第8話 芽吹く繋がり
学園での講義はそのほとんどが母さんから教わったことの復習だった。
魔物の生態、薬草の識別、そして世界の成り立ちを説く神話。
「そうして善神であるデヴァワン様は人と獣を慈しみ、邪神は混沌より魔物を──」
「もっとダンジョンで戦う物だと思ってたのになぁ」
「もうすぐ森で魔物を狩る演習がはじまるって。我慢しなよ」
「つまんねぇよこんな授業ー」
グルーは最近ほとんど授業を聞いていない。
その声が聞こえた先生にまた怒られる。
ピンクの短髪の男。
ササ・グラービ先生だ。
グルーはよく授業をサボり怒られている。
「バル君、グルー君にもっと注意して下さい」
何故かいつも俺も一緒に怒られる。
とばっちりだ。
世の中の理不尽さを噛み締めながら俺は苦笑いするしかなかった。
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数日後。
ついに実戦演習の日がやってきた。
場所は国都近くの広大な森。
クラス一とクラス二の生徒が全員いてかなりの人数だ。
それぞれの革鎧や武器は学園から支給された物だ。
自費でもっといい装備をしている者もいるが。
俺は腰に付けているバッグに手頃な大きさの石や飲み水を詰め、自前の片手剣に刃こぼれがないか確認する。
カリーはお留守番だ。
準備をしていると先生が声を上げる。
「では、三人以上七人以下でチームを作ってもらいます!」
突然チームを作れと言われてみんなが慌てる。
全員で固まって動くと思っていたからだ。
おそらく、兵や冒険者にはコミュニケーション能力も大事だからだろう。
「系統ごとに、バランスよく組んでくださいね!」
能力には六つの分類がある。
何かを強くする増幅系、俺の己力投写はこれだ。
火や氷などを操る超常系。
回復や浄化、植物の成長などの祝福系。
呪いや減衰、精神を操る呪詛系。
特殊な物を出したり作ったり出来る生成系。
どれにも当てはまらない物や分類が難しい物は外典系と呼ばれる。
攻撃能力ばかりで組むなと先生は言っているのだろう。
「おいバル組もうぜ」
「ああ、もちろんだよグルー」
これで最低でもあと一人だが。
みんながグルーを怖がり目を合わせてくれない。
グルーはその見た目と授業態度から不良のレッテルを貼られていた。
優しい男なんだけどなあ。
誰か組んでくれる人が居ないか探していた俺達の耳に喧騒が聞こえてくる。
「で、でも......組んでくれるって」
「あーごめんねえ? 七人超えちゃってさー」
「わ、私の方が先に……」
どうやら組む組まないで争っているらしい。
ちょうどいいと思いグルーと一緒に向かう。
「やあ! 組まないなら良かったら俺達とチームにならないか?」
俺はそう声をかける。
栗色の髪を後ろでまとめ、長い前髪で片目を隠しているオドオドした女の子は、俺達のことを救世主かのように見てきた。
「やめときなって。その子ぜんぜん使えないから」
追い出したであろう女子の一人が余計な口を挟んでくる。
俺の中で不快感が走る。
「性格の悪い女よりは百倍マシだろ」
グルーがそう言うと女達が騒ぎ出す。
俺の怒りはおかげで収まったが。
「は? マジでうざいんだけど」
「なんなのあんた!先生に言うわよ!」
「あぁ?」
騒ぎ出した女の子達は、グルーが少し睨んだだけで黙って目を逸らした。
「君たち! 女性に乱暴するのはこのレギン・へシマ・アヴァディス・キファルメが許さんぞ!」
どこからともなく、金髪を光らせたレギンが割って入ってきた。
「......いや、彼女をチームに誘っただけなんだけど」
どうやらレギンがこのチームのリーダーらしい。
女の子ばかりで男はレギンの他には一人だけだ。
まるでお茶会だが、こんなチームで戦う気なのか?
「そうか七人を超えてしまったのか……安心してくれ! 先生に言って八人でも組めるように許可を貰ってこよう!」
レギンがそう言うと栗色髪の女の子は困ったように慌て出した。
「え......えっと、チームはこの人達と……」
「そんな粗雑な男達より、我がチームの方が良いぞ? 傷は一つも付けさせないと誓おう!」
「あー、悪いけどもう組んじゃったから。じゃあね」
俺はそう言い栗色髪の子の手をひっぱり歩き出す。
一刻も早く場を離れたかった。
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何はともあれまずは自己紹介からだ。
「俺はバル、能力は増幅系で己力投写って言う。 片手剣と投石、徒手で戦う」
「俺はグルーって呼んでくれ。能力は悪いけど言えねえ、大剣で戦うぜ」
「えっと、私はラロ・シュリー・クジシフです。 能力は祝福系で是正宣光って言います。 回復や浄化、色々できます......」
ラロは俯きながら、自分の能力について話し始めた。
彼女の能力は「祝福系なら何でもできるが、どれも効果が薄い」のだと言う。
「ご、ごめんなさい......深い傷とかは治せなくて......」
俯いているせいで、小柄な体格がさらに小さく見える。
今にも泣き出しそうなラロにグルーが笑いながら肩を叩いた。
「謝ることはねえよ! 俺らみたいな脳筋には神様みてえなもんだ」
「そうだよ。それに最初から完璧な奴なんていないんだ。 これから鍛えればいいんだ」
俺とグルーが笑いかけるとラロの目に小さな光が灯った。
「あ、ありがとうございます! 精一杯頑張ります!」
話しているうちに全員がチームを決めてしまったらしい。
三人チームで行くしかない。
この森には、低級魔物しか生息していないみたいだ。
だが──
このチームで本当に大丈夫なのだろうか?
こうして初めてのチーム戦が始まる。




