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ディグニティ・ストライド  作者: 果報寝待


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第34話 翅音呑み込む森


 十階層の主を倒した興奮がまだ体に残っている。

 そのまま俺達は教員室へと足を運んでいた。

 担任のササ先生に、十階層の守護者を討伐した証である『討伐証明書』を提出する。

 

「……確かに。十階層主の討伐を確認しました。おめでとう。君達のチームがクラスで三番目の制覇だよ」

 

 ササ先生が目を細めて小さく微笑む。

 

「三番目……俺達より早いチームが他に二ついたんですか?」

「一組はシハラ君のチーム。もう一組はタウルさんチームだね。君達も十分早すぎるくらいだけど、上には上がいるんだよ」

 

 もしかしたら一番乗りじゃないかと自惚れていた俺達は顔を見合わせて苦笑いした。

 慢心するな、という先生からの忠告かもしれない。

 ササ先生は机の引き出しから、重厚な紋章が刻印された書類を取り出した。

 

「これが制覇の報酬、国都の『中級ダンジョン』への立ち入り許可証だよ。初級迷宮とは魔物の質も種類も根本から変わる。危険は今までの比じゃない、気を引き締めて行くようにね」

 

 手渡された許可証に俺達の胸が高鳴る。

 ついに本当の冒険の幕開けを感じていた。 

 教員室を出た俺達は、そのままいつもの訓練所へと向かう。


 ----------

 

 ベンチに座り、ボス報酬の真鍮をどう加工するか盛り上がっていた時のことだ。

 

「よ、ようやく解放された……」

 

 通路の向こうからふらふらと、今にも倒れそうな影が近づいてきた。

 ムンゴだ。 

 ヴィブラム先生に連行されてから数日。

 ムンゴの頬はこけ、目の下には濃いクマができている。

 

「ムンゴ! 大丈夫か!? ……随分と酷い顔だぜ」

「はは……死ぬかと思いましたよ……。毒や熱の耐性実験とか、生物の性質は模倣できるのかとか……」

 

 ムンゴが力なく笑う。

 その手に持った袋からはジャラジャラと重い音が響いている。

 

「でも先生が『実験に付き合った報酬だ』って、いろんな素材をくれました。これでバルさんの言っていた性質の掛け合わせを試せます」

 

 袋の中には、金属の端材や不思議な色彩の石まで色々と詰まっていた。

 ヴィブラム先生なりの生徒への応援なのかもしれない。

 

「いい素材が揃ったなムンゴ。……いま俺達は、特注のエンブレムの相談をしてたんだ。お前の分もちゃんと作るからな。何かアイデアはあるか?」

 

 俺の言葉にムンゴがぱっと顔を上げる。

 

「僕の分も……いいんですか?」

「当たり前だろ? まだ加入前だけど、もう仲間だと思ってるしな」

 

 俺の言葉にムンゴが目元を潤ませて頷く。 

 六人で輪になり座り、真鍮のデザインを練り上げていく。

 それは俺達にとって何にも代えがたいほどに楽しい時間だった。


 ----------


 国都・西門

 

 普段は馬車と人で活気にあふれる場所は今、静寂と緊張感に包まれていた。

 二週間前、学園へ通達があった「戦闘可能な全生徒・講師は、兵士と共に魔物の迎撃にあたれ」。

 

 蝉の魔物『スウォームシカーダ』の二年に一度の大量発生。

 その飛来周期がついに来たのだ。

 スウォームシカーダの多くは野生の魔物に捕食される運命にあるが、国都近郊の森は奴らの繁殖地となっている。

 放置すればおびただしい群れが国都を襲い、農作物や家畜、最悪の場合は人まで食い荒らすだろう。

 

「蝉の魔物か。みんなは見たことあるのか?」

「国都に住んでりゃあ、嫌でも拝むことになるぜ」

「く、駆除から漏れた個体が街に侵入することがあるからね。私、少し苦手なんだ……」

「だが、あの魔物が国都を潤しているのも事実。利害得失、この国の象徴のような魔物さ」


 この駆除は単なる防衛ではない。

 撥水性に優れた翅、医療や武器に使われる針、様々な道具に使われる発音筋、そしてセミ油。

 これらシカーダから得られる素材は国都の重要な資源で、他国へ輸出することで利益を生む。 

 レギンとラロが複雑そうな顔をする一方で、グルーとムンゴは意外な話で盛り上がり始めていた。

 

「俺は食ったこともあるぜ。貧民街じゃご馳走だからな」

「あ、僕も食べたことあります! 揚げると香ばしくて美味しいんですよね」

「え、えぇ! あの蝉を食べちゃうの!?」

「我は遠慮しておこう……」

  

 引きつった顔の二人を横目に、俺は戦術を練り直す。

  

「じゃあ倒し方も工夫しようか。素材としての価値を落とさないように、なるべく綺麗に仕留めるんだ」

「了解だぜ! 特注装備の代金を稼がねえとな!」

「エンブレムに見合う、最高の武具を揃えたいものだな!」

「う、うん。長く使える装備欲しいもんね」

「僕は一つ星の班で動くのでご一緒できませんが、精一杯頑張ります!」

  

 それぞれの決意を固めていると、指揮官の野太い声が響き渡った。

 

「聞け! これより森の境界に陣を敷き、群れを迎え撃つ! 決して陣形を崩すな、遅れる者は置いていくことになるぞ!」

 

 号令と共に、俺達は森へと進む。 

 所詮は害虫駆除。

 俺達にはどこか楽観的な空気が流れていた。

 だが森が近づくにつれてその空気は重くなっていく気がした。

 

 静かすぎる。

 本来ならシカーダ達の音が地響きのように聞こえる時期と聞いた。

 森は、まるで巨大な怪物が息を潜めているかのように沈黙している。

 静けさの奥からねっとりとした何かに観察されているような、そんな心地悪さが背筋を撫でた。

更新ペースについてお知らせがあります。


本日の更新をもちまして、先行して公開していた「カクヨム」の最新話に無事追いつくことができました!

そのため、これまでの1日3話更新から、ストックが切れるまでは1日1話更新のペースに変更となります。

明日からも毎日のちょっとした楽しみにしていただけたら幸いです!

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