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ディグニティ・ストライド  作者: 果報寝待


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2/7

第1話 渇望は誰がために

 

 神は観ている。

 だが決して降りてはこない世界。

 救いなき荒野で自らで立つしかなかった。


 火を生み出し、傷を塞ぎ、獣すら従える。

 それぞれが目覚めた能力を武器に、生きるため戦い続けていた。


 能力とはその者の魂が選んだ生きる力。

 与えられた力で何を描き、何を残すのか───


 ---------


 俺は木剣を握り全力で振るった。


「やあ!」


 隣から笑う声が聞こえる。


「ははは! バル坊またタカトさんの真似か?」


 俺の家の隣に住むカート爺さんだ。


「カート爺さんこそサボり? またおばさんに怒られるよ」

「うるせい。腰が痛くて動けねえんだよ」

「この前治して貰ってたじゃん!」


 そんな軽口を叩きあっていると後ろから声をかけられる。


「ただいまバル! また鍛錬か? 偉いぞ!」


 父さんだ。 

 俺は木剣を放り出し、すぐに抱きつく。 


「おかえり父さん! もう狩りは終わったの?」

「ああ! ウンガリーベアとゴブリンを何匹かな!」


 父さんは俺の頭をぐしゃっと撫でながら、後ろを顎で示した。

 そこには巨大なウンガリーベアが荷車に乗せられていた。

 やっぱり父さんはすごいや。


「いつもありがとうよタカトさん! ウンガリーベアなんて、村に出たら家畜が食われちまうとこだったよ。」

「俺にはこれくらいしか出来ないからな」

「それでうちの村は大助かりさ! いま人手を呼んでくるよ、さっさと解体しちまおう」


「父さん今日の戦いの話聞かせてよ!」

「畑仕事の手伝いが終わったらな、それまでにバルは母さんとお勉強だ!」

「……わかったよ」


 俺は父さんが大好きだ、片腕なのに大きな剣を振るいあっという間に魔物を倒してしまう!

 魔物と戦い村を守る父さんは俺の自慢で憧れだ。



「俺もいつか父さんのように魔物と戦うんだ!」

「はいはい、それにはお勉強もしなきゃよ」

「そんなのわかってるよ、母さん」


 母さんはまだ赤ん坊の弟をあやしながら俺に勉強を教える。

 正直お勉強より剣を振るっていたい……


 ----------


「それで爪を躱してズバ! っと切ったわけだ!」

「ふごいや!」

「こらっ、お口に入っているのに喋らないの」


 夕食の時間。

 父さんの武勇伝を聞くのが我が家の日常だ。

 でも、ふと母さんが顔を曇らせる。


「......でも最近、魔物が多くないかしら?」

「それは俺も気になっていた。特にゴブリンの数がおかしい、上位種が生まれたのかもしれないな」


 俺はスープを飲みながら話を黙って聞いて、理解出来ている振りをする。


「明日、村長達に相談してから少し遠くまで見回りにいくよ」

「まあそれなら誰か連れて行く?」

「カリーとバージを連れて行くから話しておいてくれ」

「わかったわ」


 カリーとバージは家にいるトカゲと鷹のことだ。

 母さんは動物と心を通わす能力があり、その能力で動物たちにいろいろ手伝いをしてもらう事が出来る。

 父さんも凄いけど母さんも村で頼られる。

 自慢の両親だ!


「バル、父さんが見回りの間は家族を頼んだぞ」

「うん! まかせて!」


 父さんに頼られた!

 イタズラをしないように言ったのかもしれないけれど、俺は嬉しかった。


 翌朝。

 父さんは夜明け前に出発し、俺はいつもの場所でいつもの木剣を振っていた。


「バルくんまた剣士ごっこ?」

「おまえも懲りないなー、タカトさんみたいになるのはむりだって!」


 村の同い年の二人、エマとアランだ。


「ごっこじゃないし、俺も父さんみたいに強くなるんだ!」


 エマもアランも少し前までは一緒に木剣で鍛錬していたのに、発現した能力が戦い向きじゃなかったからかこうして大人ぶってくる


「お前もさあ大人になれよ。どうせ戦いなんて出来ない能力が発現するんだから畑仕事覚えたほういいぜ?」

「うるさいな、そうなったって俺は魔物と戦うんだ」

「バルくんもアランもケンカしないでよー」


 そうしていつもの口喧嘩をしていると、慌てた様子の大人が走って来た。


「お前ら今すぐ家に帰れ! ゴブリンが村の近くに出たらしい!」

「「「え!」」」



 エマとアランは急いで家へ帰って行った。

 俺もすぐに帰った。

 家の扉を勢いよく開ける。


「母さん! ゴブリンが出たって!」

「まさか! どこにでたの?」

「ご、ごめん聞かなかったや」

「鍵閉めなさい! テーブルと椅子でドアを塞ぐわよ!」


 俺は母さんと一緒に準備をしていく。


「母さん、ゴブリンくらいで大げさじゃない? ゴブリンなんて俺でも追い払えるよ」

「油断しないの、数が多かったらどうするの? それに……お父さんが見逃すなんて嫌な予感がするの」


 母さんは弟が泣き出さないようにゆりかごを揺らしている。

 まだ赤ん坊だが不安を感じとっているんだろう。


 そうしていると外から声が聞こえてきた。

 人の声だ。

 俺と母さんは窓からこっそりと様子を伺う。

 そこにはゴブリンだけではなく、人の姿があった。


 ----------


 村の外れで、盗賊のボスは腕を組んで村を見渡していた。


「ボス、この村思ったより金になりそうですね」

「あぁ。腕利きの戦士をゴブリンの囮で釣り出した甲斐があったな」


 盗賊達はゴブリンを操って巣を作らせ。

 村の戦力を分断させていた。

 残っているのは女子供と老人ばかり。

 残っている兵士だけでは太刀打ち出来ないだろう。


「お前らわかってるな! 攫うのは女子供と金になる物だけだぞ! ゴブリンは囮だ好きにさせておけ!」


 ゴブリンは村に残しておき逃走の時間を稼ぐのも盗賊達の常套手段。 

 だが今回はいつものように上手くいくことはなかった──

 突如として村に鶏の声がけたたましく響く。


「うわ! 何だこの鳥!」

「助けてくれ! 噛み付かれた!」

「ボス! こいつら普通の家畜じゃねえ!」


 盗賊達に鳥が襲いかかり犬が噛みつき牛が体当たりをしていた。


「体が光っている?……まさか聖獣か! こんな辺鄙な村に!?」


 思考に耽る盗賊のボスに、牛が突進を仕掛ける。

 だが、牛は腰から放たれた長剣に首を落とされる。


「怯むな! こいつらは高値で売れるぞ! 鳥と犬は殺さず捕らえろ!」

「へい!」


 冷静さを取り戻したプロの盗賊達の前に、動物達の抵抗も次第に封じられていく。


「驚きはしたが……何とかなりそうだな」

「ボス早めにずらかりましょう。動物達が増えないとも限りません」

「ああ、そうするか」


 そうして盗賊達は家中に金品を奪いに行く。


 ----------


 盗賊の下品な笑いが聞こえる。

 聞き覚えのある声が悲鳴を上げた。

 燃える家の音が嫌でも耳に入る。


 母さんは少し前から目を閉じ、壁にもたれかかっている。

 離れた動物達と話をして盗賊と戦っているんだろう。

 だが窓から入る音で状況が悪いのは想像出来た。


「大丈夫……絶対守るから……」


 自分に言い聞かせるように何度も繰り返す。

 頭の中では父さんの言葉が何度も響いていた。

 『家族は頼んだぞ』


 俺はドアの先に居るであろう盗賊を睨みつける。

 外から無理やりこじ開けようとしている。

 恐怖に手が震え、父さんが助けに来るのを願ってしまう。


 (神様も父さんもここにはいない……俺が……俺がやるしかないんだ、大事な物を奪わせない為に!)


 体の内側から何かが湧き出てくる。

 優しい、けれど力強い光が俺を包んだ。


「俺が……俺が守るんだ!」


 その瞬間ドアが蹴破られ、下劣な笑みを浮かべた盗賊が踏み込んできた。


「へへへ、金目の物とガキよこせば殺さないぜ?」

「バル! 逃げなさい!」


 母さんが飛び起き叫ぶよりも早く、俺は走り出していた。


「やあぁぁ!」

「ははは! ガキが木剣で───」


 革鎧で受け止め俺を切り殺そうとした盗賊の胴体に、木剣がめり込み折れる。


「ぐぎゃ!」 

「はぁ……はぁ……」


 盗賊は壁に激突し、ピクピクと震えている。

 体の奥から何かが湧き上がり木剣を強く出来るのが理解出来た。

 俺の能力が初めて発現した瞬間だった。


 ----------


 他に抗う戦力がないか村を睥睨していた盗賊のボスは、聞こえてきた音に眉を寄せた。


「......なんだぁ? 今の音は」


 何かがぶつかった重い音。

 音がした一軒の家を睨みつけると、中から小さな影がふらりと現れる。


(ガキ? 中に入った野郎は何をしてるんだ......)

「おい! お前そこで何を──」


 問い質そうとしたボスの頬を、鋭い何かが掠めた。

 背後からぐしゃりと嫌な音が響く。


「ギャッ......!?」


 振り返れば、ゴブリンの頭部に石が深くめり込みその中身をぶちまけていた。


(投石! だが、ガキの腕で放てる威力じゃねえ......!)

「......中の野郎は……お前がやったのか?」


 先ほどの異音の正体を悟ったボスは嘲笑を消し、腰の長剣を抜き放った。

 目の前の少年が再び足元の石を拾い上げる。

 その手に触れた瞬間、ただの石が白く光を放った。


 --------


 能力の感覚は、自然と体の中に溶け込んできた。

 説明なんてない、ただ理解ができた。

 触れたものに力を流し込める。

 それだけで十分だった。

 石を投じる。

 石は白い尾を引き、矢となって空気を切り裂く。


「ギャッ......!?」


 カート爺さんの喉にナイフを突き立てていたゴブリンの頭部が弾け飛んだ。

 俺は次々と石を拾い、略奪にふける盗賊と魔物へ向けて叩き込む。


「よくも......よくも村をッ!!」


 放たれた石礫は敵の胴や足を砕き、のたうち回らせる。

 その中を蛇のような動きで石を回避しながら肉薄してくる影があった。

 大柄な男、手には長剣。


「ガキが能力に慢心したな! 死ねぇッ!!」


 振り下ろされる殺意、石を拾う暇はない。

 俺は咄嗟に、自分の右腕に能力を注ぎ込んだ。


「うあぁッ!」


 突き出した光り輝く拳がボスの胴体にめり込む。


「ぐぁぁッ!?」


 鎧ごと体を殴り飛ばしたが、同時に──

 バキッと嫌な音が俺の体に響いた。


「ッ......あッ、ぐ......!」


 凄まじい反動。

 俺の腕が能力の力に耐えきれなかったのだ。

 右腕は不自然な方向に曲がり、拳は潰れ、焼け付くような激痛が体を満たす。

 俺はその場にうずくまってしまった。


「こっ......この、クソガキがっ! よくもやりやがったな!」

「ぐぇッ......!」


 血を吐きながら立ち上がったボスが無防備な俺の腹を蹴り上げる。

 鎧に阻まれ、仕留めきれなかったようだ。

 俺の体は無様に転がり泥にまみれる。


「くっ......ッ!」


 立とうとしても、痛みが体の自由を奪う。

 盗賊の顔に残酷な笑みが浮かんだ。


「殺す......! 手足切り取ってバラバラにしてやる!」


 剣が振り上げられる。

 死が間近に迫り絶望した時。

 空高く一羽の鷹が飛んでいるのが見えた。


 父さんの鷹、バージだ。


「......よかった。守れたんだ......」

「ああ? 何を言ってやが──」


 言葉はそこで断ち切られた。

 盗賊の頭部が宙を舞い、落ちる。


「バルッ! 大丈夫かバル!」

「父さん......俺......ちゃんと守ったよ」


 駆け寄った父さんの腕の中で、張り詰めていた糸が切れた。

 激痛と疲労が押し寄せ、俺の意識は闇へと沈んでいった。

ご覧いただきありがとうございます。

本作が初めての投稿作品となります。

現在カクヨムでも並行して投稿しておりますが、より多くの方に読んでいただきたいと思い、小説家になろうでも投稿を開始しました。

ストックが切れるまでは毎日更新、その後は週に二話ほど更新していく予定です。

この物語を最後まで描き切りたいと思っております。

拙いところはあると思いますが少しでも続きが気になったらお付き合いいただけると幸いです。

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