第5話:女子高生を助けろ(その2)①
橘伊都は、このさびれた祠に手を合わせた。
ここにお願いすると困ったことが解決されるというもっぱらの評判だったからだ。
「あの変なお面を被った男の子と再会させてください。
できたら、つきあえたりすると、うれしい・・・かな」
伊都は、五百円玉をいれた。この祠のお賽銭としては破格だった。
そして、チリン、チリン、と鈴を鳴らした。
伊都が立ち去ろうとすると、
「お困りのようですね」
突然、後ろで声がした。巫女服を着た中学生くらいの瞳の大きな娘がいた。
あの時、バイクの後ろに乗っていた娘に間違いなかった。
「あなた・・?」
「困りごとの解決承ります」
「前半は簡単です。後半は・・・」
そこでその娘の顔が曇った。
「あなた聞いていたの?私声に出していましたっけ」
「聞いていました。神様ですから」
伊都は少し馬鹿にしたようにこの幼げな娘に言った。
「じゃあ、お面の男の子を明日の4時に、ここのカフェに来させてよ。
そしたら、神様だと信じてあげる」
「わかりました。大丈夫です」
◇
次の日の放課後、伊都は、そわそわとお気に入りのカフェに行った。
ちょっとレトロだが、高級感があって紅茶とケーキがおいしい。
あの中学生のいうことを信じたわけではなかった。でも、不思議な娘だった。
年下の清楚で可愛い女の子の最大公約数的な娘で、伊都もあんな妹がいたらと、思えるような娘だった。
でも、妙に知的で達観したような大人びた眼差しをするときもある。
まあ、学校帰りに紅茶とケーキでもと思った伊都は、店に入るなり、胸が高鳴った。
中央の席にあの男の子の大きな背中が見えた。この辺りでは知らない者がないトップ高の制服だった。
「お待たせしてすいません」伊都が出来るだけ可愛らしく挨拶してから席につくと、驚愕して目を見張った。
男の子は相変わらずヒーローの変なお面を被っていた。
周りの客もそれを見てひそひそと小声で話している。伊都まで恥ずかしくなった。
伊都はできるだけ平静を装って、男の子の前の席に座ると
「橘伊都と申します。あの・・・」
「お助けマンです。只今仮契約中です」
「できましたら、そのお面を取っていただけると・・・」
「できません。まだ仮契約中なので」
清志は、神様からお面を取るな、しつこく言われていたのだ。
「伊都さんの前でお面を取らないでくださいね。まだ仮契約なので。
いいですか、とったら嫌ですよ」
清志は、神様が妙に切実なのが気になった。
仮契約中では素顔をさらしてはいけない、と単純に理解した。
「どこかで困って 泣く人あれば
ならずそこへ やって来て
助けることこそわが使命
愛と正義の使者、
お助けマン参上!只今仮契約中……
困りごとをお話しください。僕が解決します」
伊都「はあ・・・・」もう何と言っていいかわからなかった。
「とりあえず何かお飲みになりますか?」
さすがに飲むときはお面を取るだろうという思ったからだ。
「では、コーヒーを。ここには種類が豊富なので、マンデリンを
あなたも、ケーキでもいかがですか?僕がごちそうしますよ」
優しい声だった。いやでも、お面の下の素顔が気になった。
「青嶺高校ですよね。うちの聖華女学院にも、そちらの高校とお付き合いしている友人が何人かいますの」
「知っています。いつもうらやましいと思っています」
伊都の顔がぱあっと明るくなった。
「何年ですか」
「2年です」
「じゃあ、同学年ですね」
そこで、コーヒーとケーキがきた。伊都はダージリンティーだった。
お助けマンを名乗る男の子は、器用にお面の下だけ上にもちあげると
コーヒーを飲んだ。
あくまでお面を取るつもりがないらしい。
でも、意思の強そうな引き締まった口と、顎が見えた。
それだけで、伊都の胸が高鳴る。
「あのう、そのお面取ったほうが飲みやすいんじゃありませんこと」
「すいません。仮契約中なので」
伊都が噴き出した。
まったくわけがわからない理屈だったが、彼の誠実なところが感じられた。
おそらくあの娘にいわれているのだろう。
「あの祠のところで、可愛らしい女の子と会いましたの。中学生くらいの」
「ああ、神様です」
「えっ?あのこがあなたにとっての神様なんですかぁ」
伊都が少しむっとした。どうどうと、のろけられたと思ったからだ。
「わたしだけではありません。この地域みんなの神様です」
彼が、トップ校の制服姿で、こんなにすらっとした長身でなかったら
あなた頭大丈夫?くらい言ったかもし知れなかった
「では、遠慮なくお困りごとを、申し上げてください」
「もう今日は充分です。あなたと話したかったらどうすればいいかだけ教えてください」
「あの祠のところで鈴を鳴らしてください。僕は学校で不在でも、神様が聞いてくれます」
「もう、神様、神様って・・・あの娘はあなたのなんなのよ!」
「神様です」
伊都は席を立とうかと思ったが、お面の下の彼の目がすごく優しそうなので思いとどまった。
でも、あの娘を崇拝して言っているようにも思えなかった。
「神様って名前なんですか?あのこ」
「鈴乃比売命というのが正式な名前だそうです」
「はあ・・・」伊都は頭がおかしくなりそうだった。でもこれだけはわかった。彼は本気で言っている。変な宗教でもなく、恋人としてのろけているわけでもない。事実のみを。
「まあ、とりあえず神様ということにしておいて、あのこが取り次いでくれるんですね。あなたに」
「ええ、神様の手にあまることなら」
まあ、よく考えれば、探偵事務所の窓口みたいな娘なのだろう。そう考えれば理解できる。
「もう、ケーキ食べますよ。あなたのおごりですからね」
「ええ、どうぞ」
彼がやさしく微笑んだように・・・・見えた。
会計のとき、席を立つと、彼はずいぶんと背が高かった。
伊都も女性としては小さいほうではない。
彼は180㎝以上あるだろう
彼はスマートに支払いをすませた。
「とうとう、そのお面を取ってくださりませんでしたね」
「……神様との約束なので」
「そんなに、あの子の言うことを聞くんですか?」
「僕を助けてくれたんです」
「そうなんですか・・・」
ただ、お土産に店のプリンを二つ買ったのが気になった。
彼はプリンが好きなのだろうか?




