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ディグニティ・ストライド  作者: 果報寝待


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第75話 道は違えど


 中級迷宮・第九階層


 魔鹿まろく『ビジュリーディア』を筆頭ひっとうに、『ウンガリーベア』や『ダードウルフ』の群れ。

 侵入者をまどわせる樹海。

 立ちはだかるすべてを、バビさんはものともしなかった。

 俺達はたったの三日間という驚異的な速度で七、八、九階層を突破し、十階層へ続く下り階段の前へと到達した。

 

「いやほんと凄すぎるぜバビさん! 魔鹿だけじゃなくて、ウンガリーベアも一人で狩っちまうなんてよ」

「こ、ここまで一度も迷わなかったのも信じられないよ……道なんて無いのに、まっすぐ目的地に歩けるんだもん」

 

 探索終わりの休息中、称賛しょうさんの言葉にバビさんはふんぞり返って満足そうな笑みを浮かべている。

 特にレギンは、彼女の剣術について聞き入っていた。

 

「そういえばさ、助手くん。私を迷宮探索に誘った本当の理由ってなに?」

 

 唐突に投げかけられた問い。

 バビさんの顔は真剣なものに変わっており、俺は装備を点検していた手を止めた。

 

「それは……森林地帯の攻略にバビさんの能力がぴったりだと思ったからで──」

「そういう建前はもういいよ。助手くんの本意をちゃんと聞かせてほしいな」

 

 俺の誤魔化しを見透かしているような眼差しだ。

 もしかしたら最初から意図を察した上で、俺自身の口から聞きたいのかもしれない。

 

「バビさんに……俺達の冒険を知って欲しかったんです」

 

 バビさんだって、学園の生徒として迷宮を攻略してきている。

 卒業と進級の条件である初級迷宮の踏破とうはだって、俺達より先に成し遂げていた。

 

 以前事件の解決を手伝うかたわら、どんな風に迷宮を攻略してきたのかを聞く機会があった。

 だがそれは、淡々とした義務ぎむ遂行すいこうのようだった。

 無駄と寄り道を徹底的に排除し、ただただ効率的に最短での攻略を目指す。

 そこに集ったチームも、仲間というよりは、利害関係で結ばれた協力者といった距離感に聞こえた。

 

「やり方を否定するつもりはないんです。仕事としては正しいんでしょうし、一つの正解だと思います。だけど……」

「遊び心が無い……って言いたいんだね?」

 

 俺は頷いた。

 ただ目的地を目指すだけじゃない。

 寄り道をした先で思いがけない発見をした時の驚きや、例え手痛い目をみたとしてもそれすら笑い合える楽しさ。

 そして困難を乗り越えて達成した時には、心の底から喜びを分かち合う。

 傍から見たら無駄だらけに見える時間かもしれない。

 けれど俺は、それこそが何より楽しいのだと知っている。 

 そんな俺達のやり方に触れて欲しかった。

 

「うん……確かにこの三日間の探索は、これまでの迷宮よりも楽しかったよ。次の日の探索が待ち遠しいなんて思っちゃったもん」

「へへっ、それならよかったぜ!」

 

 チームの全員が、この短い期間でバビさんとの信頼関係を築いていた。

 彼女の実力も人柄も、誰も文句はないだろう。

 俺は意を決して本題を切り出した。

 

「バビさん……もしよかったら、俺達のチームに加入してくれませんか?」

 

 ラロやレギン達も期待に満ちた目をバビさんへと向ける。

 だがバビさんは、ただ悲しげに首を横に降った。

 

「ごめんねみんな……それはできないよ」

「……理由を聞かせてもらえますか?」

「正直に言うとね、君達に加われたらすごく楽しそうだなって思うよ。でもね……私の生き方は復讐だから」

 

 復讐。

 その言葉に皆が言葉を失った。

 バビさんが幼児退行を起こしていた時、なぜ俺を弟扱いするのか尋ねたことがある。

 彼女は昨夜見た悪い夢を語るかのように過去を話した。

 故郷こきょうを邪人に奪われたというその悲劇を、全員が聞いている。

 

「復讐……邪人に対してですか?」

「そうだね。もちろん仇討あだうちも目標だけど……一番は世界に対する憤り、かな」

 

 バビさんの顔に影が落ちる。

 

「罪もない人が理不尽りふじんい、悲劇が許容きょようされるこの世界に、そんな運命壊してやるって……それが不可能な夢物語なのは分かってる。だけどね、私はそう生きるって誓ったんだ」

 

 言葉にこもる決意を前に、誰も否定を口にすることなんて出来なかった。

 その道がどれほど険しく孤独こどくいばらの道であるかは想像に難くない。

 達成できない目標を掲げて進む生き方は責め苦と同じだ。

 

「私は学園を二つ星の階級で卒業したら、また旅に出るつもり。世界中の悲劇を壊しながら、あの邪人を探すためにね。だから……私は君達のチームに入れないんだ」

 

 その旅路たびじの果てに、何が待っているというのだろう。

 どこかで理不尽な事件に巻き込まれて命を落とすか、国をも滅ぼすという邪人に挑んで散るか。

 彼女の未来に平穏な死が待っているとは思えなかった。 

 暗い空気を流す俺達を見て、バビさんはいつもの笑みを作る。

  

「ほらほら、そんな暗い顔しないでよ! 別に今生の別れじゃないんだからさ。私もたまにはこの国に戻ってくるつもりだし……その時は、またこうして楽しい冒険に連れ出してくれる?」


 俺も精一杯の笑みを作り、言葉を返す。

 

「もちろんですバビさん。その時は、また一緒に冒険へ行きましょう」

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