閑話 純粋な善意の悲劇
学園・救護室
回復能力を持つクラス2の生徒達が、運び込まれる怪我人や病人を癒す実習に励んでいた。
その一角でラロもまた、己の能力の研鑽を積んでいた。
「是正宣光……」
ラロの光が事故で深く裂けてしまった患者の足を包み込んだ。
数十秒後、光が収まるとそこには傷一つない滑らかな肌が再生していた。
「ラロさん見事な手際です。治癒の力が格段に上がりましたね。日々の努力の賜物ですよ」
「は、はい! ありがとうございます!」
教師の言葉にラロは頬を赤らめた。
昼夜を問わず人体の構造を学び、次々と運ばれてくる負傷者を癒し続ける日々。
かつては擦り傷を塞ぐので精一杯だった力は、いまや重症をも治癒できるほどに強くなっていた。
(もしもバル君達が大怪我をしても、私が治してみせるんだ!)
その胸には、仲間を守るための静かな闘志が燃えていた。
-----------
学園・ロビー
「痛え。……ぐ、たまんねえなこの疼き」
ロビーのソファではグルーが自分の上腕二頭筋を愛おしそうにさすっている。
「昨日、かなり追い込んだトレーニングしてたもんね」
「グルー坊は加減ってものを知らないからねえ」
俺とカリーが呆れ顔で見る中、グルーは全身を襲う筋肉痛を噛み締めていた。
彼にとって痛みは強くなる証拠であり勲章なのだ。
「あ! グルー君体が痛いの?」
そこへ、治療の特訓を終えたラロが目を輝かせて駆け寄ってきた。
「おうラロか。いやよ、昨日の訓練が過去最高にやばく……」
「ま、任せて! 是正宣光!」
グルーが状況を説明するより早く、ラロが能力を発動した。
慈悲のない光がグルーの体を包み込む。
次の瞬間にはグルーの体から「頑張った証」である痛みが完全に消え去っていた。
「治療完了したよ!」
満面の笑みを浮かべるラロ。
対してグルーは魂の抜けた顔で自分の腕を見つめていた。
「……あ、ああ。……あ、ありがとうなラロ……」
一瞬、激怒しかけたグルー。
だが曇り一つないラロの純粋な瞳と成長を誇るような笑顔に押され、何も言えなくなってしまった。
「私まだ午後の訓練があるから行くね。またいつでも痛くなったら言ってね!」
そう言い、ラロは風のように去っていった。
「……お、俺の……筋肉痛が…………」
「どんまいグルー。また一緒に筋トレしような」
痛みがなくなった腕を虚しく回すグルーの背中は、心なしかいつもより小さく見えた。




