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ディグニティ・ストライド  作者: 果報寝待


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第31話 立ち並ぶ資格


 学園寮の裏手。

 日陰の冷たく湿った空気が淀む場所。

 人目を避けるように立つ三人の前で、ムンゴは足を止めた。


「で? なんの用だよ。弁償の値下げなら聞かねえぞ?」

「お金稼げなくて泣きつきに来たぁ? みっともなーい」

「どこまでも役に立たん男だ、貴様は」


 浴びせられる罵声をムンゴは黙って受けた。

 そして重いリュックをどさりと置く。 


「これ……ジャランスライムの核です……」


 その言葉に、三人は目の色を変えてリュックに飛びついた。


「マジじゃねえか! こんなにどっから持ってきた!?」

「すごい量……! これ全部売ればぁ、新しい装備を買ってもお釣りがくるよ!」

「ふん、当然だ。これまでの迷惑料を考えれば妥当な額だな」


 リュックの中にはオレンジ色に光沢を放つスライムの核がぎっしりと詰まっていた。

 三人の顔には欲望が浮かび上がっている。


「おいムンゴ。てめえ、どうやってこれだけ稼いだ? 拾ったわけじゃねえだろ」

「僕を助けてくれた人達がいたんです。その人たちと一緒に潜って……」

「そうかそうか、親切な馬鹿もいるもんだな。……じゃあムンゴ、もっかい助けてもらってこい」

「え?」


 聞き返すムンゴに、リーダー格の男が苛立ちを露わにする。


「え、じゃねえよ。そのおめでたい連中を利用してもっと稼げって言ってんだよ」

「お人好しならぁ、泣き落としでもすればおこぼれ貰えるんじゃない?」

「そうだ。そうすればお前をもう一度チームに戻してやらんこともないぞ」


 その言葉を理解した瞬間、ムンゴの頭の中が真っ白になった。

 事前に決めていた覚悟が吹き飛びそうになる。


「い、いえ。それはできません。僕は……チームを抜けたいと伝えにきたんです……」

「はあ? お前が? どこへ行っても足手まといの癖に」

「拾ってやった恩を忘れたか!」

「一人ぼっちだったあんたを入れてあげたのは私達じゃん!」


 その言葉がムンゴの胸に深く突き刺さる。

 恩。

 薄汚い身なりと鈍臭さのせいで、誰からも除け者にされていた時差し出された手。

 たとえそれが利用するためのものだったとしても、当時のムンゴには救いに見えていた。


「……それでも、僕は」


 声が震え口がうまく動かない。


「無理すんなって。な? 戻って来いよ」

「これからは少し優しくしてあげるからさぁ」

「仲間にしてやるぞ? 馬鹿な連中を騙して、もう一度稼ごうではないか」

 

 甘い言葉。

 戻れば今まで通り一人ではなくなる。

 顔色を伺い耐えてさえいれば、居場所は守られる。

 だがムンゴの脳裏には、あのチームの光景が浮かんでいた。

 互いの欠点を笑い飛ばし、共に泥にまみれて互いを支え合う仲間達の姿が。


(……これじゃ、また同じことを繰り返すだけだ)


「……か、彼らは! 馬鹿なんかじゃない!!」


 ムンゴの叫びが薄暗い裏手に響き渡った。

 震えは消えていない。

 それでも逃げずに一歩踏み出す。


「あなた達は仲間なんかじゃない! 勝手な言い分ですが、恩はその核の代金で返したつもりです! 今までありがとうございました。僕は……このチームを抜けます!」


 今度は、はっきりと言い放った。

 三人は一瞬だが呆気に取られたように口を閉ざした。


「……ちっ、勝手にしろ! 戻りたくなっても、もう二度と入れてやらねえからな!」

「どうせすぐに泣きついてくるに決まってるっしょ! バーカ!」

「身の程知らずめ。野垂れ死ぬのが関の山だ」


 吐き捨てるように言い残すと、三人はリュックを奪い取るようにして去っていった。


 ムンゴは何も言い返さなかった。

 ただ彼らの背中が見えなくなるまで深く頭を下げ、それからゆっくりと光の指す方へと歩き出した。


 ----------


 学園・訓練所


 俺達はそわそわと落ち着かず、訓練に身が入らないままムンゴを待っていた。

 そこへ入り口から真っ直ぐに歩いてくるムンゴの姿が見えた。


「ムンゴ! どうだった!?」

「はい……無事にチームを抜けることができました。皆さんのおかげです、ありがとうございます!」

「そうか! よかったぜ、これでせいせいしたな!」

「一安心ですね!」

「あ、スライムの核のお金は後で必ず……」

「そんな細かいことを気にするな! 我らの仲ではないか!」


 晴れやかな顔のムンゴ。

 俺達は事前に話し合っていた提案を切り出した。


「ムンゴ。もし君さえ良ければ……俺達のチームに入らないか?」

「え……!?」

「おう、俺がじっくり鍛えてやるぜ!」

「我が華麗な立ち回りも伝授してやろう」

「む、ムンゴさんなら大歓迎だよ!」


 その言葉を聞いたムンゴは驚きに目を見開いた後、何かを覚悟した勇猛な表情で首を振った。


「お誘い、本当にありがとうございます! ……ですがチームに入ることはできません」

「「「「えっ!?」」」」


 まさか断られるとは思わず、俺達の声が重なった。


「皆さんを見て、本当の仲間がどんなものなのかよく分かりました。……だからこそ、今の僕ではまだ皆さんの足元にも及ばないんです」

「そんなことないよ。それに俺達と訓練すれば──」

「それではダメなんです! 助けられるだけの存在じゃなく、皆さんと肩を並べて、背中を任せられるようになりたいんです!」


 ムンゴの気迫に俺達は気圧された。

 そこには、つい先日までの卑屈で悲観的な彼の顔はどこにも無い。


「自力で入れてくれるチームを探して、まずは一つ星として実績を積もうと思います。そして……二つ星に進級できたその時に、僕から改めて加入をお願いしに来ます。……だ、ダメでしょうか?」


 一瞬の沈黙の後、最初に吹き出したのはグルーだった。


「ははは! やるじゃねえかムンゴ! それでこそ男だぜ!」

「ダメなわけないよ! 最高の意気込みだ!」

「ふむ、その気高さ気に入ったぞ!」

「す、すごいよムンゴさん……私には真似できないよ!」

「見違えるようになったじゃないかい」


 カリーも満足げに尻尾を揺らしている。

 俺達の素直な賞賛に、ムンゴは顔を真っ赤にして俯いた。


「よし! ならまずはその細い体を叩き直さねえとな!」

「は、はい。トレーニングも今まで以上に頑張ります……」

「今日から俺の筋トレに付き合え! 食事も俺と同じだけ食わせるからな!」

「えっ。ぐ、グルー君と同じ量は無理じゃないかな……」

「グルーの筋トレは意識が飛ぶレベルだぞ」

「食事も凄まじいからな。我ですら胃袋が悲鳴を上げる」

「ムンゴ坊、死なないように気をつけなよ。あとで胃薬持っていくからねえ」

「え、えっ!? ちょっとグルーさん!? 腕が、腕が折れるっ!」


 引きずられていくムンゴと、鍛えがいがあると喜ぶグルー。

 その光景に俺達は思わず声を上げて笑い合った。

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