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痴辱なる教団の黙示録  作者: 遣隋使
第一章 『賢聖都市』
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第一章 裏幕

 神聖法皇都フランルクスの華やかな白亜の光が一切届かない、地下の深層。


 そこは、都市の絶対防御結界の死角に作られた、教団の極秘移動部隊『旅団』の暫定本拠地たる暗黒の執務室であった。

 

 部屋を照らすのは、大理石の粉塵ではなく、昏い紫色の魔術光を放つ数個のランタンのみ。壁一面には、フランルクス全土の防衛線の波長をリアルタイムでハッキングし、因果の歪みをグラフィカルに描き出すいくつもの巨大な魔導障壁(ビジョン)が浮かび上がっている。


 その中央に位置する、歪にうねった黒檀の机を挟んで、二人の影が対峙していた。


 一人は、一筋のシワすらない純白と深紅の特級教官服を血と泥で無残に汚した青年──『薔愛』のマジエル。


 彼の胸元で常に優美な輝きを放っていた薔薇のロザリオはすでに失われ、その首元には、術式が限界負荷で爆裂した際についた生々しい火傷の痕が刻まれている。端正だった彼の顔立ちは痛々しく青白くやつれ、唇からは未だに微かな血の匂いが漂っていた。


 そしてその足元には、マールスの鉄靴によって完全に意識を刈り取られ、芋虫のように転がされたままピクリとも動かないトレンチコートの男──ムツリヌスが横たわっている。



「……ハハ、面目ありませんね。まさか、あの脳筋の騎士団長が、扉を開けられないからと天井ごと大聖堂をぶち破って降臨してくるなど、私の完璧な計算の枠外でしたよ……」



 マジエルは、血の混じった不快な泡を吐き出しながらも、いつものねっとりとした、穏やかで慈愛に満ちた微笑の残骸をその唇に浮かべようとしていた。だが、その琥珀色の瞳の奥に宿る、生まれて初めて迎えた圧倒的な暴力への恐怖と屈辱の色までは隠しきれていない。


 そんな敗将の姿を、机の奥の暗がりからじっと見下ろしている者がいた。



──『矮殖』の罪媒介者、ロリアール・フレデモム。



 教団の移動旅団のトップに君臨し、一年前、ホレスティアの森へとエスペル兄妹を広域転移魔術だけで吹き飛ばしたという、純粋な魔術の圧倒的な深さを持つ化け物。


 ロリアールは、自身の小さな爪先をコツコツと椅子の脚に叩きつけながら、感情の読み取れない冷徹な視線をマジエルへと注いでいた。



「ムツリヌスがハッキングした女のプライベートファイルを奪還され、お前の命の結晶たるロザリオまで木っ端微塵か、マジエル。……あまりに無様だな。法皇都の理性を『美徳の過剰摂取(オーバーフロー)』で地ならしする計画は、これで大幅な修正を余儀なくされたぞ」



 ロリアールの声は、中性的でありながら、聞く者の脳髄を物理的に圧迫するような底知れない質量を孕んでいた。



「いいえ……まだ破綻してはいませんよ、ロリアール。確かにムツリヌスのノートは燃やされ、私たちの弱み(不祥事)の証拠は、あの忌まわしい『シルヴェリアの女』と……もう一人のイレギュラーの手へと渡ってしまいました。ですが、ダイアネムが主導する新法のシステムそのものは、すでに止まらない領域に入っています」



 マジエルは自身の乱れた特級教官服の襟元を白革の手袋越しにきゅっと引き締め、琥珀色の瞳を怪しく明滅させた。



「市民たちは自ら美徳という名の恐怖に怯え、衣服を一筋のシワもなく着ることに全神経をハッキングされている。彼らが勝手に恥じらい、勝手に膨らませ続けているあの『理性の防壁(バルーン)』は、すでに臨界点を超えようとしているのですから。……問題はそこではありません」



「ふむ。あのメルクリウスの爺が放り込んできた、あの男ことか」



 ロリアールが低く呟くと、背後の魔導障壁(ビジョン)に、無造作な黒髪の少年──アルク・メルクリウスの姿が不気味に浮かび上がった。


 ムツリヌスがハッキングした過去の全因果システムを、これでもかと頑固に遮断していた、あの鉄壁の多重梱包。そして、品性と規律の呪縛を「だから何?」の一言でバグらせ、羞恥の反射壁を文字通りガラス細工のように粉々に打ち砕いてみせた、あの黒鉄色の直剣。



「あの少年の持つ『特攻因子』……あれは、私たちの仕掛けたあらゆる精神汚染や因果を真っ向から斬り裂く、世界システム外のイレギュラーだ。メルクリウスのクソジジイめ、システムを壊すにはシステム外のバグをぶつけるのが一番だ、などと、一年前からあの監獄の底にいるエスペルと悪巧みを交わしていたわけか」



 ロリアールは口元を歪め、不快そうに舌打ちを噛み殺した。



 完璧を誇る教団の精神汚染回路。だが、品性だの規律だのという社会の常識そのものを鼻で笑い飛ばし、ハッキングの燃料(羞恥心)を一切持ち合わせないアルクのような野生獣は、教団にとって最も相性の悪い「特効薬」に他ならなかった。



「ええ。ですが、奴らはそう遠くないうちに、私の支配する『聖フランルクス高潔騎士学院』へと潜入してくるはずです。マールスが表立って動けない以上、あのバグの少年を切り札として送り込んでくるしかありませんからね」



 マジエルは口元の血を手の甲で拭うと、再び、すべてを包み込むようなねっとりとした完璧な微笑みを取り戻した。その琥珀色の瞳には、敗北の屈辱を何倍にもして叩き返さんとする、ドロドロとした偏執的な執念の炎が静かに、しかし激しく燃え上がっている。



「高潔騎士学院の少年兵たちの心は、すでに私の『包容力(毒)』によって、内側から完璧に融解し、地ならしされています。彼らは規律に息を詰まらせれば詰まらせるほど、私という完璧な美徳の体現者に盲目的な愛を注ぐ。……いくらあのアルク君がシステム外のイレギュラーであろうとも、彼自身が学院という『規律の檻』にハッキングされ、品性の同調圧力に圧殺されれば、その直剣の輝きもたちまち濁って消えるでしょう」



「……確実に仕留めろ、マジエル。ダイアネムの新法が完全に施行され、白き夜の反転が完成するまで、あとわずかだ。監獄の底で『憂鬱の因子』を我が身に封印し続けているエスペルごと、このフランルクスという美しき国家を一夜にして完全絶滅させる。その美学の余白に、あのドブネズミどもの記録を残すことは許さん」



 ロリアールが冷酷に告げると同時に、暗闇の奥からさらに巨大な教団の影たちが、因果の歪みと同調するように次々と浮かび上がってきた。



「ハハ、もちろんです。明日からの潜入劇……あの無垢な少年少女たちが、規律の檻の中でどのように絶望し、衣服を引き裂き合うことになるのか、今から楽しみで仕方がありませんよ……」



 マジエルの不気味な狂笑が、不快な薔薇の香気とともに地下室の澱んだ空気へと溶けていく。


 白亜の都の裏側で、品性と精神を根本から解体せんとする化け物たちの網の目は、明日からの新たな戦場──高潔騎士学院の門の奥へと、さらに深く、さらに陰湿に張り巡らされようとしていた。


 表の歴史には決して刻まれない、最悪の不条理の幕が、再び静かに上がろうとしている──。

 初めまして、ペンネーム遣隋使と申します。これからは章末ごとにあとがきを書き記していこうと考えております。


 えーさて、まずはこの作品についてなのですが……はい、学生の悪ノリでございます。


 詳しい話をいたしますと、まず私共の学校ではですね、本当に一部の人間の中で『痴女教』などというカルト宗教が流行っております。


 開祖様いわく、巫女(プロローグで登場した痴辱の権能を使っていた少女)を筆頭に、大司教(ここでは大罪司教などというふうに書き込んでいますが、この世界には根本として七つの大罪というものは存在しておりません。後に紹介する罪媒介者もしかりですが、基本的に品性などというものを持った人間が卑劣と感じるような概念を大罪として書き留めておりますので、七つの大罪とは幾分か異なるものとお考えください。また、大罪司教?と思った方々、お気持ちは分かりますがそもそもこのような設定をしたのはほかでもない開祖様であります故、どうか堪忍していただけますと幸いです)、そして罪媒介者(【陰癖】はむっつりスケベ、【薔愛】は薔薇(男性)を愛する者、もっと言えばショタコンであります。【矮殖】は小さい子(矮)に生殖本能(殖)がはたらく者、つまりロリコンのこと。【猥褻】はそのまま)などの幹部、さらにその下には無数の痴女教徒が存在しているとのこと。


 わたくしは、それらの宗教の在り方をもとにこのような黙示録を書き記しているに過ぎません。とどのつまり、わたくしは教団側の人間であるということであります。行き着くところ、この物語がハッピーエンドを迎える保証は皆無であるということであります。


※


 さて、ここからはここまで登場した人物を敵味方双方振り返るといたします。



味方陣営

1アルク・メリクリウス

2ステルク・メリクリウス

3クレアナ・シルヴェリア

4エスペル・シルヴェリア

5マールス・グラディウス


教団陣営

1ムツリヌス・ワイド・フトモモム

2マジエル・ショタルクォフ

3ダイアネム・サワリダ・ボーデル

4ロリアール・フレデモム

5羞恥劇の少女


 こんな感じでございましょうか。では一人ずつ。


 アルクについて、執筆するにあたってこの者の人物像は二通り考えておりました。この世界について、すべて知っていて立ち回るタイプか、知らずに動くタイプか。結果としては後者です。ただ、そんなことはどうでもよく、大事なのは皆さんがお察しの通り物語の核心に触れる何かがあるということ。しかしながら、これ以上の記述は先の話なのでこの辺で。アルクの無気力な気質の描写はもう少し抑えてもよかったと思っております。


 ステルクについて、過去に教団関連で訳ありの老兵という設定。アルクの前でははっちゃけたジジイみたいに振る舞っておりますが、アルクは彼の素の人格(例:エスペルとの対話時)をきちんと知っています。ほかは基本的にアルクのそれと変わりません。


 クレアナについて、第一章ではまんまとムツリヌスの犠牲と化しておりましたが、彼女は教団の異質な力を加味しなければ単騎で教団を半壊させるほどの実力を持っています。その身体能力もさることながら、魔術の才がとてつもなく高い人物であります(この世界では、魔法、結界、呪術などの総称を魔術としている。クレアナの場合は魔法の実力が高い)。


 エスペルについて、クレアナの兄、騎士校の元剣術指南役。その実力は国家最強に認められるほどであり、剣術の一点のみであればマールスよりも実力は上であります。マールスと違い、当人には彼ほどの豪快さはなく、どちらかというとかなりの慎重派であります。その性格が働いて、投獄されるに至っているのでしょう。


 マールスについて、フランルクス騎士団将軍であり、国家最強の実力者。その力は剣術にとどまらず、魔術全般に対しかなりの実力を持っております。剣術に魔術を駆使した技巧的な戦い方をする方です。また、気力(作中でのマールスの圧倒感の正体。強い奴がよく持ってるくらいの認識でよい)も半端ではなく、その力と気力をもって、マジエルを撃退しておりました。教団の力は気力をもった人間と相性が悪いらしいですね。厄介極まります。


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 ムツリヌスについて、痴女教徒【陰癖】の罪媒介者。【陰癖】という単語は現実には存在しない。彼を一言で表すなら、ただの変態ストーカーである。彼は「相手の『恥ずかしいから隠したい』という純潔な防衛本能そのものを、最大の凶器へと変換する」という、教団内で最も底暗い執念を持つ怪人であるが、その人格と本人の権能の性質上、フランルクス陥落計画において、最も相性のよい人物の一人であるだろう。


 マジエルについて、痴女教徒【薔愛】の罪媒介者。【薔愛】という単語は現実には存在しない。彼を一言で表すなら、『優しい言葉で人間を騙すタイプの犯罪者』という表現が近いと思う。彼はその個人の肉体をただ弄ぶだけでなく、「未成熟な少年のプライドと健気さの完全な去勢」をショタコンの美学として掲げる、教団内でも最も執拗で悪質な怪人である。無論、その権能の影響力は絶大で、彼の毒の効果は既に進行をとめることが困難なほどに伝播している。


 ダイアネムについて、痴女教徒【猥褻】の罪媒介者。【猥褻】の意味は現実のそれと同一のものである。猥褻などという肩書があるが、彼の権能の性質上、うまく使いこなすにはかなりの理性的思考を必要とする為、実は彼が公然猥褻を行ったことはない。そんな彼の人格や立場もあってか、教団内ではかなり変わった立ち位置にいる。


 ロリアールについて、痴女教徒【矮殖】の罪媒介者。【矮殖】という単語は現実には存在しない。名前と裏幕のみの登場であるため、詳しい情報は伏せとする。魔術全般に対しかなりの才を持つ人物。その実力はクレアナやマールスをも圧倒するほどである。エスペルはそんな彼相手に持久戦を繰り広げていたらしい。化け物極まる。


 羞恥劇の少女について、別名『痴辱の魔女』。その名は————。教団の最上位に君臨する『巫女』。彼女らの庵が現在まで絶えず存在している。その理由は彼女の持つ教団内でも極めて異質な権能の力によるもので、その力は————————。


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 というような感じでございます。さて、私自身は話すことが無いので、あとがきはこれにて締めとさせていただきます。ここまで長文、読んでいただき光栄極まります。それではまた。


 海外逃亡の関係で第二章の執筆はかなり遅れますがご容赦をください。


追記:クレアナが寝る時に抱き枕代わりにしているクマのぬいぐるみはホレスティア産の物で、かなり毛皮の品質がよいものです。いっぺん抱いてみてましょう、一瞬で寝落ちます。加えて言うならこの世界ではぬいぐるみは一般的に普及していません。製造しているのは、それこそホレスティアくらいでしょう。

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