最終話:清志を助けろ!
自分の昇進が決まったとき、神様は、まず橘伊都を訪ねた。
「転勤します。もう戻ってきません」
伊都「転勤って、あなた一体幾つなのよ。まさか社会人」
「私本当に神様なんです。いままで見習いでしたけど、今度やっと正式な神様になれました」
伊都は、じっと、その幼い顔立ちを見つめた。
なんか本当に信じてしまうような真剣さがあったからだ
「で、その神様が私に何の話があって。まさか罰を当ててやるとかじゃないでしょうね」
「清志さんをお願いします。ふたりはとてもお似合いだと思いますよ」
「えっ?」伊都の顔が赤くなった。
「あなた、一体なんなのよ、ほんとに妹さんだったの」
「伊都さんは、美人だし、背も高いし、ほんとうにイケてる女子高生だし、
清志さんとは、お似合いだと思います」
「だから私もこれで安心して・・・あれ?」
神様の巫女服の袖に、ぽたぽたと水が落ち始めた。それは、涙だった。
「わたし、ほんとうに、どうしちゃったんだろ・・・とてもうれしいことなのに・・・」
伊都は、その涙をじっと見つめた。
「とにかく、お幸せに!」
神様は、くるりと背を向けると、泣きながら走っていった。
伊都「・・・うそつき・・・」
◇
祠の前では、清志が待っていた。いつものように。
神様は、涙を拭くと、懸命に笑顔を作った。
「清志さん、わたし、ちゃんとした神様になれました。清志さんのおかけです」
清志は、神様の涙のあとを見つめた。ずっと泣いていたのだろう。うれし涙でないのは確かだった。
「そう、良かった。おめでとう。この小さな祠も卒業だね」
神様のつぶらな瞳からまた大粒の涙があふれてきた。
「何で泣くの。ずっとそれを目指して頑張ってきたんじゃないか」
神様は、もう少しで、清志の大きな温かい胸にまた飛び込むところだった。
でも、皆を幸せにするという、神様としての使命の前に、必死に思いとどまった。
清志もそれがわかっていた。
抱きしめるかわりに、右手を差し出した。
「ほんとうに、おめでとう。これでちゃんとした神様だね」
「はいっ」
神様も右手を差し出した。本当に綺麗な小さな手だった。
「どこの神社の神様になるの?」
「まだわかりません。従六位下ですから、村や町の小さな神社だと思います」
「場所が決まったら知らせてくれる?お参りにいきたいから」
「・・・・・・できません、あなたは忘れてしまいます、私のことを 神界のきまりですから」
「いやだ!」
もう限界だった、清志は、神様を抱きしめようとした。でも・・・
神様が消えていく
「清志さん、大好きです!
ほんとうは、あなたのお嫁さんになりたかったの・・・」
「僕も君が好きだ!大好きだ!!」
一瞬、神様の眩しいくらいの笑顔が見えたが、すぐに見えなくなった。
もう祠の鈴がなることはなかった。
そして、お供えのプリンがなくなることも
・・・もうなかった。




