第28話 世界の仕組みと法則
学園・訓練所
消毒液の匂いがまだ鼻に残っているが、俺達の体は万全に動くようになった。
だが全員で訓練所の隅で途方に暮れていた。
「むむむ……」
ラロが目を瞑りながら何やら唸っている。
「どうだ、いけそうか?」
「む、無理そう……」
「だめかぁー」
どれだけ能力を練り上げて精神を削っても、自分達の能力が先へ進む気配は微塵もない。
「やはり、ヴィブラム先生に直接教えを乞うほかあるまいな」
「そうだね。まずはどこに……」
「私のこと……呼んだ?」
背後から冷ややかな声が聞こえた。
いつの間にかヴィブラム先生が影に溶け込むように立ってた。
「そんな闇雲な訓練じゃ……時間の無駄だよ」
丸眼鏡の奥の瞳は俺達の試行錯誤を見透かしていた。
「ついておいで……第二覚醒のこと知りたいんでしょ?」
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案内されたヴィブラム先生の研究室は、薬品と紙の香りが混じり合う薄暗い空間だった。
壁一面の棚には書物が詰め込まれ、怪しげな液体で満たされた保存瓶の中には生物の器官が揺れている。
「机の上の物には触らないでね……君達の指程度なら溶かす薬品もあるから」
さらっと言ってのける先生にラロが顔を青くして身を縮める。
先生は無造作に椅子を並べ、俺達を座らせた。
「さて、第二覚醒の話をする前に……まずは基本から。君達は自分が能力に目覚めた瞬間を鮮明に思い出せる?」
「目覚めた時の記憶ですか?」
「うん、何を思ってどんな状況だった?」
その言葉に俺は意識を過去へ飛ばす。
盗賊に襲われ、逃げ場がなかったあの日。
「俺は……盗賊から村を守らなきゃ、戦わなきゃって……」
「そう、それよ」
先生は満足気に頷き、眼鏡を指で押し上げた。
「私は能力の発現と魔物について研究しているの。個々人の能力はどのように決まるのか……」
「そ、それはデヴァワン神様が選び授けると……」
「教会も授業もそう教えるね。けれどそれは違う。能力とは神が選ぶものではなく、本人が欲した時に何を望むかで決まるのよ」
「それは……教会の者が聞いたら不敬罪になるぞ」
レギンが緊張した面持ちで指摘する。
「君達は私を密告したりしないでしょ? 見る目には自信があるの……だから第二覚醒のことを教えたのよ」
そう言い先生は不敵に微笑んだ。
「バル君は『守りたい、倒したい』と願ったから、戦いに適した能力を得た。他のみんなは何を思ったのかな?」
「わ、私はたしか怪我をした鳥を……」
「治したくて? 祝福系はそういう状況が多いんだよ」
「我は英雄譚を聞いてそうなりたいとだな」
「なるほどね……そういうパターンもあるんだ」
グルーも絶望の中でポラちゃんを守りたくて能力が発現した。
先生の説明はあまりにも理にかなっているように思えた。
「でも、なぜこれほど重要なことが伏せられているんですか?」
「簡単さ……社会を維持するためだよ」
先生の声が少し低くなる。
「もしもこの仕組みが公表されたらどうなると思う? 子供達は皆、英雄に憧れて戦闘向きの能力ばかりを望むだろうね。そうなれば、作物を育てる力も、天候を読む力も、病を癒す力も失われて国は内側から崩壊する。だから上はこのことを秘匿して人口を維持しているんだよ」
なるほどとレギンが重く頷く。
「……確かに。誰もが英雄を望めばパンを焼く者すら居なくなるな」
「じゃあ第二覚醒もその望みに関係があるんですか?」
「大ありだよ。第二覚醒とは鍛え抜かれた能力に、再び魂からの望みを注ぎ込む行為だ。もっとも、サンプルが少なすぎて私の仮説だけどね……」
先生は椅子から立ち上がり、カーテンを開けて窓の外を見つめた。
「もしも君達が第二覚醒に至ったら……真っ先に私に報告してね」
「もちろんです。貴重な話、ありがとうございました」
俺達が立ち去ろうとした時、グルーがぼそりと不安げな表情で呟いた。
「……先生。報告したら……解剖したりしねえよな?」
ヴィブラム先生はこちらを振り返り、ふっと目を逸らした。
「…………しないよ。たぶんね」
俺達は顔を見合わせ、研究室を後にした。
教えないほうが身のためかもしれない。
全員の意見が一致した瞬間だ。




