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ディグニティ・ストライド  作者: 果報寝待


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第48話 勝利の席、向けられた嫌悪


 冒険者ギルド直営の鑑定所カウンターに、グルーとレギンが膨らんだバックパックを二つどかりと乗せた。

 

「鑑定と買取、頼むぜ!」

 

 グルーの笑顔と豪快な声。

 受付の女性が中身を覗き込み、驚きと苦笑いを浮かべる。

 それもそのはずだ。

 ボーラや殻盾を攻略に導入して以降、俺達の四階層攻略は劇的に効率化していった。

 素早く魔物を仕留めて素材を剥ぎ取る。

 その成果がこの大量の魔石、山羊の角、アントの殻、そしてブースカランの嘴や羽となって現れていた。


「今日はギルドの酒場で打ち上げだな!」 

「明日は授業があるんだから、あんまり羽目は外すなよ?」

「バルよ、固いことを言うな! 勝利の宴など騒がねば意味がなかろう!」

「レギン坊の言う通りだよ。今日は四層攻略記念なんだ、堪能しようじゃないか」

「す、少しくらいなら……私もお祝いしたいかな」

 

 ここ最近は朝から晩まで迷宮詰めだった。

 たまには羽を伸ばすのも悪くないか、そんな空気が俺達の中に流れていた。

 

 ギルドと国に一割、学園に四割。

 半分を天引きされてもなお、売却金は新人の一ヶ月分を凌駕する額になった。

 特にブースカランの嘴は加工のしやすさゆえに職人からの需要が高く、思わぬ高値がついた。

 全員が懐を温かくしてギルドの酒場へと陣取る。

 

「俺は鶏足のボイルにオークの厚切り焼き、それとエールで!」

「我はハーブワインに白パン、川エビのフライとナッツを頼む」

「私は冷却果汁酒に……野菜のオイル和え、チーズとオニオンフリットをお願いします」

 

 俺達の注文を給仕がせわしなくメモしていく。

 一方グルーはメニューを睨みつけ、戦場さながらの真剣な顔で悩んでいた。

 

「俺は……ハニーアップルジュースと本日のごった煮、黒パン、チーズ。それに羊の赤ワイン煮込み──」

 

 次々と飛び出す注文。

 大食漢のグルーに見慣れている俺達とは対照的に、給仕は「……ご、ご注文は以上でよろしいでしょうか?」と顔を引き攣らせていた。

 

 酒場の喧騒の中、テーブルには山盛りの料理と、グルーが特大ジョッキで頼んだリンゴジュースが並ぶ。

 

「みんな野菜も食べてね。このルッコラ、少し苦いけど疲労回復にいいんだよ」

 

 ラロが勧めてくれるサラダをつまみながら、俺達は四階層の反省とこれからの攻略を語り合う。

 周りの冒険者達からも「おっ、稼いだみたいだな!」と景気のいい声が飛び、宴は至極和やかなムードで進んでいた。


 そんな時。

 一人の男が、俺達のテーブルに気安く声をかけてきた。

 

「よお! 随分と気前がいいな。鑑定所で見たぜ、すげぇ量の素材を売ってたろ」

 

 そこには、年季は入っているが手入れの行き届いた装備を身につけた五人組の冒険者がいた。

 ギルドでは珍しく、全員が俺達と同年代に見える。

 

「今回の探索が上手くいってな。その打ち上げなんだ」

 

 俺がそう返すと、五人組は「奇遇だな、俺達もなんだよ」と隣のテーブルに腰掛けた。

 

「俺はシードゥ。歳が近い者同士、仲良くしようぜ」

「バルだ。よろしくな」

 

 俺とシードゥは握手を交わした。

 互いに自己紹介が続き、親密な空気がより深まっていく。

 ……だがレギンの番になった瞬間、その温度は一気に氷点下へと叩き落とされた。

 

「我はレギン・ヘシマ・アヴァディス・キファルメ。以後、お見知りおきを!」

 

 レギンが嬉々としてその名を告げた途端、シードゥ達の顔から笑みが消えた。

 

「あんた……その名前。もしかして貴族か?」

「うむ。この国でも指折りの名家、キファルメ公の息子が我だ!」

 

 不審げなシードゥの問いに、レギンが誇らしげに胸を張る。

 

「……お前ら……もしかして学園の生徒か」

「ああ、そうだけど。……どうかしたのか?」

 

 俺の肯定は、場をさらに凍らせることになった。

 さっきまで親しげに笑っていたシードゥが手にしたジョッキを叩きつけるように置く。

 

「……さっきの仲良くしようってのは無しだ。お前ら行くぞ」

「チッ。道理で装備の質がいいと思ったぜ」

 

 立ち上がり、吐き捨てるように仲間を促すシードゥ。

 

「ど、どうしたんだよ急に……!」

 

 何が気に障ったのか聞こうとした俺を、五人組の憎しみのこもった目が射抜く。

 

「……私達、貴族とも学園の人とも仲良くするつもりはないの。それだけ。じゃあね」

 

 女性冒険者の一人が冷たく言い放ち、彼らは並ぶ料理を残して酒場を去っていった。

 

「なんだぁアイツら……せっかくの飯が不味くなるぜ」

「わ、我は何か失礼なことをしただろうか……」

「なにかトラブルでもあったのかな……すごく怒ってたね……」

「気にする事はないよ。それより、食事が冷める前に楽しもうじゃないか」

 

 カリーが明るい声で場を繋ぎ、俺達は食事を再開した。

 

 だが俺の胸には晴れない引っかかりが残った。

 あの瞬間に向けられた、憎悪。

 あれは単なる僻みなどではないと思えた。

 ……もっと深い。

 傷跡をえぐられたような、そんな眼差しだった。

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