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ディグニティ・ストライド  作者: 果報寝待


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第2話 後悔で追うもの

 

 ガーウブ村にはまだ煙の匂いが残っていた。

 焼けた家屋。

 崩れた柵。

 消しきれない血の跡。

 目を背けたくなる痕跡がいくつもある。


 教会の庭にいくつもの穴が掘られている。

 誰も言葉を発さない。

 重い土を落とす音、時折誰かの嗚咽が混じる。

 怪我人も多かったが、それでも多くの村人がここに集まっていた。

 かつての家族や隣人は冷たくなっている。


 俺はカート爺さんの顔をまともに見れなかった。

 エマもアランも、涙を流し土をかけている。

 少し前までよく三人で爺さんに怒られたっけ。

 俺はカート爺さんに土を優しくかける。

 俺が……もう少し早く出て入れば……。

 何度もそう考えて喉の奥から酸っぱい物が上ってくる。  


 埋葬が終わる頃にはもう太陽は沈んでいた。

 普段なら足りないはずの食事も、今日は喉を通らない。

 カート爺さんが育てた豆を使ったスープ。

 収穫のたびに分けてくれたスープ。

 正直もう飽きるほど飲んでいた。 


 俺はいつの間にか涙を流した。

 父さんも母さんも何も喋らない。


「父さん、俺……強くなりたい……」


 父さんはこちらを見つめるだけで何も言わない。


「俺に戦い方を教えてよ!」

「……バル、強くなって何をしたい。力をどう使う気だ?」

「もう守れないのは嫌なんだ! 大切な物を踏みにじられない強さが欲しいんだよ!」


 しばらく沈黙が流れた。


「……いいだろう……怪我が治ったら修行をつけてやる、まずは食べて元気になれ」

「うん!」


 俺はスープを味わいながら食べた。


 ----------


 翌日、父さんに連れられ馬車で街へ向かった。

 村から半日ほどの距離にある街の治癒師に腕を診てもらいお金を払って傷を治してもらった。

 その次の日から修行がはじまった。


 まずは型からだ。

 拳の握り方、足の運び、剣の保持。

 地味で退屈だが、父さんは一切先へ進めてくれなかった。


 型が身についてからは、果てしない体力作りになった。

 父さんがよしと言うまで走り、剣を振るい、腕立てをする。


「まだだ」


 父さんの声が飛ぶ。

 腕が痺れているがそれでも剣を振る。


「しっかり握れ! まだ千回も振ってないぞ!」 


 吐くほど追い込まれても、無理やり食事を口に押し込まれた。

 栄養を摂らなければ体は作られない。


 体力がついてからは父さんは人が変わったようだった。

 父さんに向かって剣を振るがかすりさえもしない。

 叩かれ、殴られ、投げられた。


「どうした? 早く立て。守ると言ったのは口先だけか!」

「俺が......守るんだッ!」


 何度も母さんや近所の人、エマやアランが止めに入ったが俺が立てなくなるまで続けられた。

 俺も辞めることはしなかった。

 時には木の上から飛び降り、受け身の練習をしたり。

 寝る時以外は石を詰めたリュックを背負ったり。

 二日間の断食の後、父さんと戦うこともあった。


 気づけば雪が積もっていた。

 修行をはじめて、もう一度目の冬だ。

 俺の握る木剣は三本目になった。

 そんな修行を続けていたある日、ようやく父さんに能力の事を聞かれた。


「バルの能力、父さんに詳しく教えてくれるか」


 村から外れた空き地に二人で来ていた。


「手で触ったものとか、自分の体に力を与えられるんだ!」

「なるほど。能力編纂官には何と記録された?」

己力投写こりょくとうしゃって言われたよ」

「いい名前だな。実際に見せてくれ」


 俺は足元の石を拾い上げ無造作に放る。

 すると石は全力で投げたような速さで飛び、木に当たる。


「おお! どれくらいの力を与えられるか分かるか?」

「俺の力と同じだよ! あの石を俺が押してる感じなんだ」

「なるほどな、押す能力か。じゃあ次は父さんの番だな」


 父さんはそう言うと、木に近づき拳を振るう。


「フンッ!」


 ドォン! という衝撃と共に、巨木がミキミキと音を立て倒れる。


「父さんの能力はな、身体強化だ」

「す……すごいや」

「父さんとバルの能力は、似ているが全く違うものなんだ、分かるか?」

「俺のは触った物にも使えて、父さんは自分の体だけ……?」

「それだけじゃない。お前の能力は『付与』であって『強化』じゃない。つまり、与えた力に耐えられるかは別なんだ」


 説明は続いた。

 父さんの能力は皮も筋肉も骨も強く出来るが、俺の能力は力を与えるだけでその力に耐えられるかは別だと言うこと。

 石は当たったら割れてしまうし、自分の体に使うと耐えられずに怪我をすること。

 俺は盗賊を殴り、腕が折れたことを思い出した。


「じゃあ物を投げたりしか出来ないってこと!?」


 俺は父さんのように剣で戦えないと落ち込んでいると父さんはそれを否定する。


「違う、調整を出来るようになればいいんだ」

「調整って? 能力の?」

「ああ、与える力を全力じゃなくて少しだけにするんだ」

「そんな事できるの?」

「お前の筋肉だって常に全力じゃないだろ? ほとんどの能力はコントロールできる。今日からはそれの練習だ!」


 そうして能力の修行がはじまった。

 能力の調整が出来るまで、石を投げ続け。

 拳が割れないように、木を殴り続ける。

 能力の修行と並行して剣の修行も続いていた。

 能力を使っても父さんには一度も当てられない。 

 修行は辛いけど。

 俺が強くならなきゃ、もう踏みにじられないように。


 いつの間にか、母さんが俺を見上げるようになっていた。

 弟のローゾが走り回るようになり母さんを手こずらせている。

 俺が修行をはじめた頃はまだ泣赤ん坊だったのに。


 剣を振るたびに、あの夜の豆のスープの味を思い出す。

 忘れたくないと思っている。

 忘れてしまったら何のために強くなっているのかわからなくなる気がした。


 修行を初めて三年。

 俺はもうあの日の、弱い子どもじゃない。

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