表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ディグニティ・ストライド  作者: 果報寝待


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/132

第52話 散らじとぞ、命脈継ぎて

 俺達は武器を構え、三体の『トリアントースアント』を睨みつけた。

 

 しかし、銀色の殻を持つ三体は動かない。

 威嚇するように巨大な顎を打ち鳴らすだけだ。

 

「……もしかして、後ろから来る群れを待っているのか?」

「そんな知能があるなら厄介だな……」

 

 俺とシードゥの予想に、全員が警戒を一段階引き上げる。

 群れが合流する前に倒さなければ勝ち目はないかもしれない。

 

「まずは遠距離から叩く! いくぞ!」

 

 俺の合図とともに、四人が同時に能力を解放した。

 

「『己力投写こりょくとうしゃ』ッ!」

「我が腕は『投石機カタパルト』!」

残響傷ざんきょうしょう『ナイフ』!」

「『千散射せんさんしゃ』!」

 

 放たれたナイフに矢、加速した石が空気を裂きながら突き進む。

 だが三体は避ける素振りも見せず、ただそこに佇んでいた。


 ギャリンッ!


 音を立てて全ての攻撃が弾かれる。

 俺が放ったナイフが表面を削った以外、殻にはかすり傷一つ付いていなかった。

 

「う、嘘だろ……」

 

 背後から漏れた仲間の声が、絶望を代弁していた。

 これほど強固な外骨格を持つ相手と、今の消耗した状態で、近接戦闘で戦わなければならない。

 俺の体がわずかに震えた。

 

 その時、トリアントースアントが静止を辞めて前進を開始した。

 背後からは、百を超える蟻の群れがすぐそこまで迫っている。

 

「……バル。群れさえどうにかなれば、アイツらに勝てるか?」

 

 振動感知の能力を持つキシコが、地面に手をついたまま俺に問いかけてきた。

 

「勝てない相手じゃない。だけど、あんな数に囲まれたら──」

「……分かった。なら群れは俺が引き受ける」

 

 キシコが俺達の前に一歩踏み出した。

 

「俺の能力は音を消すだけじゃない。消し去った音の力は、俺の体の中に蓄積されていくんだ。……ラロさん、消音の結界でみんなを包んでくれ!」

「え……は、はい!」

「待てキシコ! それをやったらお前が!」

 

 シードゥ達が制止の声を上げたが、キシコは止まらなかった。

 ラロの能力による光のカーテンが俺達を包み込む。

 それを見届けたキシコが、群れを睨みつけた。

 

「……ニムには、俺は村に帰ったと言ってくれ。みんなあとは頼んだぞ。『震脈無潜しんみゃくむせん』解放!」

 

 瞬間、世界が割れたように感じた。

 結界の中にいるはずなのに、内臓を揺らすほどの振動が響き渡る。

 足元の岩石が砕け、塵が舞い上がる。

 その不可視の攻撃を浴びた蟻の群れは、殻がひび割れて体液を吹き出し、粉砕されていった。

 

 しかし、振動の中心にいたキシコは惨憺たるものだった。

 全身の穴から血が吹き出し、目が破裂している。

 骨は砕け、生きているのが奇跡と言えるほどの有様だった。

 

 ──それほどの衝撃を受けても、むくりと起き上がる三つの影があった。

 銀色のトリアントースアントは、殻を歪ませながらも生きている。

 怒りに狂ったように目を赤く染め上げ、俺達に走り出した。

 

「ラロ、キシコを頼む! シードゥチームは左、グルーとレギンは右だ! 真ん中は俺がやる!」

 

 俺は叫びとともに地を蹴り、体高三メートルを超える巨体へと黒剣を突き出した。

 

「ハァッ!!」

 

 ビシリ、と硬い手応えとともに剣先が殻を割る。

 喜ぶ暇はなかった。

 巨大な顎が俺を狙って迫る。

 ガギン、と空を切る音が響く。

 

(まともに喰らえば両断されるな。まずは足から削いで、機動力を奪う!)

 

 俺は『己力投写こりょくとうしゃ』を両足に限界まで込め、アントの周囲を駆けた。

 

「らぁっ!!」

 

 撹乱するように動き回りながら、関節の隙間に黒剣を滑り込ませる。

 強固な殻を避け、アントの足を一本切り飛ばした。

 

「────っ!!」

 

 音にならない絶叫を上げるアント。

 巨体ゆえに、小回りとスピードならこちらに分がある。

 このままいけば勝てる。

 そう確信した時、頭上から大量の液体が降り注いだ。

 

「……っ!? しまった!」

 

 アントが放った大量の蟻酸ぎさんを浴びてしまう。

 肌を焼く激痛が走る。

 何よりも不味いのは視界を奪われたことだ。

 目が開けられず、痛みの中で後退する俺の耳に、巨大な足音が迫ってくる。

 

「バル坊! 右だよ、右に避けな!」

 

 革鎧の中に避難していたカリーの声が聞こえる。

 反射的に体が右へ跳んだ。

 直後、俺がいた場所を巨大な顎が叩き潰す音が聞こえる。

 

「私が指示を出すから、避け続けな! ラロちゃんが来るまで踏ん張るんだよ!」

 

 カリーの指示を頼りに、盲目の中で紙一重の回避を繰り返す。

 

「バルくん! 『是正宣光ぜせいせんこう』!」

 

 キシコの応急処置を終えたラロが、間一髪で駆けつけてくれた。

 浄化の温かな光が俺を包み込み、酸を無害な物へと変えていく。

 ようやく視界が戻り、目の前のアントを捉えた。

 

「助かったラロ! 『己力投写こりょくとうしゃ』ッ!」

 

 俺に噛み付こうとする顎を、跳躍して回避する。

 そのままアントの頭上へと舞い上がり、持てる全ての力を黒剣に注ぎ込んだ。

 

(反動は考えない。ここで一気に決める!)


「『己力投写こりょくとうしゃ』ッ! うおぉぉ!!」

 

 ギィィィンッ!


 火花が散り、黒剣が銀色の首を断ち切った。

 俺は受け身も取れずに地面に叩きつけられる。

 全力で振るった反動で、俺の両腕はあらぬ方向に折れ曲がっていた。

 

(みんなの援護には行けないな。だけど、俺の勝ちだ……)

 

 痛みの中で勝利を確信し、意識が遠のきかけた時。

 頭を失ったはずのアントが、ガシャリと音を立てて再び動き出した。

 

(虫の神経節しんけいせつか! しまった、学園の講義で習っていたのに……!)

 

 頭がなくても、体内の神経の塊が盲目的に攻撃を継続させる。

 これが昆虫型魔物の恐ろしい点だった。

 立ち上がることのできない俺に、岩をも穿つ巨大な脚が迫る。

 

「バル坊! 早く立ちな!」

 

 カリーの悲鳴が聞こえたが、体は動かない。


「やあぁぁぁ!!」


 ズシャ!


 肉を裂く音が聞こえた。

 見れば、ラロが震える手で杖を構え、アントの切断面へと突き立てていた。

 

「『是正宣光ぜせいせんこう』!」

 

 杖から眩いばかりの光が溢れ出し、アントの巨体を内側から包む。

 溢れ出す血が水へと浄化されていく。

 大量の血を失った巨体は、ついに力尽きて崩れ落ちた。

 

「ハァ、ハァ……」

「ら、ラロ! ありがとう。本当に助かった!」

 

 その場に座り込むラロ。

 他のみんなの状況も気になるが、今はまずここから離れることが先決だった。

 

 俺はラロに肩を貸してもらい、激痛に耐えながら歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ