赤い一枚舌
白雪の絶え間無く降り積もる景色の中、凍り付く様に、その言葉に僕は口を塞がれる。
後に彼女に訊いた分には、その日は冬も盛りだったらしい。
「貴方、天使さんなの?」
「……えっ、と」
口籠る。
いやはや如何言ったものだろう、中々返答に困る問いだなぁ。
彼女はそれも承知なのかもしれないけれど、だとしたら彼女は若しかしたら悪魔なのか?────きっと違うけれど。
悪魔には、こんな、子供が親からの賞賛を待つ様な、それでいて哀しみに溢れた、まるで底も底からは登る以外ないとでも飽くまでも楽観的に主張している様な、そんな純粋な眼は出来ないんだろう。
僕はそう勝手に結論付けた。
「……如何してそう思うの?」
精一杯、間投する。
如何してか、矢っ張り先から科白が小学校の先生だ。
「だって、昔絵本とかで読んだもの。辛い時に願えば、天使さんが下りて来る、って。私が願ったから、来てくれたんでしょ?」
「成程……他に何か、当時読んでた絵本って憶えてる?」
「他?────話、逸らそうとしてない?」
「…………」
僕は黙秘権を行使した。
この場合黙秘は肯定と見做されそうだし、まぁ実際正解なのだけれど。
そう考えたら、黙秘権は何とも不便なもので、この無念は何処に遣れば良いのだろう。
考えたって仕方が無いし、抑、仕方が無い考えだった。
「────で、結局如何なの?」
そして、彼女に僕を逃がす心算は毛頭無い様だった。
逡巡して何を言わずにいる僕を、凄まじい期待の眼差しで見詰めて来ている。
────お願いだから如何か、そんな眼は止めて欲しい、それは僕を蝕んで仕舞うから────
声にしない声は当然、彼女には届かない。
「天使さんなんでしょ?」
だから僕は、反響に耳を塞いだ。
「……そう。僕は、天使だよ」




