第3話 ゲームオーバー
走る。
追いつかれる。
攻撃される。
また走る。
冷菓はそれを何度も繰り返していた。
「はあ、はあ、」
木々は冷菓の行く手を阻む壁となる。
枝を避け、木の根を飛び、必死に駆け回る。
しかし森の出口は見えないし、景色も変わらない。
「な、なんで景色が変わらないの....」
後ろからは狼たちの足音が聞こえてくる。
「来ないでよ...」
ドドドドドー
「来ないでえ!!」
冷菓は走りながら懇願するが願いは届かない。
体は血だらけ、服は破れ、足はよろよろ、
まともな状態ではなかった。
胃液が上がってくる気持ち悪さに口を抑える。
「うっ」
肺が焼けるように痛い。
慣れない運動により胃液が上がってくる感じがする。
目が虚ろになり視界が朧けになる。
足が限界を迎え、木の根に足を引っ掛ける。
「うあっ!」
体は前に投げ出された。
「あ........」
冷菓は悟ったように声を漏らす。
転ぶ間際、足を捻ってしまった。
右足首は赤く腫れ上がり、痛みが走る。
再度立とうとするが、足が動かない。
「なんで、なんで動かないの?!!」
呼吸することもままならない、
足は動かず、
体中から出血が起こっている。
「に、逃げなきゃ、」
冷菓は腕を使い、ズリズリと地を這いながら逃げる。
足音が止まる音がした。振り返るとそこには狼が冷菓の事を見下していた。
「嫌...」
「嫌だ...」
「死にたくない」
目から涙がこぼれ、お父さん、お母さん、そして桜の顔が走馬灯のように浮かぶ。
「来ないで!!来ないでよお!!!!!」
地面の土を握り狼に投げつける。
「グルルルル!」
狼は唸り声を上げ少女へ飛びかかり、それに続くように他の狼たちも飛びかかる。
「っ!!」
冷菓の視界が大きく揺れる。
ブチッ
グチャ
ベキッ
少女の体を引きちぎり、血が吹き出る。
「あ、、あ、、あああああああああああ!!!!!!!!痛い!!痛い!!」
「だ、誰か、助けて、」
声がかすれ、体が徐々に重くなり、死が近くなるのを感じる。
少女は絶叫し意識が朦朧とする。腕はもげ、体中から真っ赤な血が流れ出る。
口から吐血し、目の前が赤く染まる。
「、、い、、い、、や、、だ、、し、し、、に、、、、たくな、、い、、」
「お父、さん、お、母さ、ん、さ、くら、」
グチャッ
ブシャっ
そんな少女の願いも虚しく、ウルフに首を噛み切られる。
一気に血が吹き出て、白い毛並みをした狼が赤い血に染まる。
視界は暗くなり、周囲の音が遠ざかる。
少女の意識は途切れた。
何も無い闇の中。
冷菓の意識は闇の中で落ち続けていた。
(ん、何も感じない、手足の感覚もない、これが死って感覚なのかな?)
不思議と恐怖という感覚もなかった。
何処までも暗い闇、一定速度で落ち続けていた。
その時ーー
何処からともなく端末の音が聞こえる。
「「ジ、ジジ、ジジジ、プレーヤーの死亡を確認、、
残基数、、残り、2、、
個体名:森冷菓の精神体を転送します、、
次回のご活躍を、、心より、、お祈り申し上げます。」」
冷菓の精神体の落下速度は加速し、再度意識が途絶える。
「........... ぶはあ!!!」
冷菓は勢いよく目を覚ました。
背中は汗で濡れており、ベッドにもシミになっている。
激しく呼吸をしながら周囲を見渡す。
そこは、自分が見慣れた部屋だった。
「あれ?ここ私の部屋?」
冷菓は自分の体を確認する。手足も着いており、傷もない。
「痛くない、」
(あれは何だったの?夢?いや、あんなリアルなの夢じゃない。)
土や森の匂い。
不気味な風。
死の恐怖。
冷菓は恐る恐る立ち上がる。
冷菓は自分の右腕を確認すると、
震えていた。
「私...一回...死んだ?」
背筋が凍る。
本来人の死は一生に一度のはず、さらに冷菓はそれを味わい記憶として残っている。
「夢じゃない、あれは現実だ。」
その時。左腕から音がなった。
ピコンっ
「ビクッ!!」
冷菓の体が跳ね、恐る恐る左手を見る。
そこにはあの青白く半透明な端末をつけていた。
触れてみると、画面が表示された。
「「個体名:森冷菓 残機数: 2」」
「本当にあれは現実だったんだ。」
声が震える。
「じゃあ、、また、、あの世界に飛ばされるっていうの、、」
冷菓は絶望した。あのようなことが後二回起こり得るという事実に。その証拠に残機が3から2に減っている。
冷菓は体を抱きしめる。森での恐怖が鮮明に蘇ってくる。追いかけてくる狼、逃げても終わらない森、体を食いちぎられる痛み、そして意識が途絶えた瞬間。
「もう、あんなの嫌だよ。あんな目に会いたくない。」
冷菓は体を震わせた。しばらく顔を伏せて泣いていた冷菓だが、時計をちらりと見る。
「...学校いかなきゃ、」
本人も驚くほど小さな声だった。冷菓は制服に着替え、カバンを持つ。
冷菓は顔が真っ青のまま部屋から出て、リビングへ向かった。
1歩1歩、歩くたびに足取りが重くなる。そしてリビングへの扉を開けると、いつもと同じ光景が広がっていた。
「おはよう冷菓。今日はずいぶん、、、、」
お母さんは振り向いた瞬間冷菓の真っ青な顔を見た。
「どうしたの?!顔が真っ青よ!」
お父さんが席から立ち、駆け寄る。
「冷菓大丈夫か?水飲むか?」
(あんな事言えない。)
「.....だ、大丈夫。ちょっとあんまよく眠れなかっただけ。お父さんもありがと。」
冷菓は無理にでも笑った。親を納得させるためだ。
冷菓はあの事を言ったら迷惑になると思いとっさに嘘をついた。
「本当?もし体調悪かったら言ってね。無理せず休んでいいからね、学校には私が言っておくから。ほら、ご飯食べましょ。」
お母さんは冷菓の頭を撫でる。冷菓の胸が締め付けられる感じがした。
自分の親に対し嘘をついたのだ。
3人は席につき朝食を食べる。
「「「いただきます。」」」
昨日と同じメニューだった。だが昨日と違ってご飯が進まない。
頭の中には昨晩のことだけが残っている。
左手には端末をつけているが、両親には見えていない。無論、腕に触られた時も反応していなかった。
(2人には見えてないのか。)
トーストをかじる。だが、味がしない。
食べている感覚はあるが、それどころではなかった。
その時端末が鳴った。冷菓は肩がビクッと跳ねる。
「ひっ!」
「冷菓どうしたの?」
「だ、大丈夫何でも無いよ。それよりごちそうさま。行ってきます。」
「あらそう?まあ、気をつけてね!」
「気をつけるんだぞ!!冷菓」
冷菓は長い廊下を歩き玄関で端末に触れる。画面を開いた瞬間。そこには驚愕な事が書かれていた。
「次の転送日は今夜の夜中です。
備えることを推奨します。
任務:森からの脱出。」




