44.何か言いたい事でもあるの!
朝食を終えて果実を買った三人は大通りを進んでいく。副都に続く街道への城門に向かって。
城門に付いたのは朝二刻になる前だった。
やはり換金屋に寄ったレリの街の時とは違い、朝も早いためか城門前はそれなりの人数がひしめきあっている。
さすがは副都に向かう側の城門だ。これだけの人数が副都に向かうのだろう。
ただやはり冒険者と商人達では検める門衛も違うらしい。
ほぼ身体一つの冒険者、馬車で荷を運ぶような商人、馬の背に荷を乗せただけの行商と自分で荷を背負っている小売商人、の三つに別れているようだ。
当然それらの違いで検める内容も違うのだから仕方がないだろう。
へえ、ちゃんと考えてるんだ。マンガや小説だと区別せずに一纏めにして長蛇の列を作らせたりしてるみたいだけど。……貴族だけを別枠にしてね。
当然よね。一日一組通るかどうかも分からない貴族のために専用の衛兵なんて配置する訳ないわよ。
それに荷が多い商人と、少ない商人、城内のギルドからの依頼で外に出るかもしれない冒険者が同じ扱いな筈がないわよね。
出る方だけじゃなくて受け入れる方だって同じようになっている筈よ。
依頼を終えて帰ってきた冒険者を延々と並ばせて、彼等を期限切れで任務失敗になんてしてみなさい。この街から冒険者は一人もいなくなると思うわ。
「ねえ、ソンジュ。前の街、レリだっけ、では門衛は二人しかいなかったと思うんだけど?」
「それは当然だろう。この街とレリの街、この街と副都では行き交う人数も相当に異なるからね。ユウは眠っていたから知らないかもしれないが、昨日もレリの方向の城門は衛兵が二人しかいなかったよ」
「あん? ユウの世界じゃ入城や出城の検査がねえのか?」
「そもそも城塞都市なんて存在しないわよ!」
「へ!? そりゃ危険じゃねえのか? 魔法がない世界なら魔物もいねえのかもしれねえが、それでも普通の獣はいるんだろ? そんなのが入ってこれないように街を壁で覆わなくても平気なのかよ?」
「うーん。でも、そんな心配しなくても済むのよね。たぶん住み分けが出来てるからだと思うんだけど……」
そう言われると気になるわね。
どこかの地方ではクマに襲われたり、イノシシなんかが突進してくるなんて聞いたこともあるけれど。でも街を壁で囲んだりしてないわよね。
巨人に襲われないように、壁の中に住んでいるアニメは見たことがあるけど。
どうしてかな? あ、水が豊富な日本だと川が堀代わりになるから?
まあ、あの狭い平野部に億の桁の人間が住んでるんだもの。街の範囲を限定する訳にもいかないわよね。
ユウは知らないのだろう。
昔は関や木戸などで人の出入りだけでなく、獣の侵入も阻止をしていた事を。
塀なども日本では家屋一軒ごとに存在している。もちろんプライバシーを護る目的もあるだろう。だが他者や獣の侵入阻止が用途でもあるのだ。
街全体を囲うのと、個々の家を囲うのとの違いに過ぎない。どちらが良いのかなど一概には言えないのだが。
三人は冒険者用の列に並ぶ。そちらでの検査は単純なものだ。荷物などソンジュの腰のバッグにユウの背嚢、ワイトも同じような背嚢を背負っているだけだ。
それにソンジュは高ランクの冒険者だし、ワイトは元魔法兵だ。共に実績も信用もある。
ユウはどう見ても異国人だが、それでも二人と一緒にいるおかげか簡単に検められるだけで済んでいた。やはり荷物持ちだと思われているのかもしれない。
三人は出市税を払い、街を出て行った。
街を出てもしばらくは周りに同じように副都に向かう者達がいる。
ただソンジュはその者達に話しかけたりすることはなかった。それどころか周囲に威圧を放っているような雰囲気だ。
幾らローブで髪色を隠していても、やはりユウの立ち居振る舞いから異国人だと見抜く者がいるかもしれない。商人なら確実に気になるだろう。
他の冒険者達は街道から外れて草原のほうに向かったりしている。
隊商の護衛以外の者達はウォーロキの街の近くに依頼対象の場所があるのだ。
もっとも副都とそれに隣接する街との間を繋ぐ街道だ。それも一日程度の距離でしかない。
隊商も一応護衛を付けていると言うポーズに過ぎないのだろう。だから人数も多くても二人くらいだった。
単独行の行商人等もコバンザメのように大きな隊商の近くにいる。例え護ってくれなくても、やはり大人数の近くにいると安心なのだ。
ソンジュ達三人の歩むスピードは速かった。
ワイトが嬉しげに何度も駆け出したりしているからだ。昨夜に膝が問題ない事を確認していても、やはり外で実際に走ったりしてみたかったのだろう。
昼休憩を取る時間頃にはソンジュ達三人の周りには誰もいなかった。
「ワイト! 少しは控えろ! 急ぐ必要なんてないんだぞ!」
「あ、ああ。済まねえ。けどよ。どんだけ歩こうが走ろうが、膝が痛くなったり固まったりしねえんだ。嬉しくてよ。つい急いだみてえになっちまった。本当に済まねえな」
「気持ちは分からなくもないが他の者の負担も考えろ。かよわい女性が二人もいるのだからな」
「……かよわい?」
「何よ! 何か言いたい事でもあるの!」
なぜか疑わしそうな目を二人に向けたワイトに、ユウは声を荒げている。
ソンジュもワイトをジトッとした目で睨んでいた。
「とにかくこの辺りで昼休憩を取ろうか。隊商などと同行する気はないが、離れ過ぎるのも良くないだろう」
「あ! ……ああ、そうだったな。済まねえ、気付かなかったぜ」
「……それって人目に付かない場所だと、またスプルに襲われるかもしれないってこと?」
「まあ、一昨日もあの後は何もなかったからね。気の回し過ぎかもしれないが、注意しとくのも悪くはないだろうね」
ソンジュ達は少し道を外れた場所に腰を下ろす。
もう街の周りで育てられていた麦畑は見えなくなっている。一面の草原だ。
各々が自分のバッグや背嚢から昼食用に買った果実を取り出そうとする。
だが次の瞬間、ソンジュがユウに囁き掛ける。
「ユウ、昼食は抜きになりそうだが問題ないかな?」
「……え!?」
「やっぱり、そんなに甘くはねえか……」
ワイトも何かの気配を感じたのだろう。既に取り出しかけていた果実を背嚢に戻している。
ユウは慌てて辺りを見回す。だが山一つ見当たらない様子の草原が延々と続くのしか見えない。盗賊が隠れられるような木立ちも存在しない。
そしてユウには離れた場所の獣や魔物の気配なんかも感じることは出来ない。
「どうやら周りを囲んでいるのではないようだな」
「ああ、あっちの方向からしか気配は感じねえ。コイツ等は魔力があるようだし獣じゃねえな。やっぱ魔物なんだろうよ」
「数は……二桁には届いていないようだな」
「あんた、よく分かるな。俺には一匹じゃねえ事くらいしか分かんねえのによ。そういや、スプルの時も大体の数を把握してたっけ」
「経験ということだろうな」
「俺だって軍にいた頃は結構場数は踏んでたつもりだったんだがな」
ユウも二人の話を聞いていても、もう怯えたりはしない。
ソンジュもワイトもユウが魔法を使える事を知っている。この二人には魔法を隠す必要などない。
それに怪我をして途中で気を失ったとは言え、五十匹近い数のスプルとの戦闘経験だってある。
二人の力量だって分かっている。相手が魔物だと分かっても、無闇に恐れる必要などないのだ。
やっぱり私が目的なんでしょうね。だからたぶんあの魔物達も、死をも恐れずに襲い掛かってくると思うわ。
そんなに私の存在を消し去りたいと思ってる人……じゃなくて、神様みたいな誰かがいるって言うの? そんなに私が邪魔だって言うの?
本当にそうなら素直に元の世界に還してくれれば良いじゃない! なんで殺そうなんて考えるのよ!
少し経つと、はるか彼方の草原の方に土埃が巻き上がっているのが目に入る。
結構なスピードでこちらに突進している魔物の群れがいるようだ。土煙の高さからも相当の大きさの魔物達らしい。
あのスピードで向かってこられたら人間の脚では逃げられないだろう。
ソンジュも迎え撃つつもりらしい。




