第10話:女子高生を助けろ!(その3)②
ステージにダサいお面を被ったすらりとした背の高い男の子が現れた。
トップ高の制服を着ていた。
そのお面の男の子は、セミアコのギターをもっていた。
コミックバンドか、笑いが起こった。珍妙な光景だった。
笑い声のなか、男の子は、ギターをアンプにつなぐと手慣れた手つきで、チューニングをオープンGに変えた。
ポケットナイフを取り出して、玄の上をスライドさせる。
そして、男の子が、
澄んだ声でRod StewartのSaillingを英語で歌いだしたとたん、
皆が静まりかえった。
ギター一本の渋いアコーステックブルースアレンジだった。
初夏の蛙の声のバックコーラスも悪くはなかった。
夏が近づいてくる夕暮れの空気の中で、
彼のさみしさと、遠い憧れが聞いている皆にもしみわたっていった。
男の子のシャウトが皆の胸を焦がす
スラリとした長身に、この歌とギターは、まったく反則だった。
ダサいお面を被っていなかったら。
女の子達は、皆、魂が彼方に飛んで行ってしまっただろう。
最も、素顔を知っている神様は、魂が、既に飛んで行ったあとだった。
男の子が歌い終わると、大きな拍手が沸き上がった。
そして、
アンコールの大合唱!
続いてStand by meを歌った。
スローなデルターブルースのアレンジだった
ナイフの柄が、ギターの弦の上をすべる
ギターが泣きだした
僕の傍にいて・・・
彼は、
床を踏み鳴らして、リズムを取りながら。
今度は、神様のほうを向いて歌った。
僕の傍にいて・・
ギターが泣いている
神様は涙目でくしゃくしゃになってしまっていた。
僕の傍にいて・・・
何人もの女の子が泣いていた
途中からビートに合わせて、手拍子が起こり、
最後は、皆で、全員で大合唱となった。
Stad by me! Stad by me!
僕の傍にいて・・・
歌い終わると、万雷の拍手だった。
ステージを降りると、
伊都が近づいてきて、うっとりして聞いた。
「あなたはできないことがないんですか?」
「一番大事なことができない。人を愛するということが・・・」
お面で見えなかったが、彼はほんとうに寂しそうに見えた。
◇
そのあと、ダンスタイムだった。
「踊りませんか」伊都が近づいてきた。
清志が思わず神様を見る。
伊都は、「おにいちゃんを借りますね」
神様が何か言う前に清志を連れて行ってしまった。
長身の清志とすらりとしたスタイルの良い伊都はお似合いだった。
ダサいのお面さえなければ。
「お願いです。素顔を見せてくれませんか?せめて今だけは」
清志は、お面を外した。
「やっぱり・・・ずるい・・・」
見上げる伊都の顔がみるみる赤くなった。
◇
神様は、端っこで、壁に寄りかかって、踊る幸せな女子高生たちをみていた。
もしかしたら、自分もあったかもしれない、人としての幸せな人生。
周りの同じような壁の花の女子高生達が話していた。
「男はやっぱり金だし・・・そうそうお金持ちでないとね・・・」
曲がディスコナンバーからスローなThe Tennessee Waltz に変わった。
清志が、向こうから近づいてきた。
周りの女子高生達の視線が長身のイケメンに集中する。
清志は、神様の前まで、まっすぐに来ると、
「僕と、踊っていただけませんか?最後に・・・」
神様もまっすぐ彼の目を見つめて応えた。
「喜んで・・・・」
背の高い清志にぶら下がるように神様はワルツを踊った。
もはや恋するひとりの女の子だった
二人の視線が交差する・・・
神様が清志の胸にそっと寄りそった。
誰が見ても、完璧にお似合いの二人だった。
伊都が悲しそうに見つめていた。
この娘が妹のはずがないことは明白だったからだ。
曲が終わると、
「さあ、帰ろうか。人助けも終わったし」
清志は、涙目の神様を促した。
急いで、伊都が近づいてきた。
「今日はありがとうございました。また助けてくれますよね。あの祠のところに行けばいいですよね」
「いつでもどうぞ」
神様をタンデムシートに乗せると、
清志は、またダサいお面を被った。
RZ250に跨がり、右足を一気に振り下ろした。
ガコン! バロロロンッ!
キック一発で覚醒したエンジンが快音を鳴らす。
「どこかで困って 泣く人あれば
ならずそこへ やって来て
助けることこそわが使命
愛と正義の使者、お助けマン参上!只今仮契約中……」
そして、走り去った。
伊都は見てしまった。
妹だと言っていた娘がうっとりと清志の背中にほほを寄せているのを。
◇
でも、神界からも、しっかりと上司に見られていた。
「まあ、善行ポイントをあげましょう。確かに多くの人を助けました。でも・・・」
水波能売命はため息をついた。
「困ったものですね。これだから、若い神は・・・ミイラ取りがミイラになるとはこのことです」




