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ディグニティ・ストライド  作者: 果報寝待


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第80話 重ね届かせる秘策

「今日は一人ずつ実力を確かめるつもりだったんだが……まさか自分達から挑むとはな」


 俺達チームと父さんは、昨日と同じ広場で対峙たいじしている。

 一日や二日で実力が変わるわけではない、だが俺達には自信があった。

 立てた作戦には勝算があると思えるからだ。

 

余程よほどの秘策があるらしいな。これで俺に一撃も入れられなかったら……お前達、覚悟しておけよ?」


 父さんは面白そうに笑みを浮かべて木剣を構えた。

 放たれる圧は昨日と比べ物にならないが、俺達はおくせず構える。

 

「いくぞ!」

 

 合図と同時に地を蹴った。

 正面からムンゴと俺が前進し、左右からレギンとグルーが挟撃きょうげき

 後方ではラロが杖を握りしめ、意識を集中させている。

 

「昨日とほとんど一緒じゃないか。いったいどうする気だ?」

 

 父さんはその場から動かずにただ眺めている。

 舐められている、だがそこが狙い目だ。

 作戦を実行させた上で叩き潰そうという、傲慢さの隙を突く。

 

残響傷ざんきょうしょう毒蔓どくつる』!」

 

 グルーの腕から無数の棘を持つつるが飛び出し、父さんの頭上から降り注ぐ。

 森での経験豊富な父さんなら、一目でこのつるが毒を持っているものだと見抜くはずだ。

 案の定、父さんの警戒けいかいは上空のつるへと向いた。

 木剣でつるを切り飛ばし、正面にいる俺とムンゴへの意識が薄れている。

 

「いくぞムンゴ! 『己力投写こりょくとうしゃ』!」

「はい! 洞同体どうどうたい『鉄・鉄』!」

 

 ムンゴが地面を強く踏み込み、同時に自身を鋼鉄の二倍の物質へと変質させる。

 俺はその背に両手をあて、『己力投写こりょくとうしゃ』でその体を押し出した。

 大型の魔物に匹敵する超重量と超硬度のぶちかましが、疾風の速度で父さんへと迫る。

 

 ドゴッッ!!

 

 凄まじい衝突音がとどろき、父さんの体が大きく後退した。

 突進は父さんを押し出し、地面に二メートルほどの抉られた道を作る。

 勢いはそこで止まってしまう。

 

「重い、いい攻撃だ! 久々《ひさびさ》に体の芯が震えたぞ!」

 

 金属鎧をひしゃげさせながらも、父さんにこたえた様子はない。

 だが作戦はここからだ。

 ムンゴを持ち上げてほおり投げようとする父さんへ向けて、俺達は用意していた物を投げつける。

 

「『己力投写こりょくとうしゃ』!」

「我が腕は『投石器カタパルト』!」

「おりゃあ!」

 

 俺、グルー、レギンが放った物は風切り音を立てて父さんへ迫る。

 両端に石を結びつけた革紐、ボーラだ。

 いつもより長く作った革紐が、父さんとムンゴの体をぐるぐると巻き付けた。

 

「ボーラか、こんな革紐で俺の動きを止められるとでも──」

 

 ミチミチと音を立て、革紐が悲鳴を上げる。

 もちろんただの革で拘束できるとは思っていない。

 父さんを抑え込むには、()()()の物質が必要だ。

 

洞同体どうどうたい『鉄・鉄』!」

 

 父さんにがしりとしがみついたムンゴが、能力を広げた。

 能力の輝きがムンゴの体から、触れている父さんの衣服、そして巻き付いた革紐へと伝播でんぱしていく。

 鋼鉄の二倍の強度を持つ拘束具の完成だ。

 

残響傷ざんきょうしょう熱液ねつえき』!」

 

 グルーが追撃を放つ。

 煌々《こうこう》と光る超高温の粘液が、身動きの取れない父さんへと射出された。

 

 父さんの能力は増幅系で、その膂力も強度も生物の域を超えている。

 だが肉は肉だ、硬度を上げても熱は通る。

 超高温の粘液は皮膚を焼き、肉を固めて動きを鈍らせるはずだ。

 ムンゴは鋼鉄の耐熱性を有しているため、この熱液によるダメージは受けない。


 拘束されたまま超重量のムンゴを連れて無理に回避するか。

 それとも直撃を受けて火傷の痛みにもだえるか。

 

(どちらを選んでも隙はできる! ここで決められれば賭けに出る必要もないが、どう来る!?)

 

「なるほどな。これが秘策か……なかなか考えたな」

 

 この状況下にあっても、父さんの余裕は崩れていない。

 大きく息を吸い込み、胸が膨らむのが見えた。

 

「ハアァァァッッ!!」

 

 父さんを中心に、周囲の空気が爆ぜて震えた。

 ただ大声を上げただけ。

 だが能力で限界まで強化された咆哮ほうこうは人間のいきを超え、もはや嵐だ。


 衝撃波が空中の熱液を吹き飛ばす。

 至近距離しきんきょりでその咆哮ほうこうを浴びたムンゴは、意識を失って崩れ落ちた。

 攻撃で距離が近かったからかグルーも、どさりと地面に倒れる。

 

(こ、こんな方法で打開だかいするなんて……!)

 

 キィィンと耳鳴りが響く中、父さんはブチブチと革紐を引き裂いた。

 

「さて。これで策戦さくせんは終わり、なんて言わないよな?」

 

 ニヤリと笑う父さん。

 一向に来ない秘策に、俺の焦燥感しょうそうかんは上がる。

 

「レギン! 二人でやるぞ!」

「了解だ! 我は『狩猟豹しゅりょうひょう』!」

 

 俺とレギンの猛攻を前にしても、父さんは軽々と弾いていく。

 片眉を上げ、大きく息を吐き出した。

 

「次策は無しか? いや、この動きは時間稼ぎだな。何を待っている?」

 

 こちらの意図を看破かんぱされ、冷や汗が顔を流れた時。

 

「みんなお待たせ! 『是正宣光ぜせいせんこう』!」

 

 集中を高めていたラロから、目もくらむ光が放たれた。

 ようやく訪れた切り札に、俺達に余裕が戻る。

 ラロの光は父さんの全身を包み込む。

 

「目潰しか? これで勝つつもりなら──」

 

 視界を封じた程度では、聴覚や触覚や経験で父さんは戦える。

 だが次の瞬間、父さんの顔に焦りが浮かんだ。

 大きく後方へ跳躍ちょうやくし、俺とレギンから距離を取る。

 

「これは……俺の強化を消したのか!?」

 

 ラロが立てた勝利の策、それは父さんの身体強化そのものを消し去ることだった。

 『是正宣光ぜせいせんこう』は、ラロが認識にんしきした異常を正常へと書き換える能力。

 人間を逸脱いつだつした父さんの身体能力は、ラロの目には異常だ。

 事前に試した際は、見慣れている俺達の能力を消すことはできなかった。

 ぶっつけ本番の賭けだったが。

 

(ラロの策が成功した! 一気に畳み掛ける!)

 

 俺とレギンは、体の調子を確かめている父さんへ駆けた。

 

「面白い! 俺の本気すら消し去れるのか、試してみよう!」

 

 俺達の連撃は、それでも父さんの木剣によって阻まれ続ける。

 いまラロと父さんは能力の綱引きをしている状態だろう。

 一度は消し去ったはずの強化が、父さんの本気の再発動によって押し返されつつある。

 後方でラロが「ぐぅッ!」とうめき、汗を吹き出しながら杖を握りしめている。

 

(だが弱体化はしている。ラロの限界が来る前に決める!)

 

 ラロと能力を押し合いながら、残った強化だけで俺とレギンを同時に相手する父さん。

 憧れ続けたその強さ、こうして戦えているという事実に、俺の胸に喜びが湧く。

 父さんの顔からも退屈は消え、対等な相手に対する真剣な眼差しへと変わっていた。

 

「見事だぞお前達。ならこれはどうする!」

 

 腹に衝撃と痛みが走った。

 速度ではなく技術によって放たれた、躱すことも防ぐことも出来なかった一撃。

 だが辛うじて耐え、追撃に備えて剣を構え直すが攻撃はこない。

 父さんは俺達を無視し、ラロに向かって走っていた。

 

(先にラロを潰す気か!)

 

 腹部の痛みのせいで、思うように走れない。

 レギンも同様に表情を歪めて追いかけているが、距離が遠い。

 間に合わない、敗北を覚悟するが──

 

残響傷ざんきょうしょう咆哮ほうこう』!」

 

 倒れていたのグルーが跳ね起き、能力を解放した。

 父さんが放った、あの嵐のような咆哮の再現。

 

「いいぞ! 虚偽きょぎに不意打ち、そうでなくては格上には勝てないからな!」

 

 大気を震わせる衝撃、しかし完璧な再現にはいたっていない。

 父さんは耳を塞ぎ、足を止めただけにとどまった。

 しかしそれがかえって好都合だった、もし完全に再現されていれば、発動の中心にいるグルーは自滅していただろう。

 大剣を振り上げ、グルーが父さんへ迫る。

 

「おおぉッ!! 残響傷ざんきょうしょう鉄拳てっけん』!!」

 

 大上段から振り下ろす大剣の背へ、『鉄拳てっけん』を叩き込んで加速させる。

 グルー必殺の一撃。

 

 ギャリィッ!!

 

 木剣では受けきれないと判断したのか、父さんは足下に転がっていたムンゴのメイスを拾い上げ、その一撃を受け流した。

 そこへ俺とレギンが追いつく。

 

「我は『大剣振るいし大蟻』!」

 

 細剣を大剣へと変貌へんぼうさせ、人外の力で振り抜く。

 疾風熾烈しっぷうしれつの一閃。

 父さんはそれを紙一重の跳躍ちょうやくで躱してみせた。

 

「『己力投写こりょくとうしゃ』ッ!!」

 

 その回避を読み、俺はすでに空を駆けている。

 黒剣に『己力投写こりょくとうしゃ』を乗せ、一点に向けて突き出す。

 バビさんから指南しなんを受けたこの一突きは、神速の域へと達していた。

 


 ドサッ!

 


 俺と父さんが同時に地面へ落ちる。

 俺の脇腹にはメイスがめり込んでいた。

 父さんの胸当てには、黒剣の切っ先が僅かに突き刺さっていた。

 刃を伝い、ツッと血がしたたり落ちる。

 

「……父さんの負けだ。ここまで成長しているとは、嬉しく思うぞ」

 

 喜びと、どこか寂しさを含んだ賞賛。

 俺の胸にようやく高みの先が見えた実感が湧く。

 チームの全員が歓喜に湧く。

 

「本気の父さんに一撃を……夢みた、い、だ……」

 

 そこで限界になった、俺は地面へドサリと倒れる。

 遠のいていく意識の中では「しまった。少し強くやりすぎたか……」「い、いま回復を!」という声が聞こえた。

 

 意識を沈めながらも、俺の心は充足感で満たされていた。

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