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第11話:女子高生を助けろ!(その4)

お助けマンの素顔を見てしまった橘伊都は、その情報網と行動力で、その個人を特定するのにたいして時間はかからなかった。


西城清志 青嶺高等学校2年 17歳。


成績は常に5番以内。空手部。1年生の秋、2年生の春ともにインターハイ個人戦の部出場。


身長182㎝


そのスペックで、あの顔だ。伊都は初めて本当に男の子が好きになった。


住所もすぐにわかった。あの祠のすぐ前だった。灯台元暗しとはよく言ったものだ。


生徒会副会長で鳴らした伊都である。行動を起こすのは早い。もう神頼みの段階ではないのだ。


聖華女学院高等学校生徒会として、正式なお礼として、清志を訪問することになった。


梅雨の晴れ間の日曜日。神様から遅れること2週間。伊都は清志のアパートを訪ねた。


前日、たっぷりとコーデで悩んだ。可愛い系では、あの娘のフィールドである。


あまり力の入りすぎない、でも、綺麗でスタイルの良さが引き立つ、コーデを決めるのに、たっぷり1時間をかけた。


はやりのビタミンカラーコーデ。


トップスは、イエロー×ホワイトの控えめなボーダーのパフスリーブ。さりげなく、大きな胸を強調した。


ボトムスはハイウエストのストレートデニムを合わせて、気になる下半身よりも、足の長さを強調した。


挿絵(By みてみん)


ブランドものの焼き菓子「デメル」クライネクーヘンを(生徒会の予算で)買って、手土産とした。


最初、プリンにしようかとも思ったが、なぜか、あの娘の顔が浮かんだので止めた。


一応、高校から生徒会名でラインを入れて、訪問のアポは取りつけてあった。


ピンポーン、チャイムを押すと、ジーンズにコットンの白シャツ姿の清志が現れた。


相変わらずの爽やかなイケメンである。


「聖華女学院生徒会です。この間は助かりました。お礼に伺いました」


ひそかに鏡の前で練習した微笑みを添えて。


「副会長の橘伊都さんですね。わざわざ恐縮です」


「覚えておいていただけたのですね」最上級の笑顔。


「せっかくお越しいただいたですから、お茶でもいかがですか?紅茶もあります」


「えっ、よろしいんですか」最初から、ただで帰るつもりは毛頭なかった。


「まあ、いい部屋ですね・・・」


伊都は、大きく伸びをした。胸を強調したつもりだった。


たしかに初夏の風が気持ちのよい部屋だった。


「訳あって実家を出て一人暮らししています」


 実家は、港区というデーターも入手済みだった。


伊都は、さりげなく、室内を観察した。本棚の本もチェックした。


「なるほど……この人、見た目だけじゃないんだ」


ますます好きになった。「これは絶対に落とす!」


窓からみると、あの祠が見えた。祠の奥の竹藪から、あの娘が出てくるのが見えた。


真っ白な可愛らしいミニのワンピース姿だった。


挿絵(By みてみん)


なるほど・・・・伊都は二人の関係が分かった気がした。


近くに住んでいるのだ。あの娘は。


◇


神様は、この間、肝心のお礼をするのをすっかり忘れていた。


それ以上に清志との時間が楽しかったのだ。


それで、一生懸命クッキーを焼いたのだった。


可愛い容器に入れたかったが、周りにないので、白木の小箱に、リボンならぬ水引だったが。


ピンポーン。チャイムを鳴らした。


「えっ!?」中から清志と、伊都が並んで顔を出した。


わざと清志の傍に密着しているのがタチが悪い。


神様は、どう反応していよいかわからず、立ちつくした。


「おはよう。橘さんが、生徒会を代表してこの間のお礼に来てくれたんだ」


清志の屈託のない笑顔。ちょっぴり、神様に対してのほうが笑顔が優しかったかもしれない。


「そうでしたか・・・。あの、これ、よろしければ、お二人で食べてください」


神様は、白木の箱にいれたクッキーを差し出した。今にもべそをかいて駆け出していきそうだった。


伊都も年下の(ように見える)女の子が、泣きそうになっているのを見ると、さすがに可哀そうになった。そこまでいじわるではないのだ。


「ちょどお茶を入れるところだから、みんなの食べよう」


「お邪魔します・・・」


神様は、同性として、伊都のコーデをチェックした。


憧れの綺麗なおねえさまタイプだった。


スマホで見るような流行をさりげなく取り入れている。


子供っぽい自分とは大違いだった。


清志とは、どう見てもお似合いだった。


すごく胸が痛かった。


どうも、このところ働きすぎなのだと、自分に言い聞かせた。


伊都も、素早く神様のコーデをチェックした。


清楚な真っ白なワンピースミニが、華奢なラインを際立たせている。


同性の自分でさえ、抱きしめたくなるくらいにはかなげで可愛い。


自分がこのコーデをしたら、あざとすぎて、コスプレになってしまいかねない。


強敵だ、と思わざるを得なかった。


二人の女の子の火花など、無頓着な清志は、キッチンで紅茶を入れていた。


部屋の空気が重かった。


神様は、この間清志と向かいあったときは、心地よかった小さなテーブルが針のむしろだった。


小ぶりなテーブルの上には、伊都が持ってきたデメルの焼き菓子と、神様の手作りクッキーが並んでいた。


「それ、手作り?」伊都がぼそっと聞いた。


「はい、お礼に作りました。上手にはできませんでしたが」


神様が無邪気にほほ笑む。


「はいっ、紅茶できた。ふたりともお礼なんていいのに」


「ありがとうございます・・・・」二人の娘が同時にハモった。


清志は、ルイビィトンのトラベルセットの皿に、二人の持参した焼き菓子を公平に並べた。


伊都は、真っ先に、神様の手作りクッキーを食べてみた。


「おいしい!」


形はやぼったいが、確かにおいしかった。


「そうですか。そういってもらえると作った甲斐がありました」


神様がはにかんだように微笑む。この娘、確かに可愛いかも・・・


「あっ、そうそう、清志さん。先週お借りした、あの薄い本ですが、やっぱり私だめでした。マニアックすぎて」


「ぶっ!」伊都が紅茶を吹き出しそうになった。


「そうだろ。僕もついていけないんだ。君が見たがるから、貸したんだけど・・・」


「わたしもちょっと無理です。ごめんなさい」


「この間、君がいるうちに、二人で実際にトライしてみればよかったね」


「えっ、えっ、ええええ?」(えっ、どんなプレイ?無垢そうな顔してもうそんな関係なの・・・)


過激極まりない話のくせに、二人は全く悪びれていなかった。


「伊都さんならできるかも。試してみますか?」


神様が無邪気な顔で聞いた


「がんばってみたい気もするけど・・・三人ではちょっと・・・」


さすがに伊都も顔が火照ってきた。


神様がバッグから薄い本を取り出すと、


清志は、「この年は特に難しいみたいなんだ」と受け取った。


「なんの同人なんですか・・・?」伊都が恐る恐る聞いた。


「昨年の数学オリンピックの問題集。僕は数学が好きなんだけど歯が立たなかった」


伊都「・・・・・・・絶句!」椅子から転げ落ちかかってた。


「この間って、今日が初めてじゃないの?ここ来るの」


伊都は、小声で神様に聞いた。


「先般、お礼に伺ったんですが、肝心のお礼を忘れてしまったのです」


清志「先週は、一日があっという間だったね。君がお昼に作ってくれた、おばんざいおいしかったよ」


「清志さんの夕食のカレーという料理も美味しかったです」


伊都「・・・・・・・」


「もうお昼時だから、何か食べていかないか?生シラスが手にはいったから、 

 シラスのパスタを作ろうと思っていた」


伊都「西城さんって、お料理なさるんですね」


「ええ。できあいのものが嫌いなので」


重要な情報だった。伊都も料理は得意ではなかったが、頑張ろうと決意した。


清志がキッチンに立っているときに、童顔の娘に聞いてみた。


「あなた、縁結びの神様なんですよね」


「ええ、重要なタスクだと認識しています」


「あなた自身は対象外なんですよね」


「もちろんです。女神への過度の身体接触は厳禁なのです」


「・・・それでも、クッキーとか焼いてきちゃうんだ・・・」


「えっ、何か言いました?」


「はい、おまたせ」


清志がパスタを持ってきた。


「おいしい・・・」二人の娘が同時につぶやいた。


レストランで出せるレベルだった。


「祖父が葉山なんで、子供の頃から、夏はそこですごしていたんだ」


二人の娘は、それぞれ湘南の海で清志と笑いあう妄想が暴走していた。


「稲村ケ崎のイタリアンで、教わったんだ。このレシピ」


落とす、絶対落とす・・・・。


「伊都さん、なんか目が怖いんですが・・・」


パスタのあと、清志は、 Bruce Hibbard のレコードをかけて

「You're So Good to Me」を流しながら、コーヒーを淹れた。


梅雨の中休みの心地良い風が流れる日当たりのよい部屋で、


伊都も神様も夢見心地だった。


それぞれ、目の前のライバルの存在は消去していたが。


帰り際、伊都が神様に、


「あなた、本当に神様なの?」


「はい」


「だったら、私の願いを叶えてよ」


「もちろんです」


「西城さんとデートしたいの」


「……それは……」


そのあと、清志は伊都をRZ250で送っていった。


親切な清志らしかった。


神様は、祠のところで走り去る二人の姿を見送った。


別にタンデムシートの後部座席は、神様専用ではないので文句を言えた義理はないのだが。


胸にぽっかりと穴があいたような気がした。


神様は、仕事、仕事・・・と自分に言い聞かせた。


縁結びのタスクをこなすのだ。


◇


神様が神界に戻った


主任「どうしたの、元気ないじゃない」


「伊都さんから、清志さんとのデートをお願いされました」


主任、「縁結びのチャンスじゃないの」


神様、「でも……」


主任、「何?」


神様、「清志さんが伊都さんとデートすると……私、寂しいです」


主任、「…………あなたねえ……」


「どうしたらいいんでしょう……」


主任、「それを私に聞く?」


主任は、呆れ顔だった。


「プランを作りなさい。デートプランを。それとなく清志さんに吹き込むのです。若い二人が結ばれるような」


「わたし、自信がありません。経験がないので」


「なんのために人間の通信機を買ったのですか?動向を調べなさい。神通力よりも便利だと言ったのはあなたでしょ」


◇


「あれ?」


清志は、伊都を送り届けて、すぐに戻ってくると祠のところにもう神様はいなかった。


随分と伊都に引き留められたのだが、神様とまた Fitzgeraldについて、話したかったので大急ぎで戻ってきたのだ。


「なーんだ」


清志もがっかりしていた。


◇


清志は、湘南方面が詳しそうだった。


神様は、上司に命じられるままに、若い女性が喜ぶ、トレンドスポットを検索した。


江の島水族館、イルカショー、江の島海岸の夕陽・・・・


「いいなぁ、そういえば、わたし、海みたことがないなぁ・・・」


神様は、寂しそうにつぶやいた。



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