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ディグニティ・ストライド  作者: 果報寝待


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第62話 相打つ気迫、技を重ね


 シハラの剣を受け止めた手は痛みで疼いていた。

 触れた瞬間に能力を込めて勢いを殺す。

 理屈は簡単だが実戦で使いこなすにはまだ未熟ということだ。

 

 ラロに痛みを癒してもらい、俺は待合室へと戻った。

 室内には、初戦を突破して安堵する者とこれから始まる試合を集中する者が混在している。

 そこにはまだ出番を控えたグルーとレギンの姿もあった。

 

「お、やっぱりバルが勝ったか。シハラには悪ぃが、俺はお前が上がってくる方に賭けてたぜ」

「我と当たる前に負けられては困るぞ。バルに見せたい新技があるのだ!」

 

 俺に気づいた二人がいつも通りの調子で声をかけてくる。

 俺がシハラとの試合を短く話していると、次の試合を告げる呼び出しが聞こえてきた。

 

「次! レギン君とグルー君、第一訓練所へ来てください!」

 

 その名前に俺は思わず息を呑んだ。

 当の本人達も一瞬だけ目を見開いたが、すぐに何かを覚悟したように見つめ合う。

 二人は無言のまま試合場へと歩き出した。

 

(一年前はグルーの完敗だった。けど……今はどっちが上なんだ?)

 

 どちらが勝ち上がってきても、優勝への壁になることは間違いない。

 飛び出して試合をこの目に焼き付けたいところだが、俺はぐっと踏みとどまった。

 雑念を払い次の戦いに向けて意識を内側へと沈めていく。

 

 ---------

 

 試合場の真ん中で、二人は対峙している。

 

「……まさか、一回戦からお前と当たるとはな」

「全く数奇な巡り合わせだ。……グルーよ、例の約束は忘れておらぬな?」

 

 実は二人はバルに秘密である賭けをしていた。

 それは、チームのサブリーダーを誰にするかというものだ。

 ラロもムンゴも荷が重いと辞退していて、バルやチームを支える役をどちらが担うかで二人は譲らなかった。

 そこで出した結論が、模擬戦大会で順位が高かった方をサブリーダーにという決定だ。

 

「当たり前だ。一年前のようにはいかねえから覚悟しとけや」

「覚悟、か。ならばグルーよ……一つ伝えておく」

 

 レギンが口角を上げ、凍てつくような殺気を放つ。

 

「手足の一本や二本なら、父に頼んで最高の治癒師を呼べる。……我を殺す気で来い、グルーよ!」

「はっ! まさか先に言われちまうとはな。俺からも同じ言葉を返してやるぜ……手足が飛んでも文句なしだ、本気で来いよレギン!」

 

 二人の気迫はもはや模擬戦のそれではない。

 友人に向ける甘さも消えていた。

 今ここで本気の殺し合いが始まる。

 そう錯覚させるほどの重圧に、審判役の神学教師は顔を青くして息を呑んだ。

 

「じゅ、準備はいいですね……! それでは──始め!」


 試合開始の合図と同時。

 先に動いたのはレギンだ。

 

「我は『狩猟豹(しゅりょうひょう)』!」

 

 疾風の如き速さ。

 一年前のグルーには、その姿を捉えることすら叶わなかったレギンの十八番だ。

 だが今のグルーは動じない。

 

残響傷(ざんきょうしょう)──『蟻酸(ぎさん)』!」

 

 アント戦で自らの肉を焼いた強力な酸が具現化し、周囲へとぶち撒けられた。

 

「くっ、この酸は……!」

「お得意の高速戦闘は封じさせてもらったぜ!」

 

 訓練所の地面がシュワシュワと音を立てて溶け、ぬかるみへと変わる。

 腐食した泥の上で無理に加速すれば、足を取られて致命的な隙を晒すことになるだろう。

 

「どんどんいくぜ、レギン! 残響傷(ざんきょうしょう)──『毒蔓(どくつる)』!」

 

 グルーの突き出した手から、鋭い棘を持つ無数の蔓が溢れ出した。

 

「我が腕は『(つるぎ)』!」

 

 レギンは左腕を刃へと変え、細剣との二刀流で迎え撃つ。

 絡みつこうとするつるを次々と切り落としていくが、その物量に押されてたった一箇所だけ──レギンの腕を棘がかすめた。


 傷は浅い。

 戦闘になんら支障はないはずだった。

 

「ぐ、あ!? こ、これは……っ!」

「きついだろ? 分かるぜ、俺も身をもって味わったからな!」

 

 棘が掠めた箇所から、焼けるような激痛がレギンの全身を駆け抜ける。

 

(ど、毒かっ! グルーの具現化は三秒ほどで消えるはず。この痛みは消えぬのか!?)

 

 具現化した毒はもちろん消える。

 だが毒に破壊された組織は回復せず、痛みは残ってしまう。

 激痛に意識が削られた隙を、グルーは見逃さない。

 

残響傷(ざんきょうしょう)──『毒虫(どくちゅう)』!」

 

 次に放たれたのは、本能的な嫌悪感を呼び起こす群れだった。

 はちあり百足ムカデさそり、毛虫。

 それらが蠢きながらレギンに飛びかかる。

 激痛による動揺、そして貴族として温室育ちのレギンが忌避してしまう虫。

 

「──っ!」

 

 レギンは大きく後方へ飛び退いてしまった。


 ドカッ!

 

 背中の硬い感触。

 レギンは自身の失態を悟る。

 グルーの波状攻撃に翻弄され、いつの間にか壁際まで追い詰められていたのだ。

 

「うぉおおりゃあ!!」

 

 退路を断たれたレギンへ、グルーの大剣が振り下ろされる。

 

「我が身は『大盾(おおだて)』!」

 

 ガギィンッ!!

 

 渾身の一撃は、大盾と化したレギンに弾かれる。

 だがグルーの顔から笑みは消えない。

 

(そう来るよな! だがその技の弱点は知ってるぜ! 大盾になってる間は動けねえんだよな!)

 

 盾の防御を崩すべく、グルーが再度大剣を構える。

 さらに『鉄拳』を具現化しようとした──その時。

 

「我は『狩猟豹(しゅりょうひょう)』!」

 

 動けないはずのレギンが、矢のような速さで突進してきた。

 しかしグルーが大剣を叩き込む方が早い。

 自滅覚悟の特攻か。

 グルーがそう思った瞬間、大剣は再びレギンに弾かれた。


 ガキンッ!

 

 目を見開くグルー。

 その胸元にレギンの体当たりが直撃する。

 

「ぐあぁっ!?」

 

 グルーは泥に塗れながら地面を転がった。

 レギンは荒い息を整えながら、倒れた友を悠然と見下ろす。

 

「この我が、大会までリハビリしかしていなかったとでも? 腕が動かせぬ間、我は能力の練磨れんまに全てを捧げた。……これがその成果『能力の併用へいよう』さ!」

 

 誇らしげに胸を張るレギン。

 グルーは泥を拭いながらさらに笑みを深める。

 

「……おもしれぇ。まだまだ特訓の成果を試せそうで安心したぜ、レギン!」

「来いグルー! その成果とやら、全て打ち砕いてやろう!」

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