エピローグ
夏が終わり、短い秋がきて、やがて木枯らしが吹く季節になった
冷たい冬の雨の中、
清志は、傘もささずに、毎日暇さえあれば祠の前に立っていた。
なぜだか理由はわからなかったが、そうしたかったのだ。
伊都が訪ねてきて、びしょ濡れの清志を見つけ、あわてて傘を差し出した。
「ありがとう。そういえば雨が降っているんだね」
伊都は驚いて、清志をアパートの軒下に連れて行った
「いったいどうしちゃったのよ」
「なんだかとても悲しいんだ」
伊都は、祠の前にずかずかと歩いていくと大声で怒鳴った
「神様ならなんとかしなさいよ!あなたの好きな人がこんなになっちゃってる
のに。
これじゃ、神様じゃなくて、あなた、悪霊じゃないの!」
清志は、祠を見つめていた。清志の目から涙がこぼれた。
「最後に、ちゃんと神様になれたんだから・・・それでいいんだ」
伊都は何も言えなかった。
いつの間にか雨が上がって陽がさしてきた。
竹林の奥から、風が吹いた。
季節外れの温かい風だった。
ざわざわと竹の葉が揺れる。
そして――
チリン。
祠の鈴が鳴った。
清志が顔を上げた。
「……?」
もう一度。
チリン、チリン。
伊都も振り返った。
「今……鳴った?」
「ふたりして、ふたりして、そんなこを言ったら、わたしもう・・・・」
竹藪の奥から、少しばかり秋の装いの童顔の女の子が現れた
でも、もう、巫女服姿ではなかった。
清志が走っていき、抱きしめた。思いっきり。
「苦しい・・・です」
清志が慌てて離した。女の子の顔は真っ赤だった。
でも、とてもうれしそうに清志を見つめた。
「わたし戻ってきました。しばらく、神様じゃありません」
清志も愛おしそうに見つめた。
「また海へ行けるね」
女の子は、上目遣いに甘えた表情で
「また連れて行ってくれますか」
伊都は呆然として二人を見ていた。
「・・・なんか私、大失敗しちゃったかも・・・」
神界。
水波能売命が自席で書類を見る。
そこには、関東を統括する弟橘媛命からの差し戻しだった。
「退職願い・・・・却下」
「ただし、3年間の人間社会への留学を許可する。人間名 神谷鈴音」
主任は、下界の二人を映す神鏡を見つめた。
「まったく、幸せそうな顔しちゃって・・・必ず戻ってくるのよ。
そのまま幸せになるなんて許さないからね」
完




