第9話 グレイト・フォレストウルフからの逃走
女冒険者が詠唱を始めた。
「神よ...我が声に応えよ...」
杖の先端が白色に光る。苦しそうに詠唱を唱える。
「聖なる力を...用いて....我が...仲間を縛る力を...解き放て...」
グレイト・フォレストウルフの耳がピクリと動いた。
(まずい!気づかれた?!)
冷菓が息を呑む。
(お願い!!来ないでええ!)
「まずい来るぞ!」
(ひいいい!)
ガインが叫ぶ。
その瞬間グレイト・フォレストウルフは姿勢を低くし、構える。
「詠唱はまだか!」
「身を..蝕む呪縛を.....解放せよ...キュア!!」
パァァァッ!!
その瞬間全員の体を白い光が包みこんだ。
(体が動く!)
冷菓は体が軽くなったのを確認する。
「動ける!」
ガインは全員に対し叫んだ。
「今だ!!!走れえええ!!!!!」
全員が一斉に振り返り、走り出した。ガインはレインと女冒険者を抱える。するとそれを追う様にグレイト・フォレストウルフも走り出した。
「グラアアアアアアアアル!!!」
「やっぱり来たか、ミナ!!早く奴にデバフを!!」
解呪をかけた女冒険者の名はミナという。
ブツブツブツ
ミナはすでに詠唱を始めていた。
「ーー彼の者に足枷を!!カーススロウ!!」
杖の先端から黒い光が出たかと思えば、その光はグレイト・フォレストウルフを包みこんだ。
その瞬間、奴足は遅くなったがそれでも速度は冷菓達とほとんど変わらず、このまま逃げ続ければいつか追いつかれてしまう。
「ガイン!これ私たち追いつかれちゃうよ!!」
ウィンドカッターを放っていた女冒険者が叫んだ。
「くそが!」
グレイは振り向きながら歯を食いしばる。
冷菓の額から汗が流れる。
(やばい、私たちこのままじゃ殺される!)
試しに振り向いてみると、そこにはよだれを垂らしながら全力で追ってきているグレイト・フォレストウルフの姿があった。
少しずつ足音が近づいてくる。
(考えないと、なにか、なにか!)
考えながら走っていると、目の前に壁が現れた。
「うそ?!壁!」
目の前には木々よりも遥かに高い岩壁がそびえ立っていた。
岩壁の周りには木が一切生えておらず空が綺麗に見える。
「全員右か左に避けろ!」
ガインは全員に指示を仰ぐ。
(えっと、どっちに避けよう?!えーと、えーと、み、右!!)
冷菓は右へ避け、残りの全員は左へ避けた。
すると目の前の岩壁にグレイト・フォレストウルフが衝突した。
周りは土埃で見えなくなる。
「皆無事か?!」
「はい!」「「うん!」」
土埃の中を見てみると、グレイト・フォレストウルフがよろけていた。
すると、その衝撃で上から運よく岩が落ちてきた。
「え?」
冷菓が上を見ると、直径約4mほどのが落下しているのが見えた。
「グ、グラアアア!!!」
ゴシャアアアアア
それにより、グレイト・フォレストウルフは岩石の下敷きになった。
その場にいた全員が固まる。冷菓も唖然と岩の山を見つめていた。
「終わりか?」
ガインは2人を降ろし剣を構える。
「いや、まだ油断するな。」
(いやいや、これで生きてることって無いでしょ。)
冷菓はグレイト・フォレストウルフが死んでいることを願う。
だがその願いも虚しく、岩が動いた。
「まだ生きてるぞ!!構えろ!」
全員ナイフや剣、杖を構える。
だがグレイト・フォレストウルフは重症だった。
先ほどのような鋭い眼光は消えており、弱々しい目でこちらを見つめている。
「ぐ、グルル」
グレイト・フォレストウルフは唸り声を上げ、トボトボと森の方へ歩いていった。
「い、行ったか........助かった〜!」
皆は緊張がほどけ、床に倒れ込む。
(こ、怖かった〜!!本当に終わったかと思った!)
冷菓が一息ついていると、ガインたちが歩いて近寄ってきた。
「おい、お前。さっきは助かった。ありがとう。」
ガインは手を差し出し握手を求める。
「え?あ、はい。どういたしまして。」
ガインは冷菓の服装をまじまじと見る。デカいカバンを背負い、ローブを着ている。鎧をつけておらず、半袖、長ズボンというこの森で生き抜くには心もとない格好だ。
「今気づいたがお前変な格好してんな(笑)」
ガインが笑うと魔法使いの女冒険者が頭を殴った。
「イテッ!」
「笑っちゃ駄目でしょ!ごめんね。」
「いえいえ!」
(まあ、事実だけど。こんな格好してる人他にいないでしょ。)
改めて自己紹介するね。私はエミリー、でそっちの筋肉マッチョがガインよ。」
「おい、エミリー!筋肉マッチョって言うな!」
「事実でしょ。」
「まあ、そうだが、」
この会話が冷菓にはまるで妻と夫の小喧嘩にように見えた。
「で、あそこで治療してるのがミナ、治療されてるのがレインよ。」
「改めて助けてくれてありがとう。あの時隙を作ってくれなきゃ、私たち今頃死んでたわ。」
冷菓は慌てて手を振る。
「いやいや!私何もしてないですよ!狼1匹倒しただけですし、」
(最後も運よく岩が落ちてきただけだし。)
冷菓は完全に謙遜モードに入っている。
「狼?ああ、フォレストウルフよ。ところであなた、名前は?」
冷菓は首を傾げる。
「え?あ!」
(名前まだ言ってなかった!)
「私は……森冷菓です」
「モリ……レイカ?」
「はい。森が名字で、冷菓が名前です」
「変わった名前ね」
「よく言われます……」
冷菓が苦笑する。するとガインが腕を組みながら近づく。
「それで?なんでレイカはこの森にいたんだ?」
皆が疑問に思う。
(え、えっとどうやって応えよう)
冷菓の目は少し泳いでいる。
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