閑話 街角のひととき
昼過ぎの国都。
バビは弾むような足取りで、活気溢れる街道を歩いていた。
日課となっている、危機予知に反応する者がいないか探すための巡回を兼ねた散歩だ。
そんな散策の最中、バビの視界に見覚えのある姿が映り込んだ。
後ろで一つに結んだ栗色の髪をゆらす、小柄で細身の体。
どこかおどおどした、見るからに気弱そうな雰囲気の少女。
並ぶ路面店で熱心に何かを探しているその背後へ、バビは足音を消してこっそりと忍び寄った。
「こんにちはラロちゃん! 何を探しているの?」
「ひゃあっ!? あ、ば、バビさん……」
予想以上に跳ね上がって驚いたラロに、バビは「あはは!」と鈴を転がすような声で笑った。
ラロは過剰な反応をしてしまったことに恥ずかしがり、縮こまってしまう。
ラロはバビの実力を尊敬し信頼もしていたが、実は苦手意識も持っていた。
原因は最初の出会い。
幼児退行していた彼女がバルに甘える姿と、それに嫉妬して大慌てした己の黒歴史を思い出して、今でも悶絶しそうになるのだ。
「それで今日はお買い物? 探し物があるなら、私が手伝ってあげるよ!」
「あ、あの……その、みんなへの贈り物を探してて……」
チームの全員が無事に進級できそうだということで、ラロは何か記念になるような物をプレゼントしたいと考えていた。
だがこれといった物が見つからず、一人で悩んでいたところだ。
「なるほどなるほど。そういうことなら任せなさい! 私の予測演算を使えば、贈り物を選ぶなんて造作もないことだから」
「え、えっと……本当にいいんですか……?」
バビが日頃から人々を救うための救済活動をしていることを、ラロはバルから聞いていた。
戦闘や人助けの推理にこそ使われるべき力を、自分の雑事に付き合わせてしまってもいいのだろうか。
ラロは申し訳なさそうに目を泳がせる。
「もちろん! 人助けっていうのは、小さなことから始めるものだからね。じゃあさっそく、私の『天理機巧』に聞いてみるね」
バビはそう言って微笑むと、目を瞑って自身の能力へ集中しはじめた。
(やっぱり凄くいい人だなぁ……裏表がなくて、真っ直ぐで……それなのに、いつまでも気にしてる自分が恥ずかしいや)
ラロが内心で考えを改めていると、バビの超高速演算が完了したようだった。
「うん……よし! ピッタリの品が決まったから、私についてきて!」
「わ、わかりました!」
バビに先導され、案内されたのは少し奥まった場所にある革工房だった。
店内には、なめした革特有の独特な匂いが満ちている。
この店で一体何を選ぶのだろうとラロは疑問を抱いた、バビは迷いない足取りで店の一角へと進んでいく。
「ここ、私のお気に入りの店なんだけど。みんなへの贈り物はこれなんてどうかな?」
バビが足を止めた棚、そこに並んでいるのは革水筒だった。
様々な形状や素材に色合いのものが揃っているが、なぜこれがチームの全員にピッタリの贈り物だと計算されたのか、ラロにはピンとこない。
「ほら、君達のチームってみんな実利主義なところがあるじゃない? それに『天理機巧』の演算によるとね……みんなの使っているやつ、そろそろ寿命で壊れるってさ」
「あ……たしかに……!」
言われてみれば、自分達が日頃から使っている革水筒は、ずっと使い古している物だ。
浄化で綺麗な状態ではあるが、そろそろ経年劣化で水漏れを起こしてもおかしくない時期だった。
たった一度、迷宮を共にした時に目にした自分達の装備の消耗具合を記憶し、そこから破損時期まで計算してみせたのかと、ラロは感嘆した。
「さあ、一緒に選ぼうか! みんなの好みなんかは、毎日一緒にいるラロちゃんのほうがずっと詳しいはずだからね」
「は、はい!」
こうして二人で選んだ革水筒は、皆から大好評だった。
バビの行きつけの職人店だけあって、頑丈な作りをしているだけでなく、中の水に革の臭いや味が移らないと喜んでくれた。
この一件をきっかけに、ラロとバビは二人で食事に出かけたり買い物に行ったりして、急速にその仲を深めていった。
気がつけばラロの心の中にあった苦手意識など、すっかり綺麗に消え去っていたのだった。




