34.あんたも言ってやってくれよ
「そこまでだ! その問いは結局ユウの事情を詮索しているのと変わらない。それ以上は訊くな!」
ソンジュの殺気の篭った物言いにワイトは肩を竦める。
ワイトも気にはなるが、何が何でも聞き出そうとは思っていなかったのだ。
それにそんな事はユウこそ知りたいのだ。
ユウは偶然この世界に迷い込んだだけだ。もしくは神様のような存在に無理矢理連れて来られたのだ。
魔法チートだって望んだ訳ではない。その魔法の発動方法だって無詠唱で問題ないし、ゲームなどの知識で出来そうな魔法を使っているだけだ。
そう、まるでゲームだ。ゲームのアバターだ。光属性か回復系の魔法だけを、いきなり最高レベルで与えられたキャラクターのようなのだ。
ワイトの問いに答えるというのは全てを明かすのに等しい。ユウが異世界人である事や、魔法を努力して覚えたのでない事も。
ユウは黙ったままの状態だったが、ソンジュが口を挟んでくれて思わずホッと溜息を吐いた。
「分かった、分かったからよ。確認したかっただけだ」
ワイトの言葉を聞いても、ソンジュは彼を睨みつけたままだった。
ユウから事情は聞いているさ。魔法が使えるようになった理由も原因も分からないって事はね。
たぶん、誰かが与えたんだろうな。最高レベルの治癒や回復と強化の魔法を。ユウが簡単に死なないようにと。
スプルの群れの時にユウを排除する世界の意思などと戯けた妄想をしたが、逆に世界の意思とやらがユウを護ろうとしているのかもしれないな。
一つ溜息を吐いたソンジュは、気を取り直して告げる。
「まずは朝食を取ってからギルドに向かうとしよう。それから防具や衣類の補充だな。たぶん全部終える頃には昼刻も半ばを過ぎている筈だ。今日中にこの街を発つのは無理だろうから、今夜もこの宿に泊まることになるな。だから、ユウ。明後日の朝に街を出ることにしても良いかな?」
「ギルド? この街の依頼を確認するの?」
「いや、依頼を受ける気はないよ。昨日のスプルの件で話をするために行く必要があるんだ。済まないがユウも一緒に来て欲しい」
「スプルの件って……魔法の事も話さなければ駄目なの?」
「いや、ユウは何も言わずにいてくれないかな。言葉の全く分からない異邦人の振り……いや、それは不味いか。片言しか分からない態で、何を言われても黙って首を傾げていて欲しい」
「俺はどうすんだよ?」
「お前は無関係だろう? 偶然傍にいて共闘しただけだ。ユウの事に触れさえしなければ、正直に話せば良いんじゃないのか?」
「……ホントに俺の扱い変わんねえな。ユウ、あんたも言ってやってくれよ」
「え? ワイトって私達にイイカッコを見せようと傍にいただけでしょ?」
「……そういやあの後、あんたはずっと気を失ってたよな……」
ワイトは肩を落とす。どうやら二人は自分を仲間だと思っていないらしい。
そんなワイトをソンジュは気にもしない。
ユウは少し不思議そうな顔でワイトを見ている。
スプルの群れを撃退した直後のソンジュとワイトの間で交わされた話も、昨夜の会話も知らないのだから仕方がないだろう。
朝食を取るために宿を出る。
その間際にソンジュは宿の女将に今夜も宿泊する事を告げる。
当然ソンジュとユウの部屋と、ワイト独りで泊まる部屋に分けるように頼む。
もし部屋が空かなければそのまま継続で頼んでいる。
レリに向かう道が封鎖されているのではない。なのに「なぜか今日も」レリに向かう予定の者達が自ら足踏みするかもしれないからだ。
そして朝食を取れそうな料理屋に向かう。
そこはワイトが昨晩出掛けた時に当たりを付けていたようだ。ギルドで尋ねていたのかもしれない。
ワイトは軍属時に一時期とは言え、一代爵を賜っていた事がある。
さすがに高級料理店に通いはしない。実家への仕送りなんかもあったので、かろうじて最低限の貴族らしい生活が出来ていただけだ。
それでも一般的な冒険者が通いそうな、量は多いが質はそれなりの安い物ばかりを扱っている店に行く事は少なかった。
少なくとも中堅レベルの冒険者が通うレベルの店に通っていたのだ。
ワイトが案内した店もそのレベルの店のようだった。
「ほう。なかなか良さそうな店だな」
「そうだろ? さすがにこのクラスの店だと奢るなんて言えねえが良いか?」
「私は問題ない。ユウも良いかな?」
「うん。一昨日のレリのお店と同じくらいのようだし、私も文句はないよ」
料理屋は結構混んでいるようだ。それでも昨日の一般冒険者が通う店のように立ち食いで済ませているような客はいない。
幾つか空いたテーブルも目に入る。
ソンジュ達はそのテーブルに腰を下ろす。ワイトも含めた三人一緒にだ。この状態でワイトを独りで放り出す気はソンジュには無かったらしい。
うーん? なんでワイトも一緒の席なのかな? ソンジュは昨日はもっと警戒していたと思うんだけど?
同行は許しても距離は開けるように言ってたもの。本気で護衛をしてくれているのが分かってからは、その距離も少し短くなったけれどね。
……やっぱり私が気を失っている間に何かあったんだろうなあ。
朝の剣幕からすると、私の事情を全部教えているとも思えないんだけど。
それでもワイトの目の前で魔法を使っちゃったんだから、私が回復系の魔法が使える事は話したんでしょうね。
朝のワイトの問い掛けも魔法のことだったもの。
……でもそれだけだとも思えないんだけど。
ユウの料理は相変わらずソンジュが頼んでいる。ユウはこの世界の料理など知らないのだから仕方がない。
ワイトは不思議そうにしながらも異邦人だからかと納得もしているようだ。
そして運ばれて来た料理を食べていく。
もうユウも自分に毒になるかの確認などしない。そのまま食べている。
昨日の昼から食事をしていない。朝に冷え切った少量の串焼きを食べた程度だ。そのためかパンのお代わりまで頼んでいた。
ソンジュもワイトも呆れているようだが、ユウにとってはそんな視線よりも空腹を癒す方が大事だ。気にせずに頬張り続けていた。
三人は食事をゆっくり取っている。
彼女達はこれからギルドに向かうのだが、依頼の受注が目的ではないのだ。
むしろ冒険者で混雑しきっている時間帯は避けたいくらいだ。ギルドの職員の質問を受けるのだから、その職員の手が空く時間の方が良い筈だ。
ギルドでの用が済んだら衣類と防具を買い換える予定だし、今夜もこの街の宿に泊まるのだ。なので午前中一杯ギルドに時間を取られても構わない。
とは言え、彼女達にギルドで報告する事などそんなにないのだが。
ソンジュ達は料理屋を出てギルドに向かう。
ギルドは街の中心近くにあるそうだ。街のどこからでも依頼に来れる場所に構えているらしい。その辺りはどこの街でも変わらないようだ。
ギルドに着いた時刻は朝二刻半と言ったところだろうか。
他の二人は平然としているが、ユウだけは少し落ち着かないようだ。
冒険者のソンジュや、軍属だったワイトとは違う。前にレリの街のギルドに一度行ったくらいでは慣れないのだろう。
ワイトを先頭にしてギルドに入っていく。ユウは最後尾でソンジュの背に隠れるようにしながら。
そしてワイトが受付に用件を告げる。昨晩に簡単な報告をしたのはワイトだ。彼の顔を覚えてる者もいるだろう。
掲示板の前でソンジュとユウは待っている。掲示板を眺めているようだ。
うーん。残っている依頼ってやっぱり割に合わなさそうな物ばかりね。
ピーフス狩り? 報酬が一頭当たり三十レイ? 単純換算で一万二、三千円ってところかな?
でも、ピーフスって雷の魔法を使う魔獣だよね? それに牛くらいの大きさってソンジュは言ってたよね? ってことは、体重が五百キロを楽に越えてる?
仮に倒せても、一人じゃ一匹を運ぶのも無理でしょ。一匹に五人くらいの運び屋を雇うとすると……たぶん赤字でしょ。
まさか倒したその場で解体するの? 捌くために専門の職人や肉屋が存在するような魔物の肉を?
そもそも牛と同じ大きさなら食用可能な部分って二百キロくらいでしょ。絶対一人じゃ運べないわよね。
それと野生だから育てる費用は要らないと思うわ。それでもキロ当たり百円と考えても二万円を越えるじゃない。
これも駆け出し冒険者を騙すつもりの依頼なんだろうな。
他の依頼は……あれ? この眠り病の調査って、レリの街のギルドにも有ったと思うんだけど。
多くの街を駆け回る依頼だから、全てのギルドに依頼が出されているのかな?
それにしても相変わらず報酬が安いわね。こんなの受ける人がいるの? ほとんどボランティアみたいな物でしょ。
たぶん個人の依頼じゃないわよね。国の依頼? だから報酬が安いの?
国絡みの仕事の依頼料が低いってのは現代日本と変わらないようね。
ソンジュも興味が惹かれる依頼は残っていないみたい。もう掲示板を見てもいないんだもの。




