閑話 ムンゴの研鑽記・一
いつも読んでいただきありがとうございます!
本編ではまだ出番の少ないムンゴですが、今回は彼を主役に日常と戦い、成長のエピソードをお送りします!
3話ほどを予定しています。
ぜひお楽しみください!
ムンゴ・ダーウットの活動は朝早くから始まる。
日の出前、誰に起こされるでもなく自然と目を覚ます。
同居人を起こさぬように寝間着を着替えて外に出る、まずはグルーから直伝されたトレーニングをこなして体を目覚めさせていく。
それが終われば朝の食事だ、学園の食堂で肉を中心にバランスよく、皿から溢れるほどの量を注文する。
「無理にでも食べなきゃ、戦える身体は作られないぞ」
バルからそう教わって以来、どれだけ食欲のない日であっても胃袋に詰め込むようにしている。
午前中の講義も、彼は最前列の席で誰よりも真剣に受講する。
「ムンゴよ。戦闘技術を磨くのは当然だが、知識も大切だぞ。知恵無き者は足元を掬われるからな」
レギンからそう教えられていたからだ。
事実彼の言う通りだ、戦術学や魔物の生態を知ることは生存率に直結する。
そして午前の講義が終われば、午後からは訓練か迷宮探索の時間だ。
この日は近隣の森で実戦訓練を積もうと考えていたムンゴは、教室を見渡して同じ目的のチームを探し始めた。
「あの、すみません! これから近隣の森を探索するチームはいらっしゃいますか? よろしければ臨時として加入させていただけないでしょうか!」
講義の終わりの教室にムンゴの声が響く。
何度もしている声がけだが、何度やっても酷く緊張してしまう。
そんな時はラロから教えてもらった、緊張をほぐすおまじないと深呼吸を意識する。
おかげで最近は、しっかりとハキハキ喋れている気がしていた。
「おうムンゴ! それなら俺のチームに来てくれよ!」
ムンゴの呼びかけに声を返してくれたのは、一人の男子生徒。
尖った金の短髪に、引き締まった細身の体。
これまでに何度か合同で迷宮探索をしたことがある、クラスメイトのウバだった。
「ちょうど今日は、森で狩りする予定だったんだよ。お前がいればめちゃくちゃ心強いぜ!」
「ありがとうございます! 任せてください!」
ムンゴは嬉しそうに胸を張る。
周りのムンゴに対する評価は、あの黒エイとの戦い以降変わっていた。
空飛ぶ黒エイを地上へと墜落させたムンゴの活躍、それを目撃したクラスの生徒が、彼を臨時の前衛としてチームに誘うようになったのだ。
それ以前の、動けなくなる扱いづらい盾役という評価は完全に払拭されている。
「よし、さっそく準備して出発しようぜ!」
「はい! よろしくお願いします!」
バル達の背中を追いかけ、すべての教えを糧にしてムンゴは進み始めていた。
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国都近隣の森・ガフラ森林
森の外縁部には低級の魔物や野生動物しか生息しておらず、多くの駆け出し冒険者や狩人で賑わう比較的安全な森。
ウバのチームとムンゴは、その森の開けた場所で実戦訓練を兼ねた狩りをしていた。
「来るぞ! 変わってくれ、ムンゴ!」
「はい!」
走るウバを追いかける魔物の群れに、ムンゴが立ち塞がる。
飛び込んできたのはふわふわとした茶色の塊。
この森に多く生息するウサギの魔物『マンスーラビット』だ。
愛らしい外見に騙されてはいけない、その本性は凶悪そのもの。
草食にあるまじき鋭利な牙と爪、それもそのはず『マンスーラビット』は肉食だ。
彼らは群れを作り狩りを行い、包囲されればあっという間に骨まで食われる、駆け出し殺しと恐れられている魔物だ。
「洞同体『鉄・木』!」
ムンゴの体と装備が、木目の浮かぶ鈍い金属の光沢へと変貌した。
ガキガキガキッ!!!
『マンスーラビット』が四方八方からムンゴに飛びかかり噛みつく。
だがムンゴも周囲のウバ達も一切慌てる様子はない。
唯一驚愕しているのは、一センチたりとも牙が通らない鉄の体に困惑している『マンスーラビット』達だけだ。
「『飛礫雨弾』!」
数十発もの鋭利な石礫が飛来した。
ガガガガッ! と、ムンゴにしがみついていたウサギ達が叩き落とされていく。
当然、鉄の強度へと変質しているムンゴには傷一つない。
『マンスーラビット』だけが地面に倒れていった。
「お疲れ様です、ムンゴさん」
今しがた能力で無数の石を放った、茶髪を綺麗に切りそろえた小柄な女性、ルルスが労いの声をかける。
「いえ、自分はただじっと立っていただけですので……」
「いやいや。魔物が突っ込んできて、そのうえ私の石が飛んでくるのに平然と立てるのすごいですよ。私だったら怖くて逃げちゃいますもん」
ルルスから褒められ、ムンゴは頭の後ろを掻きながら恐縮した。
「いやー、ムンゴが囮になってくれると狩りが楽だな! もう結構な稼ぎになったぜ」
「全くだ。なあムンゴ、やはりうちのチームに入る気はないのか?」
暗緑色の長髪を後ろに結んだ弓使いの男、レタが何度目になるか分からない勧誘の言葉を口にする。
「申し訳ありません。自分はもう約束しているチームがありますので……」
「あー、またバルさんか? そこまでこだわるなんて、そんなに凄い奴らなのかねえ」
リーダーのウバは優秀な盾役を諦めきれない様子で、拗ねたように唇を尖らせた。
「ねえ……そんなことより、私つまんないんだけど……」
皆が『マンスーラビット』を解体している中、一人の女性が不満そうにぼやいた。
艶のある黒い長髪を揺らし、ゆったりとした黒いローブを羽織って手には物々しいな杖を握っている。
まるでおとぎ話に出てくる魔法使いそのものの格好をした少女、マーハだ。
「いやしょうがないだろ? たかがウサギを狩るのに、お前の能力使ってたら火事になるっつうの」
「じゃあもっと大物狙いに行こうよー! さっきからウサギばっかりで、私の出番ぜんぜんないんだもん。つまんない!」
「マーハの我が儘はともかく……確かに大型の魔物を見つけられないのは妙だな。この辺りなら『パッタルイノシシ』の二、三頭くらいは引っかかってもいいはずなんだが」
索敵役を務めるレタが不審げにつぶやく。
彼の能力は、周囲に存在する命を感知するもの。
その索敵網に中型以上の魔物が引っかかってないのだという。
「気づかなかったぜ……そりゃ確かに妙だな。今日のところはこれくらいで切り上げて、街に引き上げるとするか」
嫌な予感を覚えたウバは、早めの帰路につく決断を下した。
だがその判断は少しだけ遅かった。
──バキバキ
木の枝がへし折られる音が森にこだました。
全員がその方向へ視線を向ける。
木々の隙間から姿を現した巨大な影。
体長は優に五メートルを超え、爪と牙には生々しい新鮮な血がべっとりと付着している。
このガフラ森林の深部に君臨しているはずの、絶対的な捕食者──暴悪の魔熊『ウンガリーベア』だった。




