第8話 : ヒーローを助けろ!
伊都がボランティア学習で幼稚園にいくと、やたら園児に懐かれている娘がいた。
デニムのミニスカートに白いブラウスで子供達に囲まれて遊んでいた。
キャア、キャア、言いながら鬼ごっこをしている。
子供と遊んでいるというよりも、彼女が遊ばれてる感じだ。
「ヒメ、ヒメ、」と子供達に大人気だった。
同じボランティアだという。
どこかで会ったことがあると思ったら祠の神様と称する娘だった。
「あなたもボランティア学習なの?」
「学習というよりも義務です」
下っ端の神様見習いは自身でも動いて善行ポイントを貯めなければならない。
たちまち女の子が寄ってきて、「ヒメ、こっち、こっち!」と連れて行ってしまった。
童顔の方が子供は親近感がわくのだろうか?
イケてる女子高生である伊都には何か怖いのか子供が寄ってこない。
「じゃあ、今日のお出かけは、ヒーローにあいにいきまぁーす!」
子供達が歓声をあげた。
スーパーの特設ステージのヒーローショーの引率だった。
正規の幼稚園の先生も当然ついていくが、ヒメの方に子供が群がっていた。
「おねえちゃん、イケてる美人だね」
ギャル系の女の子が伊都をじっと見つめていった。
「そう、ありがとう」
伊都は、その子の手をひいて、後ろからついていった。
◇
スーパーマット裏の特設会場では、既に多くの子供達や、付き添いの母親達で盛況だった。
しかし、時間になっても始まる気配がない。
困ったようにスーパーマーケット側らしい社員が、ステージに出て来て、「しばらくお待ちください」と苦し気な顔で挨拶していた。
何かのトラブルが生じたに違いなかった。
困りごとだ。すかさず例の祠の娘が立ちあがった。
「何かあったんですか?」
「ヒーロー役の俳優さんが倒れちゃって。代役を呼んでいるんですが、まだ見つからなくて」
「ヒーロー役をやればいいんですよね。心あたりがあります」
「ほんとですか?」
「10分待てますか?」
「子供達に飲み物でも配っておきます」
お助けマンの出番だった。
◇
神様は、神通力で祠の鈴を鳴らし、清志にラインでメッセージを送った。
「スーパーの裏手の特設会場。ヒーローショー。助けて!」
「すぐ行く。そこのスーパーに買い物に行こうと思っていたところ」
神様は、スーパーマーケットの担当者に、
「代役が見つかりました。すぐにバイクで現れます。ショーを開始していてください!」
「助かります!」
◇
ステージにいかにも悪そうな極悪怪人が現れた。
「子供達をさらって食ってやるぞ!」
子供達が悲鳴をあげた。ほんとに醜悪な怪人だった。
怪人は、子供達を見渡し、「悪い子はいねぇか?」まるでなまはげであった。
そして、伊都が連れてきた娘に目をとめると、「おめえかぁ!」
子供の心臓には悪すぎた。女の子が泣きだした。つられて周りの子供もなく子供がでてきた。
伊都は腹がたってきた。迫真に迫りすぎだ。
「やめなさい!」ステージの端で、例の自称神様の娘が叫んだ。
子供達が泣くのをやめて、ステージに目が釘付けになる。
怪人の手下のような黒タイツの男達は数人わさわさとステージに現れ、神様をステージ中央に拉致した。
「おまえが一番悪い子だな」
確かに子供に見えないことはないが・・・。
怪人がステージに上がって迫る。
「ヒメぇぇー!」子供達が叫ぶ。
「助けて・・・!」
どう見ても、可憐なヒロイン役にあきれるくらいにぴったりだった。
「ヒメを助けてぇええ!」
女の子が叫ぶ。
その時、
パラパラァァン!
乾いた2ストロークのバイクのエンジン音が響いた。
「えっ?」伊都が振り返る。子供達も。
白いバイクに跨った例のお面の男の子だった。
「どこかで困って 泣く人あれば
ならずそこへ やって来て
助けることこそわが使命
愛と正義の使者
お助けマン参上!只今仮契約中・・・」
お面の男の子は、バイクから飛び降りると、ステージへ跳躍した。
下手な俳優よりもよっぽどカッコよかった。
「助けて、助けてください!」
神様が涙ながらに助けを求める。迫真の演技だった。なりきっているとしか思えない。
「娘を放せ。さもないと・・・」
黒タイツが、何人か前にでた。
手には、棒や、ヌンチャクまで持っている。どうせ演技用のスポンジ製だろうが。
お助けマンは、振り下ろされた棒を難なく交わすと、棒をつかんで黒タイツの一人を投げ飛ばした。
子供達の歓声があがる。
そして、棒を腰に構えた。演技ではない、ほんものの棒術の構えだった。
黒タイツがヌンチャクを振り回した。お助けマンはそれを棒でうけると、絡めとった。
棒を捨てると、今度は、目にもとまらぬ速さでヌンチャクを振り回した。
「おおおお!」会場からどよめきが起こった。
「小癪な!」醜悪な怪人が、前に出る。
「これでも、喰らえ!」怪人が真っ赤な玉のようなものを投げつける。
お助けマンが、次々にヌンチャクで叩き落していく。
子供達は大歓声だ。アドリブにしてはできすぎだった。
「この娘がどうなってもいいのか」
怪人が娘を人質にとった。
「おのれ、卑劣な・・・」
「わたしは、どうなってもかまいません。子供達を、子供達を助けてください!」
「ヒメーっ!」「ヒメを助けてあげて!」子供達から悲鳴があがる。
伊都も引き込まれてしまった。自分が人質に取られているような気がしてきた。
「お助けマン、キィィック!」
お助けマンが、空中に飛び上がった。
そのまま。空中で回転する。飛び後ろ回し蹴りの大技だった。
並みの俳優にできる動きではない。
怪人が飛び上がって倒れた。
お助けマンは、娘に近くづくと、
「大丈夫でしたか」
「ええ・・・」
娘が顔を赤らめて、うなづく。
「ありがとう。お助けマン。大好きです!」
子供達から万雷の拍手!
「ヒメ―、良かったねぇ!」
「どこかで困って 泣く人あれば
ならずそこへ やって来て
助けることこそわが使命
愛と正義の使者
お助けマン参上!只今仮契約中・・・」
お助けマンは、そのまま、バイクにまたがると去っていった。
もう一度、大きな拍手。
伊都はもう何が演技だかわからなかった。
「ヒメ、よかったねー!」
と隣の女の子も大喜びだった。
伊都も
「……よかったね」と応じた。
少し、複雑な心境だった。
「……なんで、あの二人、あんなに息が合ってるの?」
◇
神様は、このあと、劇団から彼をスカウトしたいと、随分と言われたようだ。
「彼は、ほんもののヒーローですから」と断った。
ひそかに、わたしだけの・・と言いたかった。
◇
神界。
いつも通り、主任が見ていた。
「まあ、あれだけ子供達を喜ばせたのですから、充分善行ポイントの対象でしょう」
「それ以上に、あなたに、あんな演技の才能があったことが驚きでした。まるで本当みたいでしたよ」
神様はきょとんとした。「……演技です」
主任はにやりと笑った。
「そういうことにしておきましょう」




