閑話 悪童二人の特別講義
バル、カリー、ラロがバフタルへの療養に旅立って二日。
残されたグルーとレギンは暇を持て余していた。
経験を重ねるため、臨時で加入できるチームを探して学園内を回ったが結果は散々たるものだった。
「くそっ。どいつもこいつも枠が埋まってるだの、連携が崩れるだの……なんで入れてくれねえんだ?」
「解せぬな。我らが入れば百人力だというのに......」
歩くと人混みが割れていく二人に自覚はない。
凶悪な人相と巨漢、不真面目な授業態度から極悪不良と恐れられているグルー。
そして、隠しきれない傲慢さを振りまいていた大貴族の子息としての悪名がいまだに尾を引いているレギン。
二人の圧が強すぎて、一般生徒達の目には彼らが臨時メンバーではなく舎弟を物色しているようにしか見えていなかった。
「……チッ、いいぜ。なら二人で森にでもいこうぜ。昼飯を賭けて勝負だ」
「狩りか。よかろう、貴族の嗜みを見せてやる!」
二人は国都郊外の森で、低級魔物の掃討に勤しんでいた。
大剣が唸りを上げて振るわれ、細剣が精確に急所を突き刺す。
「やるじゃねえかレギン! もう八体目かよ」
「ふん! 我に勝てたなら、今夜は名店を奢ってやろう」
「マジかよ! 俄然やる気出てきたぜ!」
二人が数を競い合いながら奥地へと進むと、耳障りな罵声と戦闘音が聞こえてきた。
「うわぁっ!? く、来るなッ!」
「おいテュマ、何やってんだよ! ちゃんと足止めしろよッ!」
「ザブロ、テュマ邪魔だ! 射線に入るな!」
開けた先には、七匹のゴブリンに囲まれた三人組がいた。
前衛の両手剣を持った少年は、仲間を待たずに単身で突っ込み、逆に包囲されている。
中衛の少年は、盾と片手剣を構えたまま震えて動けずにいる。
後衛の少年は、弓を射るのを諦め無機質な目で撤退の機会を伺っていた。
「やれやれ。見ておれぬな」
「あーあ。まあ暇つぶしには丁度いいか。助けてやるぞレギン」
二人は風のような速度で戦場に介入した。
「君達! 加勢が必要かな?」
「お、お願いします……っ!」
震えていた少年の返事を聞くや否や、グルーの大剣がゴブリンをまとめて吹き飛ばし、レギンが背後に迫っていたゴブリンの棍棒を冷静に弾く。
二人が介入して戦闘が終わるまで十秒もかからなかった。
「ちっ……。何勝手に加勢許可してんだよテュマ!」
「ご、ごめん……でも、本当に死ぬかと思ったから……」
「お前がビビらずに動けば、俺一人で片付けられたんだよ!」
ゴブリンの死骸を前に、一人が仲間に怒鳴り散らす。
誰も防具すらまともに着けていない。
その危うさをグルーは鼻で笑った。
「そうカリカリすんなって。魔石も耳もいらねえ、お前らの手柄でいいからよ」
「……君達は駆け出しかな? 今の連携では、近いうちに誰かが死ぬぞ」
「……感謝はしますが、あんた達には関係ないでしょう。俺は俺のやり方でやる」
その生意気な言葉にグルーの眉間がピクリと動く。
だがその顔に浮かんだのは怒りではなかった。
まるで面白い玩具でも見つけたかのように、口角を獰猛につり上げたのだ。
「威勢がいいな。だけどそのガタガタの剣じゃ説得力ゼロだぜ。……おいレギン、こいつら少し鍛えてやらねえか?」
「ふむ、これも何かの縁。いいだろう特別講義だ」
「「「はあ!?」」」
絶句を無視してグルーが三人の肩を強引に抱き寄せた。
「まずは腹ごしらえだな。空腹じゃあ、稽古の途中で倒れちまうからな。こいつら三人の分もレギンの奢りだ!」
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国都の中心街に位置する重厚な木造の店。
金だけでは門前払いを食らう超高級店に、レギンの顔パスで通された三人は借りてきた猫のように萎縮していた。
並べられたのは、庶民が一生かけても拝めないような料理の数々だ。
宝石のように輝く野菜のゼリー寄せ、香辛料の香りが官能的な桃色の厚切り肉、そして美しく飾り立てられた魚のカルパッチョ。
「これ……どうやって食べるんだ?」
「こんなお店、僕達じゃ何年働いても……」
「……はっきり言いますが、何の詐欺ですか? 俺達みたいな持たざる者を騙したってメリットはないはずだ」
警戒を隠さない三人に対し、レギンは優雅にナプキンを広げた。
「まず、個室だからマナーなど気にするな。それと代金は我の奢りだ。……次に、詐欺などという手間のかかる真似を、このレギンがすると思うか? 関わったからには少しは見れるようにしてやろうというだけだ」
「そういうこった。……ほら食え。これから始まる訓練、食っておかねえとマジで死ぬぜ?」
不穏な言葉とは裏腹に、料理の香りはあまりに魅力的だった。
おそるおそるフォークを動かす。
ひとたび口に入れれば、三人の疑念は吹き飛んでしまった。
「う……うめえ!?」
「これ口の中で溶けるよ! 噛まなくても食べられるくらいだ!」
「……なんだこれ……美味すぎる……」
一心不乱に食らいつく三人を見ながら、グルーは笑い、レギンは静かに赤ワインを口に含んだ。
この贅沢が、地獄の特訓から逃がさないための罠だとも知らずに。




