痛みにくくなるのだ。魔力が自然に抜けきるまで、常温で一旬近く放っていても腐らないのだ。もっとも味は推して知るべきレベルだが。

 それでも数百キロの肉を腐らせずに保持出来るのだ。一般人や冒険者の食事には十分なのだろう。

 そしてソンジュ達が仕留めた八匹のピーフスは、ユウが麻痺させた上でソンジュが首を刎ねている。身体中に傷を負っている事もない。だから傷口から魔力が抜けるのも少なくなる。その保存期間は更に延びるだろう。


 ユウは二人の会話に加わらずに黙っていた。


 やっぱり男尊女卑の風潮はあるのね。そりゃ現代地球でも完全に払拭されてはいないんだもの。仕方ないのかな。

 それに魔物の肉の相場なんて分からないもの。口出しなんて出来ないわよ。

 でも一匹が百八十レイなんだ。……あの依頼の六倍なんだ。


「ねえ、ウォーロキの街のギルドにピーフス狩りの依頼があったと思うんだけど。あの依頼の額ってなんなの? あれじゃ誰も受けないでしょ?」

「ああ、あれはね。ランクが上がったばかりの者や、読み書きが多少出来るようになった者への戒めでもあるのさ」

「え!? ……戒め?」

「言っただろう、ピーフスは普通は単独行動しかしない魔物だと。だから本来ならあの魔物から逃げるのも容易いのさ。そして苦労して倒しても、持ち帰るのも大変だ。つまり他の上位の冒険者に相談しないような者達に対する注意なんだよ。他の街のギルドにも同様の依頼票は貼っているだろうね」


 うわ、厳しいわね。でもあれって注意喚起なんだ。他の者に相談しないと馬鹿見るよって教えているんだ。

 レリの街で見た採取の依頼もそうなの? 眠り病だかの調査も同じ?

 もしかしてギルドがわざと貼り出しているのかな? そう考えると親切なのかもしれないわね。

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