第二章1 『潜入計画』
白亜の都の夜が破れ、東の空が冷ややかな薄藍色から鉛色へと移り変わる静寂の刻限。
神聖法皇都フランルクスの外縁、白大理石の整然とした街並みの隅に追いやられるように建つシルヴェリア家の石造りの邸宅は、息を潜めたような死寂に包まれていた。
一階のリビング。中央に置かれた素朴な木製テーブルの表面には、一筋のシワすら許さない法皇都の厳格な様式で作られた巨大な羊皮紙の図面が、数個の小さな魔導ランタンの淡い黄光に照らされて広げられている。
その図面を挟み、二人の影が密やかに頭を突き合わせていた。
一人は、昨夜までの濃紺の隠密服から一転、一分の隙もない灰白色の修道服へと身を包んだクレアナ・シルヴェリア。胸元から首筋にかけて一連の小さなボタンが寸分の狂いもなく留められ、その端正な佇まいはどこからどう見ても厳格なる法皇都の教務補助員そのものだった。だが、修道帽の陰から覗く彼女のサファイアブルーの瞳には、昨夜の大聖堂地下での激闘の疲労と、それ以上に暗い懸念の影が濃く落ちている。
そしてもう一人、テーブルの対角に深々と木製椅子へ体重を預け、大欠伸を噛み殺しているのがアルク・メルクリウスであった。腰には、昨夜ムツリヌスの『羞恥の反射壁』を砕き、厳重な多重梱包を剥ぎ取ったままの黒鉄色の直剣が、無造作に立てかけられている。
「……ふわぁ……。なぁクレアナ、朝の偵察から戻って一息ついたと思ったら、今度は本格的な作戦会議かよ。俺のふかふかベッドでの二度寝の権利はどうなったんだ?」
「アルクさん。これから私たちが挑むのは、この法皇都の『心臓』であり、同時に教団の最も陰湿な毒が蠢く最前線……『聖フランルクス高潔騎士学院』への潜入作戦です。二度寝などと仰っている猶予はありません」
クレアナは冬天の氷のように凛とした声音で突っぱねると、細い指先でテーブルの図面──その中央に聳え立つ『聖フランルクス高潔騎士学院』の構造図の一角をコンコンと叩いた。
「昨夜、マールス将軍閣下が命がけで秘匿してくださった教団の機密ファイル……そこに記されていた『美徳の過剰摂取』計画。ダイアネムが推進する新法によって市民の品性と羞恥心を極限まで高め、結界を反転ハッキングさせるための『地ならし』が、まさにあの騎士学院の中で、特級教官マジエルの手によって実行されているのです」
「……あの、いつも気味の悪い胡散臭い笑顔を浮かべてる神父様だな」
「ええ。マジエルが受け持つ『高潔騎士学院』は、この国の未来を担う若き騎士候補生たちが集う最高峰の施設。ですが、現在の内部は、過剰な規律に息を詰まらせた少年兵たちに対し、マジエルが『包容力』という名の毒を投与し、彼らの精神を完全に去勢・骨抜きにする狂気の檻と化しています。彼らの品性と誇りが完璧であればあるほど、マジエルの『薔愛』の毒と同調し、大結界を崩壊させる最悪の概念燃料へと変貌してしまうのです」
クレアナの言葉に従い、アルクは目を細めて図面を見つめた。
高潔騎士学院の全容。それは単なる学校という枠組みを遥かに超えた、巨大な要塞都市そのものだった。外周を囲む高さ十メートル以上の白大理石の防壁。東側に配された広大な第一訓練場と騎兵馬場。西側に立ち並ぶ厳格な男子生徒寮と教員宿舎。そして中央には、都の大聖堂をそのまま縮小したかのような厳かさを放つ『大礼拝堂』と、それを取り囲む重厚な行政事務棟が鎮座している。
「……でかすぎだろ。これ、そこらのちょっとした城塞都市より広いんじゃないか?」
「ええ。生徒と教職員を合わせて常時一千人以上が生活する、完全独立型の閉鎖空間です。外周の結界は法皇都の大結界と直結しており、許可証を持たない者の侵入は、足を踏み入れた瞬間に防衛術式によって感電・消滅させられます。……だからこそ、段階を追った緻密な『裏の身分設定』と、綿密な潜入経路の策定が不可欠なのです」
クレアナはそう言い切ると、修道服の袖口から厚手の革製書類ケースを取り出し、テーブルの上へ恭しく並べ始めた。
「まず、私たちの潜入における基本戦略の確認です。将軍閣下のご指示通り、正面からの力づくの突破は不可能です。将軍閣下が表立って騎士学院に介入すれば、最高審判官ダイアネムに『騎士団による統治機構への反逆』という口実を与え、新法の即時全面施行──すなわち結界のハッキングを誘発させます。したがって、攻めるべきは『制度の隙間』です」
クレアナが書類ケースから最初に取り出したのは、羊皮紙の上に金箔押しで不気味なほど精巧な紋章が印字された一通の書状だった。
「段階第一……『正規ルートの裏取り』です」
「正規ルートの裏取り?」
「はい。現在、法皇都では新法の施行に伴い、全国の管区から優秀かつ『品性高き』若者を緊急で集め、騎士学院へと短期編入させる『特別高潔練成期間』が設けられています。これはダイアネムとマジエルが、より広範囲の若者の精神を効率よく毒に染めるために作った制度ですが……マールス将軍閣下は、この制度そのものを逆手にとりました」
クレアナは指先でその書類をアルクの方へと滑らせた。
「これは、法皇都西翼騎士団長・マールス・グラディウス直筆の『推薦状』、および法皇都内務省の公式刻印が施された『特待編入許可書』です。名義は……『ホレスティア辺境管区出身・特待編入生アルク』」
アルクは羊皮紙をつまみ上げ、そこに書かれた文字をじっと凝視した。自分の適当な名前の横に、「辺境において剣術を修め、高潔なる意思をもって法皇都の品性を学ばんとする有望な若者」などと、読んでいるこちらが痒くなるような過剰な美辞麗句が書き連ねられている。
「うわぁ……マールスのおっさん、見た目はゴツい鎧の塊のくせに、こんな回りくどくて恥ずかしい文章書くのかよ……」
「将軍閣下の文章ではありません。騎士団の文書作成官に書かせたものです。……重要なのはここからです、アルクさん。この身分証明書は『本物』ですが、あなたのバックボーンは完全な『偽造』です。騎士学院の受付事務棟には、最高審判官ダイアネムの配下である『照合照会官』が常駐しています。彼らは編入生の過去の身元、出身地の法官記録、家族構成に至るまで、魔導通信を用いて厳しく照合を行います」
「照合? じゃあ俺がホレスティアの森でじいちゃんと食っちゃ寝してたことなんて、調べられたら一発でバレるんじゃねえか?」
「ええ。ですから、段階第二……『過去の偽装工作』がすでに施されています」
クレアナは二枚目の書類──古びた羊皮紙に茶褐色のインクで判押しされた、ホレスティア辺境自治街の「住民記録抄本」を提示した。
「今朝方、私が大聖堂の裏口で将軍閣下の密使と接触した際、この書類を受け取りました。将軍閣下はすでに三日前……あなたがこの法皇都に到着した瞬間から、ホレスティアの現地に駐屯する下級騎士を動かし、現地の役場の台帳そのものを書き換えさせています。そこには『アルク・メルクリウスは幼少期より山林警備にあたり、品行方正にして自律の精神に富む』と偽の記録が刻まれています。これで照合官の魔導照会を通過できます」
「……あの豪快なおっさん、裏でどんだけ手際よく汚いことやってんだよ。感心するのを通り越してちょっと引くぞ」
「『軍神』と呼ばれるお方は、戦場における兵糧や補給、謀略の重要性を誰よりも熟知しておられるのです」
クレアナは真顔で言い切ると、三枚目の書類──今度は写真ではなく、クレアナ自身の精巧な羊皮紙の割符を取り出した。
「そして私……クレアナ・シルヴェリアの潜入経路についてです。私は『教務の臨時補助員』として学院の事務棟に入ります。大聖堂に立ち入るようになってから半年間積み重ねてきた『真面目で控えめな少女』という身分実績と、将軍閣下からの教務推薦を組み合わせることで、学院の内部帳簿や生徒の名簿を管理する第一事務室への立ち入り許可を取得しました」
「そういや聞いたことなかったけど、あんたが大聖堂に出入りするようになった理由って結局何だったんだ?」
「…………」
「答えたくないってことだな。まあいいや、つまりあんたが事務室で裏の書類を漁って、俺が現場でマジエルの様子を探る……っていう役割分担か」
「その通りです。ですが、ここからが本題です。段階第三……『同調圧力と精神汚染への対策』です」
クレアナは一度言葉を切り、サファイアブルーの瞳を酷く厳しくして、アルクの顔をまっすぐに見つめた。その空気の変わり様に、アルクも欠伸を噛み殺すのをやめ、背筋をわずかに伸ばす。
「アルクさん。騎士学院内部の環境は、あなたがこれまで見てきた市街地の比ではありません。あそこは『美徳の過剰摂取』の実験場です。学院内の生徒たちは、朝の起床から夜の消灯に至るまで、秒単位で決められた『高潔なる生活様式』を強制されています」
「生活様式?」
「はい。例えば──歩行時の歩幅は三尺以内、視線は前方十五度上方を維持すること。衣服のボタンやバックルに一ミリの歪みも許されず、食事の際は一口ごとに感謝の祈りを捧げ、私語は一切厳禁。言葉遣い一つ、器の持ち方一つに至るまで、『不届き』とみなされれば即座に『品性減点』が科されます」
「……うわ、考えただけで頭痛くなってきた。俺、初日の朝食の時点で減点100点くらい食らって追い出される自信があるんだけど」
「追い出されるだけで済めば御の字です」
クレアナは冷ややかに首を振った。
「品性減点が重なった生徒は、学院地下にある『省察の間』へと送られます。そして、そこで待っているのが……特級教官マジエルです。マジエルは減点を受けて傷つき、自己否定に陥った生徒に対し、あの甘い薔薇の香りと『お前は悪くない、私がすべてを包み込んであげよう』などという全肯定の言葉をもって接します。そうして、一度折れた少年の心に『薔愛』の毒を注入し、自分なしでは生きていけない完全な盲信者へと作り替えるのです」
「……傷つけて、弱らせてから、優しくして依存させる。完璧な悪質洗脳の手口だな。あのむっつり神父、やってることが本当に陰湿だわ」
「ええ。そしてさらに恐ろしいのは、すでにマジエルの毒に染まった『先輩生徒たち』による、同調圧力です。彼らはマジエルを狂信的に崇拝しており、学院の規律を少しでも乱す者、マジエルの教えに疑義を挟む者を『不浄の不純物』として激しく排斥し、集団で精神的に追い詰めます。彼らにとって、規律を守らない者は『害虫』と同義なのです」
クレアナは指先でアルクを指す。
「あなたの持つ『特攻因子』は、教団の仕掛けたあらゆる精神汚染や因果を真っ向から引き裂く、世界の外れのイレギュラーです。ですが……もしあなた自身が、学院内の激しい同調圧力に気おされ、『周りに合わせなければ』『品性良く振る舞わなければ』という恥じらいや恐怖を抱いてしまえば、その瞬間にあなたの精神防壁は穿たれる…」
「……要するにだ」
アルクは頬をポリポリと掻きながら、心底面倒くさそうに吐き捨てた。
「あいつらがどんなにガチガチの規律で目くじら立ててこようが、どんなに集団で白い目で睨んでこようが、俺は今まで通り『だから何?』って顔して、マイペースにふてぶてしく過ごしてりゃいいんだろ?」
「言葉は極端ですが……本質的にはその通りです。あなたのその、社会の常識や品性の呪縛を根本から鼻で笑い飛ばす『自堕落で図々しい野生の理性』こそが、マジエルの『薔愛』に対する最高の特効薬なのです。絶対に、あそこでの『優等生』になろうとしないでください」
「安心しろよ。俺に優等生になれって言うのは、熊に服着てダンスさせようとするより無理な話だからな」
アルクが呆れたように笑うと、クレアナの氷のような表情にも、ごくわずかだけ緊張の解けたような柔らかな陰影が差した。
「ふふ……そうですね。あなたにその心配は不要でしたかもしれません。……では、最後の段階第四……『潜入当日の具体的な行動手順』と『連絡体制』について説明します」
クレアナは図面の詳細なエリアマップを指でなぞった。
「決行は本日、太陽が正午を指す刻限です。まず、アルクさんは編入生としての正規の手続きを踏むため、外門を潜って第一事務棟の『照合室』へ向かってください。そこで照合官による身元確認と、簡単な『品性適性検査』が行われます」
「適性検査? 何するんだそれ」
「簡単な問いかけに対する面接です。『規律を破った友人をどうするか』『衣服の乱れを指摘された時どう感じるか』といった質問に対し、法皇都の標準的な『高潔な回答』を答えることが求められます。……アルクさん、模範解答を覚える気はありますか?」
「あるわけねえだろ。適当に『知らん』って答えるわ」
「……でしょうね。ですから、あらかじめ私から照合室の担当者に『辺境育ちのため言葉遣いが荒く、教理の知識に乏しいが、剣の腕と素朴な忠誠心は確かである』という前置きのメモを回しておきます。支離滅裂な回答をしても『田舎者だから』で押し通せるように根回ししておきますので、ボロを出さない程度に短く答えてください。結構大変だったんですよ、推薦状の文面と矛盾のないように説明しなければいけなかったんですから」
「助かるわ。あんた、マジで優秀な秘書になれるぞ」
「お褒めにあずかり光栄です。……照合を抜けると、あなたには男子生徒寮の第3舎、104号室が割り当てられます。ここは短期編入生用の相部屋です。同室になる生徒は、すでに学院の規律に完全に染まった『模範生』である可能性が高いでしょう。彼らの監視の目をかいくぐりつつ、夜間の自由時間を利用して行動を開始します」
クレアナの指先が、男子寮から少し離れた中庭の奥──鬱蒼とした樹木に囲まれた小小さなお堂のような建物で止まった。
「ここは『旧礼拝堂跡』です。現在は資材置き場として使われており、生徒の巡回ルートからも外れています。毎夜、日付が変わる子刻、ここで私と合流します。私が第一事務室から極秘裏に持ち出した『マジエルの極秘指導記録』および『教員用裏帳簿』の解析結果を共有し、マジエルがどの生徒にどのように『毒』を注ぎ込んでいるか、その決定的な現場を特定します」
「特定して……どうする? マジエルをその場で叩き斬るか?」
「いいえ。マジエルは特級教官であり、教団の『薔愛』の罪媒介者です。彼の持つ権能の全貌が分からないまま不用意に攻撃を仕掛ければ、周囲の生徒たちを人間の盾にされたり、逆にこちらが『教官への反逆者』として学院全体を敵に回すことになります。……まずは彼が生徒に与えている『毒(精神汚染術術式)』の物理的証拠──例えば、彼が私的に生徒へ与えている不審な薬物や、呪導のロザリオの保管場所を突き止めます」
「証拠を掴んで、マールスのおっさんに突きつける……ってわけか」
「はい。完璧な不祥事の証拠さえ揃えば、マールス将軍閣下が『騎士団の正規の検察権』を行使して学院へ踏み込むことができます。そうなれば、マジエルを合法的に孤立させ、彼の『包容力』という名の罠を無効化した上で撃滅することができます」
「なるほどねぇ。完璧な作戦じゃん。……で、万が一、俺が途中でマジエルに正体バレたり、生徒どもに囲まれて袋叩きに遭いそうになったらどうするんだ?」
「その場合は──」
クレアナはサファイアブルーの瞳を冷たく光らせ、修道服の隠しポケットから小さな銀色の笛を取り出した。
「この『魔導共鳴笛』を吹いてください。人間の耳には聞こえない特殊な高周波の波長が発せられ、事務棟にいる私の端末へ即座に伝わります。私が事務棟の魔導配電盤を操作し、学院全体の魔導灯を一時的に強制停電させます。その隙に旧礼拝堂跡へ脱出してください」
「停電させて逃げるか。相変わらず準備が良いことで」
アルクは感心したように息を漏らすと、テーブルの上の偽造身分証と推薦状を雑にポケットへと放り込んだ。
すべての説明を終えたクレアナは、深く重い息を一つ吐き出し、木製椅子から静かに立ち上がった。修道服の裾を軽やかに整え、胸元の十字架にそっと手を当てる。
「……潜入開始まで、あと四時間。アルクさん、今のうちに少しでも身体を休めておいてください。正午からは、一瞬の油断も許されない狂気の檻での生活が始まります」
「ああ。そうさせてもらうわ。……あ、そうだクレアナ」
部屋の奥の寝室へ戻ろうと立ち上がったアルクは、ふと思い出したように足を止め、振り返ってクレアナを見た。
「何でしょうか、アルクさん?」
「いや、さ。お前、さっきからその修道服、めちゃくちゃピッチリ着込んでて息苦しくないのか? ボタンも一番上までパツパツに留めてるし。昨日の隠密服の時も思ったけどさ、お前って案外、この国の『きちんとした服を着る』ってルールに、律儀に従いすぎなんじゃないか?」
「……っ!?」
クレアナの顔が、一瞬にして真っ赤に跳ね上がった。サファイアブルーの瞳が激しい動揺と屈辱で大きく揺れる。
「な、何を不届きなことを……! これは教務補助員としての『正当な服装』です! 衣服の乱れは心の乱れ、法皇都の聖職者として当然の品性です! あなたのように襟元をダラリと肌けて腰紐を緩めているような、だらしない格好と一緒にしないでください……っ!」
「あーハイハイ、悪かったよ。ハリネズミ様。まあ、あんまり肩肘張りすぎて、昨日のクマのぬいぐるみの時みたいに自爆すんなよ?」
「〜〜〜っ!! 二度とその話をしないと誓った直後ではありませんかッ!!」
激怒して修道服の袖から小さな投擲用ナイフを取り出そうとするクレアナから逃げるように、アルクはひらひらと手を振りながら奥の寝室へと駆け込んだ。バタン、とドアが閉まる音がリビングに空々しく響く。
「……たく、調子のいいバカなんですから……」
一人残されたクレアナは、紅潮した頬を冷たい手袋の手で押さえながら、深いため息をついた。
だが、そのサファイアブルーの瞳の奥からは、先程までの押し潰されそうな不安と緊張の影が、ほんの少しだけ消え去っていた。
社会の常識も、過剰な品性の呪縛も、すべてを「だから何?」の一言で笑い飛ばす、あの少年の図々しいほどの野生人。
(……ええ。彼ならきっと……あの狂気の檻の毒すら、鼻で笑い飛ばしてくれるはずです)
クレアナは静かに机の上の図面を折りたたみ、胸元に秘めた。
窓の外では、白亜の都を照らす太陽が静かに昇り始め、すべての欺瞞と品性の暴走を覆い隠すように、白銀の光を街並みへと降り注いでいた。
大陸最高峰の精華、神聖法皇都フランルクス。その最奥に位置する『聖フランルクス高潔騎士学院』への潜入劇は、今、ここに静かにその第一歩を踏み出したのだった──。
一つだけ、クレアナが大聖堂に頻繁に通うようになったのは理由があってのことですが、決してムツリヌスの策略にハメられたわけではありません。そんなふうに考えている人間がいるのかは知りかねますが。




