第79話 魄の境地
昨日は皆に村を案内して自由に行動したが、今日は違う。
チームの全員が顔を引き締め、いつもの装備を点検していた。
それを見守るのは、レギンの使用人達と父さんだ。
父さんとの模擬戦闘。
俺達の連携が見たいという要望から、チーム全員で挑むことになった。
「いつでもいいぞ。不意打ちでもなんでも好きにこい」
この前とは違い、父さんは金属製の鎧を身につけている。
武器こそ木剣だが、それだけ俺達の成長を警戒してくれている証拠だろう。
俺達はいつもの陣形を組む。
先頭にムンゴ、その後ろに俺とレギン、ラロを守るようにしてグルーが後方に立つ。
「よし……予定通りの連携でいくぞ!」
『鉄・木』を発動したムンゴが正面から突っ込み、左右から俺とレギンが挟み撃つ。
後ろではのグルーとラロが様子を窺う、いつもの連携だ。
「ふむ……特に面白みのない連携だが、まあ及第点か」
父さんは退屈そうに俺達の動きを見ている。
(いまその退屈を壊してやる!)
「レギンいくぞ! 『己力投写』!」
「我が腕は『投擲機』!」
左右からの同時投擲。
父さんは一瞥すらせずに、それを木剣でたたき落とした。
そこへムンゴが肉薄する。
「オオォォ!」
鋼鉄の強度を乗せ、ムンゴが全力で体当たりをかますが──
「硬くなれるのか。悪くはないが、軽いな」
父さんは微動だにしていない。
ドガッ!
父さんが軽く蹴りを繰り出した。
それだけでムンゴは大きく吹き飛んでしまう。
「うお!?」
「きゃあ!」
狙ったのだろう、吹き飛んだムンゴは後方のグルーとラロへ直撃した。
「我は『狩猟豹』!」
レギンが目にも留まらぬ速度で迫り、細剣を繰り出す。
「なかなか速いじゃないか!」
褒めてはいるが、かすりもしていない。
振るった細剣はいなされ、突きは最小限の動きで躱されている。
「『己力投写』!」
その父さんの死角から、俺は強襲を狙う。
「甘いぞバル!」
振り返りざまに迎え撃とうとした父さんの顔が、ようやく驚愕に染まった。
死角は背後ではなく、上空だ。
「らぁッ!」
空中からの強襲だったが、即座に木剣で防がれてしまう。
同時にレギンの細剣も、父さんの左手に掴まれていた。
「俺も前に出るぜ!」
体勢を立て直したグルーとムンゴが前線へと戻る。
すかさず後方のラロが杖を掲げ。
「『是正宣光』!」
眩い光が父さんの顔を包み込み、視界を奪う。
だが父さんの動きに焦りは感じない。
「残響傷『牙』!」
『牙』で動きを封じ、大剣とムンゴの体当たりで体勢を崩しにかかる。
猛獣の牙が体にくい込んでいるが、それでも父さんは不敵に口角を上げた。
「みんないい動きだ。これなら、技量の果てに至る境地を見せてもいいな」
呟きと共に、父さんの体から能力の輝きが消失した。
(能力を解除した!? なぜそんな自殺行為を──)
疑問を抱いたのも束の間、腹に衝撃と痛みが走り、俺の思考が飛んだ。
「かはッ──!?」
肺の空気が押し出され、地面に手をつく。
明滅する視界の中、朝食を吐き出しながらも必死に周囲を見回す。
「手加減したんだがな……これで倒れるのは少しガッカリだぞ。鍛え方が足りてないな」
見れば、グルーもレギンもムンゴも地面に這いつくばっている。
そして父さんは、いつの間にかラロの背後に立っていた。
木剣をコツンとラロの頭に当てる。
「父さんの勝ちだな。それぞれ改善点はあるが、素晴らしい実力だったぞ」
見ることも、理解することもできなかった攻撃。
圧倒的な実力差を前に、褒められても喜びはなかった。
「あ、あの……今のはいったい?」
「学園に使う者はいないのか? それなら説明してやるか」
全員、這いつくばったまま耳を傾ける。
「お前達、能力を強めることばかり考えていないか? それは悪いことじゃないが、それだけでは消費が激しいだろう」
グルー、レギン、ムンゴの三人が図星を突かれた顔をする。
三人とも新しい技の体力消費に悩んでいたのを俺は思い出す。
「能力を強めると、体から放たれる光も強くなるだろ。あれはな、魂の力が漏れ出たものなんだ」
「魂の……力……」
「俺の師はこれを『魄力』と呼んでいた。どれだけ『魄力』を高めても、能力に効率よく注ぎ込めなければ無駄が多すぎるだよ」
漏れ出る無駄を削ぎ落とし、全ての『魄力』を能力へ注ぎ込む。
そうすれば消費は激減し、さらには効力は増すということらしい。
「体から光が消えたのは……能力を解除したんじゃなくて、漏れ出す力が一切なかったからなのか……」
「正解だバル。お前達、次はこれを目指してみろ」
近づけたかと思ったが、父さんはまだ遥か高みにいたみたいだ。
悔しさと嬉しさが胸で渦巻く。
「今日はこれで終わりだ、俺は森に獲物を狩ってくる。またな」
息一つ切らさず、父さんはそのまま森へ狩りに出かけた。
全員でかかっても、息一つ乱せなかったのか。
「み、みんな大丈夫? いま回復するね!」
ラロの温かな光が、腹の痛みを急速に消し去っていく。
「な、なんなのだ……! バルよ、貴公の父は何者だ!?」
「強すぎますよ! 学園の先生達より強くないですか?」
ラロが回復する中、レギンとムンゴは騒ぎ立てた。
「クソ強えって言ってただろ。驚きすぎだぜお前ら」
「でも魄力のことは初めて聞いたな。正直、俺も驚いてるよ。いまだに実力の底が見えないなんて……」
だが誰も諦めてはいない。
すぐに戦いの反省点を話し合い、作戦を練り直す。
「あの魄力ってやつができれば、もう少し善戦できるんじゃねえか?」
「一朝一夕で身につくものではあるまい。明日の戦いには間に合わぬだろうな」
「力も速さも規格外でしたね……追い詰めても、またあれをされたら防げませんよ」
「ムンゴの『鉄・鉄』で動きを拘束できれば隙は作れそうだが、そこまで持っていくのが難しいか……」
話し合う中、珍しくラロは意見を出さずに真剣な顔で考え込んでいた。
そして、おずおずと手を挙げる。
「あ、あのね……もしかしたらだけど……お父さんに勝てるかも……」




