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義弟の事情

「姉さん、結婚しよ」

「しません」


 俺と姉のいつもの会話だ。

 俺は姉さんが好きだ。勿論、一人の女性として。結婚したいとも、本気で思っている。

 俺が姉に恋をしたのは、8才の時だ。

 小さい頃に母を亡くし、父は仕事に忙しく、俺は家に一人でいる事も多かった。幼かった俺には、それが寂しかった。

 そんな時持ち上がった父の再婚話に、俺は不安だった。元々、人見知りだったし、引っ越し先で新しい環境に馴染めるかという懸念もあった。

 その不安を吹き飛ばしくれたのが、姉だった。

 姉はオドオドする俺に優しく接し、色々な所へ連れ出してくれた。同い年くらいの子が集まる公園や沢山のお菓子を売っている駄菓子屋、小学校への近道なんて事も教わった。おかげで、学校にも馴染む事が出来た。

 その優しい姉が大好きで、それが恋愛感情に変わるのは、そんなに長くなかった。

 子供ながらに、好きな人と一緒になる事を結婚だと思っていた俺は、勇気を出して、姉に想いを伝える事にした。


「おねぇちゃん、結婚しよ」


 姉は微笑ましそうに笑った。


「正太郎が大きくなったらね」


 姉の答えに、俺は単純に喜んだ。俺が大きくなれば、結婚出来ると思ったのだ。

 俺はその為に努力した。身長を伸ばす為に、牛乳を飲み、バスケを始めた。姉に見合う男になろうと、勉強や容姿にも気を遣った。その事によって、姉に褒めてもらえるのが嬉しかった。

 甲斐あってか、中学生の頃には、同級生の女子から告白を受けるようになった。容姿だけで寄ってくる女子の多さには辟易したが、努力の成果を実感する事が出来た。

 姉との関係が変化したのは、高校生になってからだった。

 いつも猫可愛がりする、姉のスキンシップが減ったのだ。最初は気のせいだと思った。しかし、大好きだった撫でてくれる事すら、無くなってしまっては、勘違いではないだろう。

 俺は姉に聞いた。


「姉さん、なんで最近、頭撫でてくれないの? 俺、何かした?」

「え? だって、正太郎はもう大きくなったでしょ? 背だって、私より高くなったし。背伸びしないと、手だって届かないもの」


 ショックだった。俺の背が伸びれば、姉との距離が縮まると漠然と思っていた。真実は逆だったのだ。大好きだった姉の手は、遠くなってしまった。

 だから、聞いてしまった。


「大きくなったなら、結婚してくれるのか?」


 いつからか気づいていた。あの約束を、姉が本気にしてないって。

 9つも下の子供が言った事だ。分かっている。でも、覚えてくれているなら……。


「正太郎ったら、あの約束を覚えてるの? 大きくなったら結婚って話だったよね。あの頃の貴方、小さくて可愛かった」


 覚えていてくれた。なら、それでいい。

 姉さんが本気にするまで、何回だって言ってあげる。


「姉さん、結婚しよ」



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