閑話 嫉妬の代償
学園・訓練所
訓練所の入り口。
ラロは柱の陰に身を潜め、もの言いたげに視線を注いでいた。
その視線の先にはベンチに並んで座るバルとヴィブラム先生の姿がある。
二人は時折笑みを交えながら親密そうに話し込んでいた。
「な、なんであの二人があんなに楽しそうに……」
ラロが拳を握りしめて身を乗り出そうとした時、背後から声をかけられる。
「やあラロ。そんな所で何をしているのだ? 」
「よお。 尾行の訓練にしては殺気が漏れすぎだぜ」
レギンとグルーだ。
二人はラロの視線を追い、同じように首を突っ込む。
「ば、バル君とヴィブラム先生が……あんなに盛り上がって、何を話してるのか気になって……」
二人も無言で覗き込む。
「確かに……妙に楽しそうだな」
「わかったぞ! あれはまさしく、教師と生徒による禁断の恋路──」
「レギン君……黙ってて」
ラロから発せられた凄まじい威圧感にレギンは反射的に口を噤んだ。
「う、うむ……すまない……」
「気になるんならよ、俺が直接聞いてきてやるよ!」
止める間もなく、グルーがドカドカと二人の方へ向かっていく。
ラロが不安と期待の入り混じった顔で待っていると、なぜか顔をしかめてグルーが戻ってきた。
「おう、聞いてきたぜ……」
「そ、それで!? な、何を話してたの……?」
「魔物の解体方法と弱点の話だな。バルが先生に、より効率的な仕留め方を教わってたみたいだぜ」
「よ、よかったぁ……不純な話じゃなかったんだね」
ラロは胸をなでおろし安堵の溜息をつく。
「でもよ、あんなに楽しそうに解体方法で盛り上がれる奴らだ。相当気が合うんじゃねえか?」
「えっ!? ……そ、それなら私も効率的な浄化の方法を聞いてくるね!」
焦ったラロは自分を奮い立たせるように足早に二人の輪へと突っ込んでいった。
その背中を見送りながら、レギンが呆れたように呟く。
「あまり焚きつけるものではないぞ、グルーよ」
「へっ。あの二人ぜんぜん進展しねえから見ててイラつくんだよ。これくらいが丁度いいっての」
グルーはニヤリと笑い、大きな欠伸を一つした。
「あ、あの! 私もお話に混ぜてもらってもいいですかっ......!」
顔を真っ赤にして割り込んできたラロを見て、バルは目を輝かせる。
「そうか。ラロもヴィブラム先生の魔体解剖学に興味があるんだな! 先生、ラロは本当に勉強熱心なんですよ。ぜひ昨日教わった『大百足の毒腺摘出』のコツを伝授してあげてください!」
ヴィブラム先生は丸眼鏡の奥で目を輝かせる。
「いいよ......まずはこのホルマリン漬けの頭部で練習しようか。失敗すると中身が噴き出すから気をつけてね 」
「ひ、ひぃっ......!」
数時間後。
ラロは、バルと先生の熱心すぎるレクチャーで大百足の身体構造に異様なほど詳しくなった。
望んでいたのはバルとの楽しいお喋りであって、解剖スペシャリストへの道ではない。
ラロは半泣きになりながら、安易に会話に飛び込んだことを、心底から後悔するのだった。




