第39話 白亜への療養
いつも読んでくださりありがとうございます!
通常は1日1話ですが、今週末は試験的に2話更新しようと思います!
20時20分、1時10分の更新です。
楽しみにしていただけると嬉しいです!
学園・訓練所
「はぁ……」
俺はベンチに座り、重いため息をついた。
「おうどうしたよ。腹でも減ったのか?」
大剣を肩に担ぎ、グルーが声をかけてくる。
「なかなか腹の痛みが引かなくてな……。これじゃあ体がなまっちゃうよ」
エイとの戦いから二週間。
生活に支障はないが、激しく動こうとすれば腹の奥が焼けるように痛む。
ササ先生からは、完全に回復するまで訓練も迷宮探索も禁止と言い渡されていた。
「贅沢な悩みじゃねえか。しばらくは寝て食って遊ぶのが仕事だろ? 気楽に休めって」
グルーが興味を失い、再び筋トレに戻ろうとした時。
「はぁぁ……」
俺よりもさらに深く長いため息をつきながら、ラロが歩いてきた。
「ラロ? どうしたんだよ、そんなため息ついて」
「あ、バル君……じつは私。能力が使えなくなって……」
「ええっ!?」
俺の驚きの声が訓練所に響いた。
話を聞くと、あのエイとの戦い以来『是正宣光』が反応しなくなったのだという。
怪我を治すことも浄化することもできない。
気力も体力も万全なのにだ。
「小さな傷も治せなくて……先生は一度休暇を取りなさいって。家に帰って心を休めなさいって言われたの。……でも、もしこのまま治らなかったら私もう冒険には……」
ラロが視線を落として今にも泣き出しそうな顔で唇を噛む。
「だったらよ。バル、お前もついてってやれよ」
「「えっ!?」」
グルーの唐突な提案に、俺とラロの声が重なった。
「お前も腹に穴が空いた病人だろ。ちょうどいいじゃねえか。二人でゆっくり療養にでも行ってこいや」
「え、ええ!? でも、バル君は……その……迷惑だし」
ラロが嬉しそうな、けれど申し訳なさそうな目でこちらをチラチラと伺う。
一人で帰る不安と、俺を巻き込む罪悪感の板挟みになっているのだろう。
俺が返答に迷っていると、グルーが俺の肩に腕を回して小声で呟いてきた。
「いいかバル。ラロの不調はな、お前が死にかけたせいだぜ」
俺は目を見開いた。
「あいつ、自分の治癒のせいでお前を苦しませたって……ずっと泣いて謝ってたんだ。俺達が何を言っても聞きやしねえ。ラロの不調を治せるのはお前しかいねえだろ」
……なるほど。
罪悪感によって、無意識に自分で能力を制限しているのかもしれない。
俺は元気でなにも気にしていないということを、ラロに証明してやる必要がある。
「わかったよ……。ラロさえ良ければ俺もついて行かせてもらっていいか?」
「も、もちろん! ぜひ! ……すぐ、すぐに準備してくるね!」
顔を輝かせたラロは、先ほどまでの憂鬱さが嘘のように訓練所を飛び出していった。
「……ありがとうなグルー。教えてくれて助かったよ」
「おう。土産は肉で頼むぜ」
グルーはそう言い、再び大剣を振る音を鳴らし始めた。
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翌朝。
俺とラロは早朝の馬車に揺られ、もう一つの国都へと向かっていた。
国都ソブリン。
巨大な川を境界線としたこの双子都市は、二つの異なる顔を持つ。
学園や迷宮があり、俺達が普段暮らしている活気に満ちた『ソブリン・サマナ』。
そして川を挟んだ北東側に位置する、王宮と教会の総本山がある『ソブリン・バフタル』だ。
「バフタルにも学園はあるんだけどね。サマナみたいに実力さえあれば誰でもってわけじゃないんだ。伝統とか格式とか……そういうのがすごく厳しい場所なの」
「エリート校ってことか。俺みたいな流れ者には息苦しそうだな」
ラロからバフタルの話を聞いているうちに、景色が変わり始めた。
馬車が巨大な城門の前に差し掛かる。
幌から覗くと、目を疑うような長蛇の列ができていた。
「これ、入るだけで日が暮れるんじゃないか?」
「あはは……サマナから色んな物資が運ばれるからね。それにバフタルは検問がすごく厳しいんだ……」
ラロが苦笑いする。
胸元のポケットでカリーが「退屈だねえ」と言いたげに小さくため息をついた。
「まあゆっくり待つさ。それより、もっとバフタルのことを教えてくれ」
「う、うん! じゃあ、カリーさんも喜びそうな美味しいスイーツのお店とか、色々教えるね!」
長い待ち時間と検問を終え、ようやくバフタルの街へと入ることができた。
そこは、同じ国都というのが信じられないほどにサマナとは違った街だった。
区画整理された広大な白石の大通り。
建物はどれも磨き上げられた白亜の石造りで、窓にはガラスが使われている。
サマナに溢れていた鍛冶の音や市場の騒ぎはない。
代わりにあるのは、大教会の鐘の音と香油の香り。
警備兵の鎧は鏡のように磨かれ、行き交う人々は質の良い生地を纏っている。
街の中央には、王城が威圧的な気品を漂わせて鎮座していた。
「……すごいな。サマナとはえらい違いだ」
「洒落た街だねえ。きっと食事も美味しいよ」
「そ、そういえば……バル君、泊まるところは決まってるの……?」
ラロがどこか緊張した様子で聞いてくる。
「ラロを家まで送ったら、適当に宿を探すつもりだよ。この街だと安宿を探すのに苦労そうだけどな」
「そ、それなら! 私の家に泊まっていかない? ……部屋も余ってるし! 宿代だってもったいないしさ!」
「え? 流石にいきなりお邪魔したら両親が驚くだろ」
「パパとママは、教会の治癒士としていつも遠征に出てるから。連絡もしてないしたぶん不在だよ。家には家政婦のチーヤーさんしかいないはずだから、全然大丈夫!」
「バル坊。ラロちゃんのケアも兼ねてるんだ。ここは甘えておいた方が話もできるんじゃないかい?」
胸元からカリーの小さな声が聞こえた。
「……そうだな。それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
そう答えるとラロは顔を輝かせた。
「き、決まりだね! チーヤーさんの料理、美味しいんだよ!」
俺とカリーは、少し弾むような足取りのラロに案内されて白亜の街並みの中を歩き出した。




