第76話 志す先へ
国都・南門前
ある者は希望を胸に旅立ち、ある者は別れに涙し、ある者は懐かしい故郷へ帰る。
そんな馬車乗り場の喧騒の中、俺達はチーム全員で集まっていた。
国都を旅立つバビさんを見送るためだ。
二つ星としての授業や試験がすべて終わり、学園は一ヶ月ほどの進級休みに入る。
バビさんはあらかじめ必要な手続きを済ませており、今日国都を発つ。
「バビさん、短い間でしたがありがとうございました。またいつか手合わせをお願いします」
チームに加入しなかったバビさんだが、あの後も何度か訓練をしたり食事に行ったりして仲を深めてきた。
友人であり仲間でもあるバビさんへ、みんなも口々に別れの言葉を交わしていく。
そんなしめっぽい空気の中で、バビさんはさらに顔を曇らせた。
「みんな……最後にもう一度言うけど……やっぱり、学園も冒険者も辞める気はないの?」
「はい。みんなで何度も話し合ったんですが……やっぱり、俺達の答えは変わりませんでした」
バビさんの能力『天理機巧』は予測演算だけではなく、漠然とした危機の予知という力もある。
あの迷宮から帰還した後の打ち上げの席で、バビさんはなぜ俺に学園を辞めて欲しかったのか聞いた。
帰ってきた答えは、俺達チームの全員に、数年以内に死の危機が訪れるというものだ。
そしてその破滅の予兆は、俺に最も強くまとわりついているのだという。
「べつによ、絶対に死ぬって決まってるわけじゃねえんだろ? だったら俺達の力で跳ね除けてやるぜ!」
「危機があってこそ、英雄は生まれるというもの……! 我が訪れる厄災から皆を救ってみせるさ!」
「私も、絶対にみんなを死なせたりしません。だから安心してください、バビさん!」
「僕もいままで以上に鍛えるつもりです。どんな攻撃が来ようと、守りきってみせますよ!」
「私もいるんだ。この子達の手綱はしっかり握っておくから、そんなに心配そうな顔しなくても大丈夫だよ、バビちゃん」
訪れる危機は強大な魔物の襲来なのか、大きな事件に巻き込まれるのか、あるいは邪人と戦うことになのかは分からない。
けれど、俺達がその災禍から逃れるために冒険者を辞めて平穏に生きようとしたところで、その危機自体が世界から消え去る保証はどこにもないのだ。
それどころか逃げ出したせいで、別の誰かにそのしわ寄せがいってしまう可能性だってある。
だから俺達は逃げない。
どんな運命が待ち受けていようと、全員で正面から乗り越えるつもりだ。
「ふふ。危機の予知を聞かされて、そんなに堂々としてるのはみんなが初めてだよ……。分かったわ、もし私の力が欲しくなったらいつでも呼んで! どこにいたって、すぐに駆けつけるから!」
「ありがとうございます。バビさんも、俺達の力が必要になったら言ってください。それが邪人討伐であっても、俺達は助力するつもりですから!」
やがてバビさんを乗せた馬車が、国都の南門をくぐって小さくなっていく。
しばしの別れ。
だが永遠の別れではないことを、全員が確信していた。
俺達もいつか世界を旅するようになれば、またどこかの街や迷宮で再会することだってあるはずだ。
その時に、桁違いに成長した姿を見せてみせる。
そんな思いを胸に、学園へ足を進めた。




