表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ディグニティ・ストライド  作者: 果報寝待


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/96

第78話 故郷と同じ屋根


 馬車から降り立つと、目の前には我が家と懐かしい顔ぶれが並んでいる。

 事前に手紙で帰省の連絡を入れておいたため、総出で出迎えてくれたようだ。

 ただ手紙を出した後にレギンの同行が決まったため、豪奢ごうしゃな馬車には目を丸くして驚いている。

 

「兄ちゃん、おかえり!」

 


 懐かしい村の匂いを吸い込んでいると、俺のもとに真っ先に飛び込んできたのは、記憶よりも大きくなっていた弟のローゾだった。

 学園に入ってからはほとんど会えていないというのに、顔を忘れることも人見知りすることもなく抱きついてきてくれる。

 愛らしさに胸が温かくなり「ただいま、ローゾ。元気にしてたか?」と頭を撫でまわす。

 

「ひさしぶりだな! ポラ、お前も元気にしてたか?」

「うん、お兄ちゃんもお帰りなさい!」

 

 グルーも、妹のポラとの再会を喜んでいる。

 そんな俺達の横で、一人ガチガチに震えて緊張しているのはラロだ。

 

「あっ、あああ、あのっ! ら、ラロ・シュリー・クジシフと申しますっ! あ、あのっ、バルさんにはいつも大変お世話になっておりま──!」

 

 極限きょくげんの緊張からか無駄に大きな声を出してしまい、さらに言葉にも詰まっている、その恥ずかしさで顔を赤くしていくラロ。

 ラロの挨拶が盛大に空回りして終わったタイミングで、今度はレギンが堂々と一歩前に出た。

 

「我が名はレギン・ヘシマ・アヴァディス・キファルメ! キファルメ公爵家が嫡男ちゃくなんである!」

 

 その家名が響き渡ると、父さんや母さんだけでなく、幼馴染のエマとアラン、そして遠巻きにこちらを覗き見ていた村人達がざわついた。

 この国においてキファルメとは、国王と教会の最高指導者である至聖代言者しせいだいげんしゃに次ぐ権力をほこる名だ。

 国のすみにある小さな村であっても、その名を知らぬ者などいない。

 誰もが恐怖と困惑に顔を強張こわばらせ、その場に膝をつこうとした時だった。

 

「……と、やはりこの名乗りは大袈裟おおげさだったな。許して欲しい。此度こたびは一人の友人として、無理にバルの帰省に同行させてもらったのだ。日頃より彼には支えられている。そのご家族と友人に、こうして挨拶ができたことを光栄に思うよ」

 

 張り詰めていた緊張と恐怖は、今度は驚きへと変わった。

 レギンは気さくな笑みを浮かべて言葉を続ける。

 

「我らは身分など超え、信頼で結ばれた仲だ。どうか家名など気に留めず、ただのバルの友人として気兼ねなく接してもらえると幸いだ」

 

 全員が口を開けて固まる中、沈黙を破ったのは俺の両親だった。

 父さんと母さんが、同時に声を上げて笑い出したのだ。

 

「ははは! そうか、それなら遠慮なくそうさせてもらおうレギン君。君も今日は、我々を本当の家族だと思ってくつろいでくれ」

「ふふ、そうねえ。なんだか急に子どもが増えたみたいで嬉しいわあ」

 

 両親の態度を見て、村人達にも安堵あんどの空気が広がっていく。

 今回レギンは、普通の友人宅への泊まりを楽しみにしていた。

 父さん達が萎縮いしゅくしたりせずに良かったと、胸を撫で下ろす。

 

「あ、僕はムンゴ・ダーウットです。お世話になります……」

 

 続いて、ムンゴが至って普通の挨拶をした。

 

(順番を間違えたな……ムンゴを先に紹介すべきだったか……)

 

 ラロとレギンの強烈な挨拶の後は、ムンゴにとってハードルが高すぎた。

 普通の挨拶で構わないというのに、ムンゴはなんだか申し訳なさそうな顔だ。

 

「それじゃあ、まずは荷物を運びましょうか。これだけ大荷物だと大変そうね!」

 

 母さんが腕をまくり上げて荷運びを手伝おうとしたが、すっと差し出されたしわがれた手によってさえぎられる。

 

「奥様、お手をわずらわせるまでもございません。……お前達、手早くかつ丁寧に荷物を運び込むぞ」

 

 声をかけたのは、キファルメ家の執事長。

 年輪を刻んだ渋い顔立ちに、白髪を後ろで結んだその老紳士は、執事やメイド達へ指示を飛ばし始める。

 荷物運びは任せ、俺達は家の扉をくぐった。


 

 ----------



 賑やかな夕食も終わり、すっかり日が沈んだ時間。

 俺とグルーに加え、レギンにムンゴ、さらには父さんも同じ部屋に集まっていた。

 元々は俺一人の部屋だったので、男が五人も集まればかなりの密度だ。

 夫婦の寝室を女性陣に譲ったため、行き場を失った父さんもここに一緒に寝ることになった。

 

「なんだか兵舎時代を思い出すな。こうして寝台を寄せ合って窮屈きゅうくつに寝るのも、今となってはそう悪くないと思えるものだ」

「えっ……父さん、元々は兵士だったの!?」

 

 思わず起き上がって聞き返してしまった。

 父さんも母さんも、なぜか自分達の過去を語りたがらない。

 聞いてもはぐらかされるため、兵舎で暮らしていたなんて初めて聞いた。

 

「ああ、昔すこしな。……それよりレギン君、狭い寝床で本当に大丈夫か? もし無理そうなら、君の使用人が言っていたように村の宿へ行ってもいいんだぞ」

「いやいや、とんでもない! こうして皆と寝台を並べるなど、初めての経験……こんなに楽しいことをわざわざ捨てはしませぬよ!」

 

 夕食の時もそうだったが、レギンは心底楽しそうにしている。

 俺からすれば見慣れた村と家でしかないが、貴族育ちのレギンにとっては、新鮮で楽しいものなんだろう。

 

「へえ、お貴族様ってのは一人で寝るのか。そりゃあ寂しそうだな。つーかレギン、お前って兄弟いんのか?」

 

 グルーが、寝転がったまま疑問を投げかけた。

 言われてみれば、レギンの家庭環境はほとんど聞いたことがなかったな。

 

「うむ。少々ややこしいのだが、いるぞ。側室──第二、第三婦人に、腹違いの兄が一人ずつな。そして我と同じ正妻の母から産まれた実の弟が一人だ」

「それは……なんだかドロドロしていそうですね……」

「母ちゃんが何人もいんのかよ!? そりゃすげえや」

 

 想像を働かせるムンゴと驚くグルー。

 レギンは苦笑交じりに話を続けた。

 

「元々は年長である兄のどちらかを跡取りにする、という話で進んでいたのだがな。……あまり身内の不名誉を言いたくはないが、いかんせん二人とも出来が悪くてな。そこで、正妻の長男である我を次期公爵として正式に据えるべく、今は箔をつけるための功績作りの真っ最中なのだよ」

 

 レギンの話によると、実力主義の学園に通っているのも、その功績作りの一環らしい。

 学園を優秀な成績で卒業し、さらには迷宮を制覇して冒険者としての名声を上げる。

 そうして領民にも分かりやすい成果を作り、周囲の支持を盤石ばんじゃくにしていくのだという。 

 元々キファルメ家は、一人の英雄から連なる一族であるため、高い戦闘力を求められるみたいだ。

 

「なるほどな。それなら、これからもっと派手な戦果を上げないといけないわけだ」

「だったらよ、いっそのこと龍でも狩っちまうか! 龍殺しの領主なんて、誰も文句は言えねえだろ!」

「それはいいですね! いまからどの龍種を狙うか、考えておきませんとね!」

「祖先と同じ偉業か……悪くないな! 中級迷宮を制覇した暁には、皆で龍狩りと行こうではないか!」

 

 まだ見ぬ遠い夢を語り合う俺達の姿を、父さんは温かい目で見守っていた。

 

「龍狩りとはいい目標だ。男児たるもの、それくらい夢は大きくなくてはな。よし、龍を相手にしても遅れをとらないよう、明後日からはみっちりと鍛えてやる」

「おお! 噂に聞く父上殿の実力……非常に楽しみですぞ!」

「ぜひ、バルさんをここまで強くした訓練の内容を教えて欲しいです!」

 

 目を輝かせるレギンとムンゴとは対照的に、俺とグルーは顔を引き攣らせた。

 

(今回は回復ができるラロがいるからな……手足が折れるくらいは覚悟しておくか……)

 

 苛烈な訓練になりそうだが、一年前より強くなった俺達を見せて父さんを驚かせてみせる。

 そんな覚悟を決めながら、俺は目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ