閑話 稼ぎの使い道・1
狩った魔物の素材や討伐報酬は、冒険に必要な消耗品、装備のメンテナンス費用、それから打ち上げ代金を差し引き、残りを均等に山分けしている。
中級迷宮に潜り始めてからは一段と実入りが良くなり、五等分した中から生活費を引いてもなお、遊ぶ余裕があった。
「へへっ、結構いい金になったぜ!」
「冬が近いからな。ブースカランの羽毛は需要が高くなってる、次からはもっと積極的に狩るか」
全員が懐をあたたかくして、ギルドの換金所を後にする。
この日はそのまま解散という流れになり、それぞれが帰路や用事に歩いていった。
---------
俺とカリーは歩きながら夕飯についての相談を始める。
「最近は肉が続いてたし、今日は魚にするか?」
「そりゃいいねえ。だったらこのまえ行った、あの美味しい店にしようじゃないかい」
カリーと二人で食事をする時は、周囲を気にしなくてすむ個室か持ち帰って食べるのが常だった。
「このまえのって……あの大通りの高級店? さすがに普段の夕飯には高すぎないか?」
「まあいいじゃないかい。今夜は私が奢ってあげるから、バル坊も好きなものを頼みなよ」
「いいの? それならお言葉に甘えさせてもらうかな」
カリーの金の使い道は、その大半が食べ物に消えていく。
流行りの料理屋を見つけては通いつめ。
ラロと一緒に菓子作りに興じていることも珍しくない。
「……なあカリー。気になったんだが、トカゲって太るのか?」
「な、なんだい!? 私が太っているって言いたいのかい!? それに私をトカゲあつかいするんじゃないよ!」
カリーが胸ポケットの中から抗議してくる。
トカゲ扱いすると怒るのはいつものことだが、予想以上に太るという言葉に反応して、俺は少し驚いてしまった。
「い、いや、ただの知的好奇心というか……素朴な疑問なんだ。他意はないって」
「私は索敵で疲れてるんだい! ちょっとくらい食べすぎたところで、太るはずなんてないよ!」
「でもさ、最近しっぽが太くなってないか? それにわき腹のあたりが……」
俺の言葉に、カリーはわき腹の鱗を触り、後ろに伸びる尻尾を振り返って確認する。
カリーの顔がどんどん険しくなっていく。
「……やっぱり、今日は野菜にするかい。店は変更だよバル坊!」
「はいはい。じゃあいつもの大衆食堂を持ち帰りでいいな?」
「早く行くよ!」とつついて急かすカリーに苦笑しながら、俺は歩いていく。
----------
国都の大通りに店を構える、一軒の香水店。
そこは流行に敏感な若い女性達がひっきりなしに来店する、街でも流行りの場所だ。
色とりどりのガラス瓶が並ぶ棚の前で、ラロは頭を悩ませていた。
彼女は棚から一つの瓶を手に取り、慎重に顔を近づける。
(うーん……フローラル系よりも、フルーティ系の方がバル君は好みなのかなぁ……)
ラロも例に漏れず、自分に合う香水を探しにこの店を訪れていた。
香水は贅沢な嗜好品、小さな瓶一つでもかなりの額だ。
だがラロは普段の食事も質素で、娯楽や賭け事に興じるようなタイプでもない。
金の使い道といえば、最低限の美容か衣服、それと知識を蓄えるための本を買うくらいのものだった。
そのため、チームの中で最も貯金があるのはラロだ。
「いらっしゃいませお客様。本日はどのような香りをお探しですか? ご自身用でしょうか、それともどなたかへの贈り物ですか?」
棚の前で長考していたラロに、店員の女性が声をかけてきた。
ラロはビクッと肩を揺らし、言葉に詰まりながらも返答する。
「あ、あのええと……自分用、です。その……近くにいる人が嫌がらないようなものを、と思ってて……」
ラロのしどろもどろの話を、店員はにこやかに聞いていく。
「なるほどなるほど。意中の方の好みに合わせたい、ということですね」
できるだけぼかして言ったつもりだったのに店員から意中の方と確信を突かれて、ラロの顔は真っ赤に染まった。
店員はあごに手を当てて少し思案したあと、棚から一つの瓶を手に取った。
「それでしたらこちらが一番おすすめですよ。グリーン系のナチュラルな花の香りです。冒険者の方々は職業柄、五感が鋭敏ですから人工的な甘さや強い香りは敬遠されがちなのですね。ですがこれならふわっと優しく香る程度ですので、お相手の方も心地よく感じてくださるはずです。何よりお客様の清楚な佇まいにとても馴染み────」
店員の口から飛び出す、説得力のある解説。
ラロは感心しながら何度も頷き、教えられた正しい付け方やつける位置を忘れないように、メモ帳にペンを走らせた。
(ちょっと予算オーバーだったけど……思い切って買っちゃった! ま、まずは寮に戻ったら、カリーさんに香りを確認してもらわなきゃ!)
香水が入った袋を大事そうに抱え、ラロは弾むような足取りで帰路についた。




