第15話:園児達を助けろ!
その日、ボランティアで園児の送迎バスに伊都と神様が乗り込んでいた。
幼稚園を出て、最初のバスストップについて、最初の園児を下ろした。
迎えの母親達に交じって異質の男がいた。よく、父親が送迎に出てくることもある。
でも、その男は雰囲気が異質だった。子供を迎えに来たようには、見えなかった。
もう降りる子供はいない筈だ。伊都がいぶかし気に「なにちゃんのお迎えですか?」
と聞くと、「どけ!」「きゃ!」伊都を押しのけるのように乗り込んだ。一瞬のことだった。
「バスを出せ!こどもを傷つけられたくなかったら、バスを出すんだ!」
神様は、シートの影に隠れた。園児に紛れて、急いでラインを入れた。「助けて・・!」
幸い、子供っぽさから目に留まらなかったのかもしれない。
男は、運転席までくると、運転手に、サバイバルナイフを突きつけた。
「バスを出すんだ!」運転手は仕方なく、バスを発信させた。
「国道へだせ」園児の女の子が泣きだした。
「泣くんじゃない。おじさんがいいところに連れて行ってあげるから。みたこともないところだよ」
男は不気味に笑った。
「あははははは・・・愉快だ、楽しいね・・・あははは、皆で笑うんだ!楽しいんだ、楽しいって言えよ、笑えよ!」
園児達が泣きだした。
「ふぅらふぅら、るりららら・・・」男が狂ったように歌いだす。
「こんなことやめなさい!一生棒に振る気なの?子供を傷つけたら、人生終わるよ」
伊都が、仁王立ちになった。
「もう終わってんだよ!さあ、皆で俺の旅路へ付き合ってもらおうか」
男は、狂ったように笑っていた。
◇
神様から必死のラインが届く「幼稚園バスジャック、警察に連絡、助けて・・」
オーディオから、昔のディスコミュージックが流れていた。
「若者よ 立ち上がるんだ」
そんな歌だった。
清志は、周りを見つめた。
静かに佇むヤマハRZ250
ヘルメット。
そして、
ヒーローのお面。
清志は、「待ってろ!今助ける!」とだけ返信した。
キーを回す。キック一発。
「パァァァァァァン!」
2スト独特の乾いた排気音。
何かを決心したようお面を被ると、RZに跨り、ロケットのように飛び出していく。
シートの影の神様のスマホに着信音。
「待ってろ!今助ける!」
それを見た、神様の瞳に見る見る涙がにじんだ。
後部座席の子供が振り返って叫ぶ 「お助けマンのおにいちゃんだ!」
「えっなんだぁ? 」バスジャックの男が窓を見ると、
白いオートバイに跨ってお面を付けた若い男が猛スピードで近づいてくる。
さすが、2ストロークの最速バイク。あっという間に、バスと並走する。
窓から、ことも達が歓声をあげる。
唖然とした顔でそのお面の青年を見つめる犯人。
信じられない顔でそれを見つめる伊都。
神様は、既に涙目だった。
「かせ!」
男が運転手のハンドルに手を添えて、ハンドルを切った。サイドをバイクにぶつける気なのだ。
バスが、かべのように、バイクに近づいてくる
清志は、3速までい一気にシフトダウンすると、エンジンの回転数をレッドゾーンぎりぎりまで上げた。
わずか250ccで36馬力。リッター換算なら約144馬力にもなる2ストロークエンジンが、甲高い咆哮を上げた。
RZ250は、爆発したように加速して、一瞬で、バスを追い越し、その前に出た。
運転手が思わずブレーキを踏む。
「ぶつけて蹴散らせ!」犯人が運転手にナイフを突きつける
「そんな!」泣きそうな運転手。
「どけっ!」犯人は運転手を座席から引きずりだす。
コントロールを失った、バスが蛇行する。
子供達の悲鳴があがる。
犯人は、運転席に収まると、アクセルを踏み込んだ。
RZのエンジンが吠える。
再びロケットのように加速するRZ250。
カーブが近づく。RZは、稲妻のように2速までシフトダウンすると、白煙をあげてコーナーを抜けていく。
バスが追いつけるわけがないのだ。
道が再び直線になる。
清志は、バスの前で、時速100キロ越えで見事なスラロームを見せた
再び子供達から歓声が上がる
「ばか・・・」伊都があきれたようにつぶやく。でも、顔が真っ赤だった。
神様は泣いていた。感極まったのだ。
清志は、バスのフロントグリルの単眼カメラのセンサーの真前に、RZを持ってきた。
衝突被害軽減ブレーキが強制作動した。警告音が鳴り響く。バスガクン、ガクン、と揺れ、ギュイイイインと自動ブレーキがかかる。
犯人は、狂ったようにアクセルを踏み込んだ、床につくほど踏み込んでもバスは減速していく。
バスが止まった瞬間をねらって、清志がバスの後ろに回り込んだ。神様が、走って行って、幼児専用車の非常口の扉を開けた。
「お助けマン参上!只今仮契約中・・・」
犯人が振り返った瞬間、清志の掌底が、犯人の顎に叩き込まれた。
一瞬で、脳震盪を起こして、昏倒する犯人。
そのとき。やっと遠方からサイレンの音が聞こえてきた。
清志は、神様と伊都が無事なのを確認すると、再び、バスの後ろに停めたRZ250に飛び乗った。
子供達が窓から叫ぶ。
「お助けマン、ありがとう・・・」
清志は子供達に手を振ると、再び加速して走り去っていった。
「清志さん・・・」
二人の娘は、同じ名前を、それぞれ自分だけの想いを込めてつぶやいた。
神界。
主任「・・・・・絶句」
「……あの人間の娘と、どちらが縁結びの神なのかしら……」
手元の辞令をじっと見返した。そこには、
「少初位上鈴乃比売命の試用を終え、従六位下に任ずる。
関東地区統括本部長 正四位上 弟橘比売命」
と書かれていた。
鈴乃比売命は、無事に正規の神様になったのだ。
でも、これは、清志との別れを意味していたのだった。




