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ディグニティ・ストライド  作者: 果報寝待


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第73話 白刃の本領


 学園・談話室

 

 見かねたカリーがたしなめ、ムンゴが止めたことで、ようやく落ち着いた三人から距離を置いて俺は座り直した。

 乱れた服を整えながら、バビさんに視線を向ける。

 

「それでバビさん。俺を探して談話室だんわしつまで来たってことは、何か用事があったんですか?」

「そうだよー。決勝の時に言ってたお願いが何か気になって。もしかしてみだらなことでもお願いするき?」


 「キャー」と騒ぐバビさん。

 皆から疑念ぎねんの目を向けられ、ラロにいたっては震えはじめている。

 俺は慌てて極めて健全な賭けだと説明した。 


「なんだよ、ただの勝負の賭けか。それなら俺とレギンだって賭けしてたぜ」

「うむ。バルには報告が遅れてしまったが、チームのサブリーダーはグルーに決まったのだ」

 

 俺にとっては寝耳に水な話だったが、実力の高いグルーがサブリーダーになるというのに文句はない。

 俺が納得していると、ラロが少し涙目で話を戻してきた。

 

「そ、それでバル君。バビさんへのお願いというのは何を頼むんですか……?」

「ああ、それはな──」



 ----------

 


 中級迷宮・第七階層

 

 鬱蒼うっそうと生い茂る巨木の隙間から、わずかな木漏れ日が射し込んでいる。

 ひんやりとした風が吹き抜けるたびに、枝葉がザワザワと揺れる。

 濃い緑と腐葉土ふようどの香りが広がる森林地帯しんりんちたい

 俺達五人と、幼児退行から回復したバビさんを加えた六人のパーティが警戒けいかいを怠らずに歩いていた。

 

「お願いが一緒にダンジョン攻略だなんてね……そんなの、普通に頼んでくれたら付き合ってあげたのに。いまからでもみだらなお願いに変更しちゃう?」

「しません! この森林の攻略を手伝ってもらえれば、俺達にとっては大助かりなんですよ」

 

 隊列の先頭を歩くバビさんが、周囲を警戒けいかいしながらもいつもの調子で口を開く。

 岩石地帯がんせきちたいの第四から第六階層を突破した俺達は、続く第七階層の森林地帯しんりんちたいに足を踏み入れた。

 だが主に二つの理由から攻略がとどこおっていた。

 

 一つ目は、見渡しても同じような景色が続くため、地図があっても迷いやすいこと。

 そして二つ目は、単純に出現する魔物が強いことだ。

 そのせいで何度も七階層からは撤退てったいしている。

 

「まあ、お姉ちゃんに任せなさい! 演算能力があればルートに迷うこともないし、私は大抵の魔物に苦戦することもないからね!」

 

 ふふん、と誇らしげに胸を張るバビさん。


 冒険中のバビさんが身にまとっている装備は、素人目に見ても逸品であることが一目で分かった。

 所々が金属で補強ほきょうされている純白の革鎧。

 腰のベルトには金の装飾がほどこされた細剣と、暗緑色あんりょくしょくの妖しい光沢のナイフが三本。

 

「しかし……本当に素晴らしい装備だな。バビ殿、それはどこの名工が鍛えた逸品なのだ?」

「これ? これはね、私がひとり立ちする時に師匠がプレゼントしてくれたものなんだよ」

 

 バビさんの解説によると、革鎧は白い魔牛の皮を特殊な手法でなめしたもので、下手な金属鎧よりも頑丈なのだという。

 そして何よりも自慢なのは腰に差した武器だという。

 

「この細剣もナイフも魔道具なんだよ。具体的な性能は……魔物に出会った時に見せてあげるね!」

 

 魔道具、それは錬金術や魔物の素材から造られる特殊な機能がある物の総称そうしょうだ。

 火起こしや消臭といった一般的なものから、対魔物用の爆発水晶や固有機能がある高級武具まで多岐たきにわたる。

 武器の魔道具ともなれば、ほんの些細ささいな機能でも目が飛び出るような金額だ。

 

(それを弟子にプレゼントするなんて……バビさんの師匠って何者なんだ……?)

 

「というか、君達の装備も凄いよね。欠損けっそんが自然に修復するなんて、防具としてはこれ以上ないくらい最高の機能だよ。どこで手に入れたの?」

「へへっ、まあな!」

 

 グルーをはじめ、褒められた仲間達が嬉しそうに胸を張る。

 どんなに優れた武具であっても戦いを繰り返せば傷も増え、すり減り、いつかは使えなくなってしまう。

 その点、俺達の黒エイ製武具は半永久的に使える。

 黒いエイとの戦いを話していた時。

 

 ──ガサッ


 前方のしげみが大きく揺れた。

 ぬっと姿を現したのは、三メートルはある巨大な魔鹿まろく『ビジュリーディア』。

 

 全身をあおい体毛に覆われているが、頭部の巨大な枝角だけは真っ黒に染まっている。

 その黒い角には、バチバチと青白い光がはしっていた。

 

「ビジュリーディアだよ! 全員距離をとりな!」

 

 カリーの警告を受けて後方に飛び退いた後、魔鹿まろくの周囲が弾けた。


 ドガァッ!


 轟きと共に地面の土が飛び散り、焦げた匂いがただう。

 これが『ビジュリーディア』の恐ろしい点、角から放たれる放電攻撃だ。

 俺達はこの魔鹿まろくに何度も撤退を余儀よぎなくされている。

  

「バビさん! ここはいったん引きま──」

「君達は下がってて。私の本気……見せてあげるから」


 俺達の静止を無視して、バビさんは悠然ゆうぜん魔鹿まろくへ歩みを進めていく。

 

「どうするバル。バビさんはあいつに一人で勝てるのか?」

「分からない……だけどいつでも加勢できるよう、全員準備だけはしておいてくれ!」

 

 バビさんが一流の戦士であることは疑うべくもない。

 だが俺は対人戦のバビさんしか知らない、対魔物はどうなのか。

 演算能力は強力だが、サポートや後方からの指示に向いた能力のはずだ。

 魔物の体は分厚い皮と頑強な筋肉で守られている。

 それを突破して命を絶つ決定打を持っているのか、放電をどうするつもりなのか。

 

 カチャ……

 

 俺の危惧をよそに、バビさんは腰の白剣へ指先を添えた。

 彼女の顔には深い笑みが浮かんでいる。

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